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第21話:隠された真実

 会議の空気は重く沈んだまま、次の議題へと移っていった。


 モニターに映し出されたのは、十数年前の記録映像だった。研究都市の外縁で撮影された断片であり、保存状態は粗い。画面の中には、真田宗一郎博士の姿が映っている。


 若き日の宗一郎は、白衣を翻し、何かを護るようにしゃがみ込んだ。音声は途切れ途切れだが、「やめろ……これは人類の未来に関わる……」という声だけが鮮明に残されていた。


 黒崎の視線がモニターに釘付けになる。瞳には抑えきれぬ憎悪と哀切が入り混じり、鋭い影を帯びていた。


「……あの男の声を聞くと、いまだに血が騒ぐ」


 誰に向けたとも知れぬ低い呟きだった。隣席の部局長が怪訝そうに黒崎を振り返るが、問いただす勇気はなかった。


 白峰が静かに言葉を挟む。


「黒崎。君は、宗一郎博士と直接的な因縁があると聞いている」


「因縁……?」


 黒崎は口角をわずかに吊り上げた。


「あれは因縁などという生易しいものではない。奴の選択が、どれだけの兵を無駄死にさせたか……貴方は知るまい」


 会議室がざわついた。宗一郎は科学者としての功績ばかりが記録省に残されている。だが黒崎の言葉からは、別の歴史が透けて見えた。


「十数年前、あの研究都市で何があったのか。我々の記録には断片しか残されていない。だが君は知っているようだな」


 白峰の声は探るように冷ややかだった。


 黒崎は答えず、ただ拳を強く握り込んだ。その手が机に影を落とし、血管が浮かび上がる。


「……真実はまだ葬られちゃいない。いずれ誰かが掘り返す。ならばその芽は、今ここで断つべきだ」


 白峰は鋭く黒崎を見据えた。


「それは職務としての判断か? それとも、個人的な復讐心か?」


 一瞬、会議室の空気が凍りついた。

 黒崎の瞳が白峰を射抜く。だが彼は答えなかった。


 代わりに、黒崎はわずかに視線を逸らし、モニターの中の宗一郎の姿に釘付けになったまま言った。


「奴の息子――真田翼が動き出している。それが偶然だと、本気で思うか?」


 その言葉に、会議室の誰もが沈黙した。

 翼という存在が、単なる監視対象以上の意味を持つことを、誰もが薄々感じていたからだ。


 白峰はしばし黙し、やがて重く口を開いた。


「……真田宗一郎の死には、未だ公表されていない事情があると聞いている。黒崎、君はその一端を握っているのだろう」


 黒崎は薄く笑った。


「知りたければ、己で掘ることです。だが覚悟しておいてほしい。真実は貴方が思うよりも深く、汚れている」


 会議室に再び沈黙が訪れた。

 黒崎の言葉は、脅しではなく、警告のように響いた。


 白峰は椅子に背を預け、深い皺を眉間に刻んだ。


「真田宗一郎の死因は、記録上では研究中の事故とされている。しかし……君の言葉が事実ならば、我々はとんでもない虚偽の上に都市を築いていることになる」


「虚偽ではない」


 黒崎が低く遮った。


「必要な隠蔽だ。――あれは、知られてはいけない。あの真実が明るみに出れば、秩序は一夜にして崩壊する」


 その声には、確信と狂気が入り混じっていた。


 白峰は唇を引き結び、冷ややかに言葉を返した。


「秩序を守るために真実を隠すのか……それとも、真実を隠すために秩序を利用するのか。君の論理は、その境界を危うくしている」


 黒崎は笑いもせず、ただ無言で白峰を見返した。


 やがて、会議は形式的に終結を迎えた。各部局長たちは足早に退室し、重い扉の奥へと消えていった。残されたのは白峰と黒崎、二人だけ。


 窓の外には、朝の光が都市を照らし始めていた。均整の取れた街並みは、秩序そのものの象徴のように美しい。だがその美しさを見つめる二人の心には、全く異なる影が渦巻いていた。


 白峰が静かに口を開いた。


「黒崎。君がどこへ導くのか……その行き先が、この都市の未来を決める」


 黒崎は窓の外に視線を移し、冷ややかに答えた。


「未来などというものはない。あるのは選択の連鎖だ。そしてその選択は、必ず血で測られる」


 その声は低く、揺るぎない。

 窓に映る彼の横顔には、かつて戦場を渡り歩いた者の痕跡が刻まれていた。


 そして、誰にも聞こえないほど小さく――


「……あの子も、同じ目をしていた」


 黒崎は、そう呟いた。

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