122 告発
とりあえずパルスから送られてくる金は、向こうが宿帳の記載なんかで勝手に俺を追いかけて渡してくれる形にしたし、見つからない時はカミヤさんの所に届けてもらうって事で話は付けれたから、身を隠したい時は何とかなるかな。
何とかなると良いなー
「リャーお帰り」
パルスとの話を終えて、少し疲れながらテントに帰るとアラが笑顔で出迎えてくれる。ああ、これだけで癒されるなー
なのにな。
「ごめんなアラ、帰ってきてすぐだけどすぐにまた行かなきゃダメなんだ」
「えー、リャー」
うーん、そんな悲しそうな顔をされちゃうと俺も行くのが辛くなるな。とは言え行かない訳には行かないよね、俺の方から参加させてくれってラッドに頼んだ事なんだし。
「お土産にお菓子を買ってくるから、いい子で待ってるんだぞ」
「分かった、すぐ帰って来てね」
少し泣きそうになりながらだけど言う事を聞いてくれたアラの頭を撫でてから、荷物の中に隠しておいた木箱を取り出す、これが上手く行くといいんだけどね。
「リャー、それなーに」
「大したものじゃない、ちょっとした贈り物だ」
アラに見せない様にプラモデルのケース程度の箱を持ってから僧兵団の居る辺りへと向かった。
「ようし、各自しっかりと加重を掛け最後の10レップだ、急いで姿勢を崩す事無くゆっくりと行え」
『おうっ』
な、なんだ、僧兵団の一角からとんでもない叫び声が響いて来たけど一体、まるで体育会系の部活か軍隊みたいな……
『8、9、10っ』
「よーし腕を曲げたそのままの姿勢で60数えるまで維持だ、貴様らの信仰心を行動で見せてみろ」
『おう!1、2、3、……30……』
うわースゲー声だな、だんだん声がデカくなってくるけど、この方向はそうだよね。なんかヤな予感が……
ああ、やっぱりだよ、スキンヘッドの集団が鎧を着たまま地面に両手をついて腕立てしてるよ、しかも背中に人や荷物を載せた状態でやってるって。
「まだまだ、お前らはこんなものじゃないだろう、立ち上がれ大神官猊下の御為にショルダープレスを10レップ、4セット、その後そのままスクワットに移行するぞ」
『おお、大神官猊下に栄光あれ、1、2』
立ち上がった、僧兵達が両手を頭上に掲げると、さっきませ背中に乗っていた僧兵達がその手の上に飛び乗り、そのまま乗られた僧兵達が腕を上下させる。
「完全武装の僧兵がバーベル代わりかよ」
「よーし、よくやった、貴様らの頑張りはライフェル神も御照覧された事だろう、これにて終了とする、体操後ただちに栄養補給を行うように」
『おう』
なんだよこの体育会系のノリは、しかし金属鎧を着て装備と盾を背負ってあの動きってそりゃあ腕も太くなるわ。なんだみんなストレッチしてから一か所に並んで列を作ってるけど。
「キビキビ並べ、自分の分を取ったらすぐに移動しろ」
テーブルの上に並べたカップに何か粉と水を入れてるけど、一人一人取ってから蓋してシャカシャカ振ってるけどあれはまさか……
「おお、リョー殿いらしたか、我らも修練後の体力錬成が終わったところでして、これを飲み終わりましたら早速向かいましょう」
ガチムキの腕やツルツルの頭部に大玉の汗を浮かべたラッドが、さわやかな笑顔を浮かべてから右手を腰に当て左手に持ったカップを傾ける。
(なあ、ラクナあれって)
(運動後の栄養補給じゃのう、豆や干薬草などを粉末にしたものじゃ。なんじゃお主は知らぬのか、あれは……)
(もういい、わかった)
だってあれどう考えてもプロテインだよね、筋トレ直後に飲むとかさ、まんまだし。となると持ち込んだのは間違いなく『勇者』だろうね、こっちの世界で栄養学とかが有るとは考えにくいし。
「お待たせいたしましたリョー殿、ここ数日はボス攻略の準備の為に僧兵達の出撃を控えているので、代わりにこうした修練をしないと鈍ってしまうので」
やっぱり脳筋なんだろうなこの人は。
「いや別に良い、会議まではまだ時間が有るしな」
「確かに今から向かっても余裕が有りますな。おお、そうだリョー殿がいらしたら渡そうと思っていた物が有りました、アレを持ってこい」
ラッドに命令された僧兵の1人が皮袋を持ってくるけど、なんだろジャラジャラ言ってるから宝石とかかな、仕事が増えたから追加報酬なのかな。
「ん、なんだこれ石か」
皮袋に詰まってたのはまん丸の真っ白な石、感じ的にはピンポン玉とかゴルフボールみたいだけど。
(ほう『魔骨弾』とは珍しいのう。これは力ある魔物の骨を加工して作る物で、魔法を封じており『照明』の魔法をかけると一定時間後に封じられた魔法を周囲に放つ事が出来るのじゃ)
