図書室にて
あのライブから数日経った。
ライブハウスに出演してBase Areaと一緒に演奏するという当初の目的のうち2つは果たすことができた。
しかし、3つ目の目的であるBAへのメンバー入りが不透明のままだ。
当初の予定であったBAの演奏中に突如乱入という形ではなくメンバーから誘いを受けての共演だったので、どちらかと言えば好印象を与えることになったと自負しているが、そこから何もなく今に至る。
僕も困惑しているが、浅倉はさらにそうだ。
ようやくスタートラインに立ったと思いきや、前に進まずにいる。
ー 学校の図書室にてミーティング ー
「あれから連絡ありましたか?」
「いや、何も。そもそも連絡先交換してないし」
「ですよね…」
二人とも困り果てて途方に暮れている。
あの日の気まぐれで一緒にやろうと言われただけだったのか…?
演奏はバッチリだったと思うし、ステージでのメンバーの表情からもそれは窺えた。
そもそも一緒に演奏したからメンバーになれると思ってること自体が浅はかなのか?
強烈なプッシュが必要だったのか?
「今、地方にライブ行ってるんだよね?こっちに戻り次第、ライブハウス行ってみようか?」
「それしかないですかね」
浅倉の言葉にも力がない。
万策尽きたのだろうか。
そう言うと浅倉は図書室から出ていった。
後ろ姿も寂しい感じがした。
しばらくすると入れ替わる形で他の生徒が入ってきた。
久保だ!
久保みつ子だ!
そういやあの日のライブの感想聞いてない。
そもそもまだ知り合いでもないから聞けるはずないのだが。
うーん、気になるな。
さりげなくライブ会場にいたのを見かけたと声を掛けるか?
でも、それだとBAのメンバーになってから仲良くなるという当初の目的から外れることになる。
「…!」
僕を見つけた久保がこちらに早足で近づいてきた。
「あなたもしかしてT28?」
「…?!」
「やっぱり噂はホントだったんだ」
「噂って何の??」
「この学校にT28がいるって噂」
「(誰がそんな噂を流したんだ?)」
「そうでしょ?間違いないでしょ?」
「ええ、まあ…」
「スゴイスゴイ!本物だ!」
少し離れたところに席をかえて向かい合わせで座った。
「改めまして私、久保みつ子。よろしくね」
「僕はT28…じゃなくて松本哲哉」
「テツヤだからT28ね、そのままじゃん(笑)」
「噂流れてるにせよ、よく分かったね」
「だって私BAのライブ通い詰めだから」
「この間のライブどうだった?」
「急にメンバー増えてビックリした(笑)」
「BAファンから歓迎されてたかな?」
「正直戸惑ってたファンが多かったかな」
そりゃそうだろう。
どこの誰だか分からないツナギ野郎が突然バンドの演奏に加わるのだから。
「でも、私は悪くないと思ったよ」
「えっ?ホントに?」
「うん、何か足りないものを埋めた感じがして」
「…」
「ところであれってあの日限りなの?」
今、僕が一番知りたいことだが、バンギャの久保にとっても気になることなのだろう。
「あの日限り…なのかな?うん」
「メンバーから何か言われてないの?」
「それがあの日メンバーたちは出番終わって即逃げだったから挨拶もしてなくて。連絡先も交換してないし」
「そうなんだ、1回限りだと勿体ないよね」
どうやら久保にはあの日のライブが好意的に思われているらしい。
「今度またZONEでライブやるから一緒に行かない?そこでメンバーに会えるかも」
「え?誘ってくれるの?」
「私もいろいろ話聞きたいし。いいよね?」
いいも何も願ったり叶ったり。
僕自身の当初の目的は久保と仲良くなってゆくゆくは交際したいと思ってることだから。
「それじゃ、誘われようかな」
「じゃあ、連絡先交換しよ」
お互いスマホを取り出した。
「それじゃライブ前に連絡するから」
そう言うと久保は借りてた本を急いで返して帰って行った。
しばらくするとまた入れ替わるような形で他の生徒が入ってきた。
浅倉だ!
「上手くやりましたね」
悪そうな顔して言った。
帰ったんじゃなかったのか?
どうやら事の顛末を陰から見ていたらしい。
「偶然にしてはだけど。ん?偶然?」
「私が例の噂を流した張本人です」
「え?!さっき久保が言ってたやつ?」
「そう、SNSとか駆使して頑張りました」
そうか、通りでスムーズに事が運んだわけだ。
「久保さんが声を掛けてきたのはたまたまですけど、バンギャの彼女ならいつかは気付くかなと思ってはいました」
「直接久保に言えばよかったんじゃないの?」
「私が人見知りなの知ってるでしょ?」
「確かにそうだけどさ、クラスメイトでしょ?」
「これで次に繋がるきっかけが出来ましたよね?」
「そうだな、彼女はBAのメンバーにも顔は割れてるし、メンバーと話せる機会が生まれるかもしれない」
「次いつ会うんですか?」
「いや、まだそこまで決まってないけど」
「奥手ですね、押して押して押しまくってくださいよ」
応援されてるのか別の意味で必死なのか分からないよ…。
とにかく次に繋がるきっかけは出来た。
それだけでお互いホッとしたことは事実だ。




