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第二話:出発と道中の町で荒くれ退治


 翌日、俺とエルマの二人は様々な人達に送り出されていた。


「頑張ってねぇ、アルス! おばさんも応援してるからね!」

「辛くなってきたら、帰ってくるんだぞ! いつでも待ってるからなー!」

「これでアルスより遅く帰ってカミさんに怒られなくてすむぜ!……イテテテテ!」

「もう、このロクデナシったら! ……アルマちゃんも、気を付けてね!」


 温かい言葉で胸を一杯にさせながら、村の入り口に立つ。

 小さい時から面倒を見てもらったテレーズさん、大人の男として色んな事を教えてもらったカイルさん、俺と同じ狩人の仕事をしていたグレアムさん、その奥さんのダリアさん。

 皆が皆、俺たちにとって恩人と呼ぶべき人たちだった。


「ありがとう、皆!」

「行ってきます」


 そんな出迎えをしてくれた皆に、俺は決意を固める。

 俺たちは必ず勇者の仲間に入れてもらって、人間を苦しめる魔王軍を討伐するのだと。




 手を振りながら村を離れて行った俺達は、故郷が豆粒ぐらい小さく見える程歩いた後に言葉を交わす。


「……今日はちょっと暑いな、エルマ。体力は大丈夫か?」

「兄さんったら、心配しすぎよ。私だって、神様から力を授かったのよ? あれから体力には自信があるんだから!」


 エルマはほがらかに笑って、俺に元気な顔を見せた。


「ハハ、悪い悪い」


 何だか俺も元気を貰った気分だ。

 そして、ふと思い出す。


「そうだ、エリックに持たされた物を確認しなきゃな」

「そういえば兄さん、昨日帰り際に話をしてたよね。さっきの出迎えには来てくれなかったけど、エリックさんとお別れは済んでたの?」

「ああ、一体何を持たされたのやらだ。村を離れるまで開けるなと言われたけど、見てみよう」


 エリックは結局別れの挨拶を昨晩の内に済ませてしまった。

 神妙な面持ちで俺に別れの挨拶をした後、小さな袋を渡して来たのだ。

 エルマにちゃんと挨拶したかったのだろうが、あいつもあいつで複雑な心境なんだろうか。

 あまり大っぴらに旅立ちの話を広めなかったのは失敗だったかも知れない。


「さて……」


 俺は荷物の中から小さな袋を取り出し、それを開いてみた。

  

「おお。木の実か」

「わあ、こんなに沢山! 集めるの、苦労したんじゃないかなぁ……?」


 中に入っていたのは、疲れが取れるという少し珍しい木の実だった。

 そして中には一枚の紙も入っている。


『この中に一粒だけ、死ぬほど辛い物を仕込んでおいた。震えて食え』


 それだけが書かれた物が。


「あ、あいつ! ハハッ!」

「エリックさんてば、こんな悪戯するなんて!」


 俺が吹き出すと、釣られてエルマもクスクス笑う。


 思えば、これも奴なりのエールなんだろうな。

 道中疲れた時にこれを食べて、元気を付けろと。

 そして「当たり」を引いた時には、エリックへの恨み言を言わせて気分を晴れさせる。

 そんな思惑を感じさせるような餞別せんべつだった。


「じゃあ、早速一つずつ食うか。俺が先に貰おうかな」

「うーん、どれが当たりなんだろう? 全然わからない……」


 歩きながら、俺はエルマと袋を見ながら旅路を進む。

 