なるほど魔法の爆弾ってことね、うんバトル系ファンタジーのゲームとかじゃたまにあるよね。
「仮にも『勇者』であるリョー殿にこのような物が必要か疑問ではあるのですが、大神官猊下からもしもボスと当たる事となった際は渡すよう言われていた為」
(ラクナ、『勇者』にいらないってどういう意味だ)
(ふむ、人の手で物に魔法を込めると言う事が難しいためあまり威力がないのじゃ。しかも使い捨ての為、お主が持っておる『雷炎』『氷水』『風砂』の指輪の様に成長する事も見込めぬ、これらの弾には『雷撃』が込めてあるがこれだけで仕留める事は難しく相手を痺れさせるのが限界じゃろう、それもオーガなどならともかくフロアボスなどには通じぬ)
なるほどね、普通の『勇者』なら範囲攻撃スキルを一発撃った方がよっぽど楽だよね、しかもほとんどの『勇者』は『闘気術』を取ってるから『照明』の魔法を使えないし。
とは言え俺にとってはちょうどいいかも、使いようによっては結構役に立つと思うから。てかどうせならもっと早くくれれば良かったのに、そうすれば変異種オーガの生け捕りも楽だったし。
うん、これってうまく使えば結構いろいろ便利そうだよね、例えば……
後で『拠点』にいる職人連中に出来ないか聞いてみようかな。
「さて、そろそろ行きましょうか、何かあって遅れても馬鹿らしい話ですし」
とっと、また考え込みかけてたかな、さてと、それじゃあもうすぐ本番だ。
「それでは、我々ライフェル教の僧兵団より提案が有るのですが」
ラッドが片手を上げて話を切り出す事でやっと会議が動き出した気がするな。
今までは現状の確認ばっかりで特に新しい提案が無かったもんな。せいぜいが今まで通り鬼とゾンビを減らしていきましょう、その役割分担は……ぐらいな話だったから。
そのせいで会議の空気も悪いし、主催してるクレ騎士団の連中はよりによって地元の『迷宮』がこんな事になったせいでお通夜みたいな感じだもんな。このままこの『迷宮』がアンデッドの住処になったら『鎮静化』も難しいだろうし『活性化』が起こった時の対応もきつくなるだろうからね。
シルマ家も殆どの連中が魔法が使えるって事でアンデッド討伐に駆り出されてるらしくて、かなりの戦果を出してるみたいだけど、その分被害は他の参加者の比じゃないらしいもんな。エルは黒い翼に包帯を巻いてるし、ガルの野郎もせっかくの高そうな服がボロボロで機嫌悪そうだな。
マイラスはさっきからムスッとしてて黙り込んでて、レネルが代わりに報告をしてたし。
「ライフェル教からですか、となりますと」
アクラスの代理として参加していたパルスが訳知り顔で頷いてる。
「左様、ボスを排除してこの『迷宮』を鎮静いたします」
「危険だ、この『鬼族の街』は長い間放置されており、新たな変異種も確認されている。現在のボスが何なのかすらわからず、フロアボスの排除も済んでない状況での強行軍となれば、下手をすれば『迷宮』へ霊気を供給するだけにしかなりかねない」
真っ先に反対してきたのはクレ騎士団か、まあそうだよね『地虫窟』がちょうどそんな状態になってるって言うのに、ここの『迷宮』まで『活性化』寸前になっちゃったらもうお手上げだろうからね。あ、シルマ家の連中が肩身が狭そうな顔してるよ。
「騎士団のご懸念はごもっともですが、ラッド様の御意見も分かります。このままではこの『迷宮』は『鬼族の街』では無く『不死者の街』と名を変える事になりかねません。かなりのアンデッドを討伐したとはいえ『型』が出来る前に一体残らず排除できるかは微妙でしょうから」
パルスはこっちの味方か、なら後は騎士団さえ説得出来れば大丈夫なのかな。
「確かにそれはそうだが、万が一『活性化』となれば……」
「それに関しては心配はいりませぬ、今まで黙っていた事は心苦しいのですが大神官猊下より『迷宮』に異常あらば直ちに『鎮静化』に当たるよう御指示を受けており、その為の手配もしております」
これってやっぱり不味いのかな、戦力の過少申告だろうし。
「な、ですがライフェル神殿の戦力は40名のはず、それだけの兵力がすべて抜けては『拠点』の維持に支障をきたします。と言って兵力を削ればボスまでたどり着くのも難しいのでは」
ああ、そっか僧兵連中はみんな屈強なマッチョだもんね、それが丸々抜けたら戦力ダウンも大きいよね。特に今回参加してる冒険者は新人が多いらしいし、熟練者は変異種オーガ狩りが一段落したらほとんど帰っちゃったって噂だからね。
「動員するのは十数名程度になるでしょうがそれも考慮して精鋭を集めております。例えばこちらのリョー殿は我らが懇意にさせていただいている冒険者ですが、その実力は折り紙つきで先日もフロアボスと思われる個体を撃破しております」
