バンドに会いにいこう
なにはともあれ久保と繋がることが出来た。
図書室での一件以来、学校でも声を掛けられて雑談することも少なくない。
話はもっぱらBase Areaの話題だが。
きっかけを与えてくれた浅倉には感謝してる。
次は浅倉の想いに応える番だが…。
「松本くん、BAの次のライブ決まったよ」
「え?いつなの?」
「今度の土曜日だよ」
「場所はZONE?」
「うん」
「そっか、行かなきゃだね」
「もうチケット買っといたから」
「はやっ!」
「当然(笑)」
「そういや、まだ聞いてなかったけどBAのメンバーで推しはいるの?推しメンってやつ」
「ギターのナオ!ギターは勿論だけどトークも面白いの」
「ムードメーカーってやつ?」
「そうかもしんない。ウツが何ていうかクールでカリスマ性があるボーカルだからその対比が見てて面白い」
ナオさんには悪いけど久保がイケメン好きじゃないことが分かってホッとしてる。
ウツさんがイケメン過ぎるだけであって、ナオさんのビジュアルがイケてないわけではないのだが、二人を比べるとどうしても、ね?
「他に誘いたい人いたら教えてね。チケット用意しとくから」
「うん、ありがとう」
他に誘いたい人か…。
となると一人だけだな。
「業務連絡です。次のBAのライブが今度の土曜日に行われることが決まりました。つきましてはチケットの方もこちらでご用意させてもらいますが、いかが致しましょう?」
こんな文面で浅倉にメール送った。
「お疲れ様です。あいにくですが、その日は都合が悪いので、チケットの件は丁重にお断り致します。何かあれば連絡ください」
何もツッコんでこなかったな。
あ、続けてメールきた。
「追伸。デートの邪魔するような野暮な真似は致しませんよ」
気を遣われたか。
そしてあっという間に土曜日がきた。
「お待たせ!」
「大丈夫、今来たとこだから」
「それじゃ行こうか」
あの日以来のライブハウスZONE。
店長の貴水さんに挨拶しとかなきゃだ。
もう人けっこう集まってるな。
「あ、松本くん久しぶり!」
店長のほうから僕に声を掛けてくれた。
「ご無沙汰してます」
「来てくれてありがとう。あれ?今日は久保ちゃんと一緒なの?」
「店長こんばんは」
「久保と知り合いなんですか?」
「だって、BAのライブによく来てるからそりゃ覚えるわよ。顔も可愛いし」
「やっぱり私可愛いんだ(笑)」
「僕たち同じ学校なんですよ」
「そうなんだ。こないだの人も美人さんだったし、モテるのね」
「こないだの人って?」
「あ〜、あの人はライブの相方みたいな人でそんな特別な関係ではないです」
「ふーん、まぁいいや」
「ふーん、私もまぁいいや」
なんか悪いことしてる感じだが、間違った説明ではないはず。
いつかちゃんとした説明するから。
「地方のライブ終わったばかりだから凱旋帰国って感じかな?」
「おっ?ここをホームと言ってくれてるの?嬉しいじゃない」
「他と比べてライブ回数多いだけだから(笑)」
「さすがバンギャだ。回数まで把握してるのか」
店長との雑談も終えて、僕たちはドリンク片手にフロアに向かった。
久保からは目立つように最前列に陣取ろうと言われそれに従った。
「ネットで見たけど地方はまだ動員厳しかったみたい」
「え?そうなの?」
「まだまだ全国区にはほど遠いって感じかな。私たちももっと応援しないと」
けっこう名前は知られてると思ってたが、BAでもその程度なのか。
バカにしてるわけでは無いが、現実の厳しさを知った。
名を売るために積極的に地方に出てることがいつ実を結ぶか想像もつかない。
バンドとはそういうものなんだろう。
成功してる人などほんの僅かな人たちのみ。
夢を掴むためには金もかかる。
宝くじで1等当選より確率低いだろう。
始まる前から重たい気分になってきたな。
定刻18時。
メンバーの登場。
ライブが始まる。
今いる位置から足元に貼ってあるセットリストの紙が見えた。
どうやらBAなりのベストヒット選曲らしい。
ヒット曲などないのにベストヒットと呼ぶのはおかしいのだが、ファン人気の高い曲を並べたと言えば分かってもらえるだろう。
「こんばんは、地方のライブを終えて、このライブハウスZONEに戻ってきました。やっぱここは温かいね。実家って感じで」
「コタツにみかんって感じ?」
「あとお雑煮もね」
「くつろぎすぎだろ!」
え?BAのライブってウツさんとナオさんでこんなMCもするの?
「今日はトーク&ライブの日かも?」
「え?どういうこと?」
「BAのライブは基本そんなにMCないんだけど、気まぐれでMC多めの日があるの。それが今日かもしれない」
バンギャの久保が言うならそうなのだろう。
通りでセトリの紙に書いてあった曲が少ないと思った。
これはこれでお客さん楽しめるのかな?
久保の言った通り、トーク多めのライブだった。
クールに演奏するのもカッコいいが、メンバーの素の部分が垣間見れるという点では貴重なのだろう。
いわゆるギャップ萌というやつか。
ひと粒で2度オイシイみたいな。
そんなオイシイライブも最後の曲を残すのみとなった。
「このライブが終わればしばらく曲作りに入ります。新曲引っさげてまたライブやるので、それまでお楽しみに!」
新曲…!
浅倉の作った曲をバンドにアピールするチャンスだ!
あ、でもまだメンバーじゃない。
どうする?どうする?
考えてるうちに最後の曲が終わった。