 そしてこの道中が楽しいものになる事を確信していたのだった。










 そして、俺達が王都へと向けて旅立った一週間後の事。


 あれから俺たちは大した障害も無く旅を続けていた。

 だが、途中で寄った町では少しだけ悶着もんちゃくが起こる。


「……」


 その町はどんよりと湿った空気が流れていた。


 行き交う人たちは皆どこか目付きに力が入っておらず、暗がりにはたむろしている怪しい男たちがいる。


「エルマ、ここは素通りして行くか?」

「そう、だね……。なんだか、通りがかる人たちの目線が怖い……」


 歩調を早くして町を突っ切ろうとする俺たちの前には、突然ひと目でわかる荒くれ達が出てきた。


「おうおう、見ない顔だな? お前ら」

「へへへ、旅の兄妹か? 妹はえらく別嬪べっぴんじゃねーか」

「まだちょっとけぇけどな」

「バカだな、それがいいんじゃねぇか」

「わかんねぇな……。ま、女は女だ。ヘッ」


 周りの人達は、当たり前の事が起こっているかのように素通りして行く。


「お前ら、俺たちを邪魔する気か?」

「兄さん……」


 エルマの細い指が、俺の袖をぎゅっと握る。


「もしそうだったら、どうすんだ? この人数相手に勝てるってのかぁ?」

「よぉ、俺ぁ最後で良いぜ。代わりに一晩中相手させてやる」

「じゃあ俺は最初がいいな。ゲヘヘヘ!」

「初物だろうしなぁ。ここは平和的にジャンケンで決めようぜ、ウヘヘ!」

「俺は別に何番目でもいい。が、飽きたらくれよな。ナイフで刻みながらヤリてぇ」


 荒くれ達は聞くに耐えない言葉を並べ、隣のエルマを舐めるように見ていた。


「どうやら、遠慮はいらないらしいな」


 相手は五人。武器は見る限りナイフや拳。

 が、全く問題など無い。


「兄さん……!」

「大丈夫だ、エルマ。少し離れて目と耳を塞ぐんだ」


「テメェッ! ……あぐっ!?」

「おい、何だ……!? ぐあぁっ!?」


 まずは二人。

 俺は「獣化」させた狼型モンスターの足を使って一瞬で距離を詰めて、拳から生やした爪を使って瞬く間に相手を斬りつけた。


 顔や胸から血を流して、五人の荒くれ内の二人が地面に倒れる。


「こいつ、『スキル』持ちか!? ……ぐがぁっ!?」

「や、やべぇ……ぐぎぃっ!?」 

 

 残った三人の内、二人も同じように斬り伏せる。

 運が良かったら何人かは生き残るだろうが、別に気にする事じゃないな。


「ま、待て! 俺はコイツらに付き合ってただけだ!」


 最後の一人、他の四人よりは少し腕がありそうな奴が両手を突き出して俺を静止しようと試みる。


「……そうか。だったら、仲間を連れてさっさと行け。まだ息のあるやつも居るだろう」

「あ、ああ! 恩に着るぜ……っとなぁ!」


 スキルを解除して爪を引っ込めた瞬間、最後の一人はナイフを投擲とうてきしてきた。

 だが俺はそれを全く苦もなく、手の甲で弾き飛ばす。


「甘かったな」

「何っ!? ……ぐふっ!」


 最後の一人はその言葉を最後に、俺の繰り出した拳によって沈黙した。


 俺の「獣化」は、目やそもそもの力、そして俊敏しゅんびんさも変化させる事ができるのだ。


 目を覚ましたら、後片付けをしてくれるだろう。

 この町の治安がどれほどの物かというのはたかが知れてそうだが、全くの無罪放免とは行かない筈だ。

 だが、この町は早く出たほうがいいな。

 むしろこいつらが金を払えば、俺たちが悪者にされかねない程の空気の悪さだ。


「終わったぞ、エルマ」

「……兄、さん……!」


 目を閉じ、震えていたエルマはぎゅっと俺の体に抱きついてきた。

 その心を落ち着かせてやる為に、頭を撫でてやる。


「よしよし。お前は俺の方だけ見て歩くんだぞ」

「……うん……」


 そのまま俺たちは、王都へ向かって町を出た。


 この町の治安の悪さも、魔王軍とやらの影響なんだろうか?

 俺はそんな考えを胸の中にしまい込みながら、胸に顔を埋めて震えるエルマを優しく撫で続ける。

 もしも勇者達のパーティに参加できたら、ここでの事を話してみるか。



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