げ、いきなりここで俺に話を振るのかよ。
「おお、リョーと言えば『百足殺し』の」
「あの『青毒百足』を撃破したほどの実力ならあるいは」
おお、なんかいい感触なんだけど。
(『地虫窟』と『鬼族の街』では『迷宮』としての格が違うからのう、そこで活躍できるのならと思うじゃろうの)
まあ、ムカデ倒したのは半分自爆みたいなやり方だけどね。
「だが、『青毒百足』は入り口近くまで上がって来ていた物だ、それを倒す能力と、『迷宮最深部』まで戦い続ける能力を同一視しても良い物だろうか」
確かに戦闘能力だけじゃなくて持久力も必要になるもんね。
「心配は御無用です、詳細は言えませんがこの件に関してはライフェル神殿が責任を持って対処する事をお約束しましょう」
「おお、それならば」
「ラッド殿がそこまでおっしゃられるのならば一安心ですな」
な、なんだいきなり話が纏まりだしたぞ、どうなってるんだよ。
(ラクナ、これはどうなってるんだ)
(『迷宮』での事についてライフェル教が全力を出す、あるいは責任を持つという事はの、何かあれば『勇者』が出てくる用意をしておるという事じゃ)
なるほどね、まあ普通の『勇者』はみんなチート野郎だから出張ってくればそれだけで戦闘の問題は全部解決しちゃうのかな。
まあ『勇者』は出て来るまでも無くここに居るんだけどね、いつ出てくるかは言ってないし、『勇者』を投入してるのは本当だからラッドが嘘を吐いてる訳じゃ無いよね。
「ライフェル教がそこまでして頂けると言うのならば、もはや懸念する事は何もありませんな。お任せいたしましょう、我らはこれまで通り不死者の駆除に当たるという事でよろしいか各々方」
とっと、マズイこのまま会議が終わっちゃったら何のためにここに来たのか解らなくなるところだった。
「少々よろしいでしょうか」
営業スマイルを浮かべて最近使ってなかった敬語を意識しながら一歩前にでる。パルス達に対しては今更だけどこの場には初対面の騎士達が居るからね、いきなりタメ口って訳には行かないよね。
「『百足殺し』か、幾ら優秀な冒険者とは言えこの場で勝手に発言するとは、立場を弁えて頂きたいな」
議長役だった騎士が不満そうに睨んでくるけど、やっぱそうだよね。会社の会議だって部外者同然の人間がいきなり発言を求めてきたら睨まれるもんだし。
「ご不快はごもっともですが、どうしても皆さんの前で確認したい事が有りまして、これは重要な事だと思いますので」
「リョー様、一体何を確認したいのでしょうか」
パルスが乗って来たか、よしよしこの場での地位が一番高い彼女が興味を示せばこっちのものだ。作戦なんかは主催者のクレ侯爵家の方が優先権が有るだろうけど、これ自体は別に戦闘に関する事じゃないからね。
「大したことじゃありません、なぜこんな事態になったかその原因を作った人物を特定できればいいかと思いまして」
事前に用意していた木箱を机の上に置いてゆっくりと全員の顔を見回す。プレゼンのまね事なんていつ以来だろ。
「ふ、ふん、そんな事が出来る物か」
「いいではないですかラマイ子爵、出来なくても今まで通りですし、もし解れば運が良かったくらいのつもりで居れば」
文句を言いながら睨みつけてきたマイラスをパルスが宥めてくれたけど、あの顔はこの状況をどう利用して利益を上げるか考えてるんだろうな。
マイラスの方は不愉快だけど、バレル筈が無いって思ってそうだな。
「それでリョー様、どうやって下手人を見つけるのでしょうか、おそらくはその箱の中に証拠の品が有るようですが、あまり焦らさないでくれませんか」
パルスの言葉で、その場にいる連中の視線が机の上の木箱に集中したな。よしよし。
「それでは開けますが、危ないかもしれないので少しだけ離れてください」
会議の参加者たちが少し身を引いたのを確認してから蓋を開けると、それを見た連中がさらに後ろに下がる。
「これは……」
「なんと」
「下がれ危険だ」
「騎士団長閣下をお守りしろ」
「魔法兵か魔法士を呼べ」
パニックを起こしかけて勝手に叫んでる連中の視線を受けた箱からは、肉の無い白骨だけの手首が飛び出し、五本の指を交互に動かしてたった一点を目指す。
奥の方に座っていた金髪の美青年の元へと。
すいません、諸事情で次の投稿は遅くなりそうです。
H27年11月19日 誤字修正しました。
R2年1月03日 トレーニング描写を修正しました(数だけこなすトレーニングでマッチョになれるか!!)




