序章:世界が終わる日
日の暮れた時刻、とある王国での事。
「急ぐのだ! 奴が、アルスが来る前に備えを終えなければ、この国が滅びるかも知れんのだぞ!」
その国は、今まさに破滅への道を歩もうとしていた。
太った王は豪華な玉座にふんぞりかえったまま、唾を飛ばして臣下の者に高圧的な声を放つ。
それを受けた兵士も顔面を蒼白にしながら「は、はっ!」と足早に準備をする為に走り去った。
玉座からも見える扉の向こうでは一人の人間を迎え撃つとは思えないほど大勢の人間が走り回っていて、ガチャガチャと鎧の音をさせている。
「魔導士は全て集合してくれ! いや、とにかく魔導適正がある兵は全て城の最上階にある『魔導砲』基部へと集合するんだ!」
「戦争でも始まったのかよ!? 魔族が攻めて来たとかさ!」
「馬鹿、それ以上のモンが来るんだよ! お前は見なかったのかよ、あの光! アレで砦が一つ消えちまったんだぞ!」
「そんな訳ねえだろ! 砦っつっても、どこも小せえ国の城ぐらいはあるじゃねーか!」
「城にある大楯は全て王国の外壁上まで運べ! 魔導強化は済ませてある!」
「意味あんのかよ!?」
「無いよりはマシだ!」
その全てがたった一人の青年、「アルス」に対しての備えを叫んで緊迫の表情を浮かべている。
「ぐぅぅ……! 何故、何故こんな事になったのだ……!」
王はその慌ただしい光景を眺めつつも、苛立ちを隠さない様子で拳を握った。
そしてそんな王の元には、鎧を着込んだ一人の女性が飛び込んで来た。
「陛下! 国民の退去が済んでいないとは、どういう事ですか!?」
その鎧装束は他の兵士に比べて明らかに地位が高く、その顔立ちはあどけなさの中に気品が溢れていた。
十代後半の若さで騎士団を束ねる美少女の瞳には理性が宿っており、この緊急事態に際して対応を行うべく奔走していたのだろう。
その証拠に、冬の時期だというのに体からは上昇した体温によって湯気が立っていた。
金色の髪はサラサラと肩の鎧に降りかかっていて、見る者の心を見惚れさせる程に美しい。
「何用だ、アーシア!」
「この王国は戦場になります! 一刻も早く非難させなければ無辜の民に被害が出るのは明らかだというのに、貴族達は馬車へ財産を満載して走り去っています! 何故馬車を徴発しなかったのですか!?」
アーシアと呼ばれた王国の女騎士団長は、険しい顔で王に対して意見を述べる。
必死の形相で、自らの仕える主に向かって。
「黙れ! 馬車の持ち主が自らの荷物を運んで、何が悪いのだ! 今は王国の一大事、民など気にかけている場合では無いわ!」
「しかし、国民はまだ半分近くがまだ城下に留め置かれて……!」
しかしその足元には杖が投げつけられ、再び罵声が飛んで来た。
「黙れ黙れ! 貴様、ワシの言葉が聞けぬというのか!」
「……」
アーシアは王の言葉に首を垂れて、言葉を失っていた。
それから何も言葉を返す事も無く、スッと立ちあがり慄然とした眼差しを向ける。
「陛下、これは貴方が起こした事が始まりです。あの優しい純朴なアルスが、この国に対して憎しみを抱いたのは当然の事ではありませんか! あなたが、卑劣な思惑で彼から妹を永遠に失わせてしまったから……!」
「ぐっ、ぐぅ……っ!」
しかし、王はそんな言葉にすら耳を傾けようとはしない。
正面向かって言われたその言葉に、王は顔を真っ赤にして拳を振り上げていた。
「貴様……! 小娘が、一体誰に対して口を利いておるか! 今を持って貴様は騎士団長の任を解く!」
「……っ!」
その怒りを受け止めた騎士団長は、そのまま玉座の間から立ち去ってしまった。
それは忠義と武勲、そして礼節を良しとする彼女に似つかわしく無い行動だった。
「クソ、忌々しい女だ……! ええい、何をしておる! 早く杖を持たぬか、このグズ共! それでも近衛兵か!」
傍に控えた者は顔面を蒼白にしながら、慌ただしくそれを拾う。
「遅いわ! このゴミが!」
そしてそれを差し出した瞬間、力強く奪われた挙句足蹴にされた。
うぅっ、と呻く若い近衛兵を顧みる様子も無い王は忌々しげに立ちあがる。
「勇者はどこへ行ったのだ! まさか逃げ出したのではあるまいな!? 奴こそがこの災厄を呼び込んだ張本人なのだぞ!」
「現在、全力で捜索しております!」
「ぐぅぅぅ〜……っ!」
他の近衛兵がそう答えた事にも、王は怒りを露にしていく。
そしてドスドスと足音を鳴らして、玉座の間から外に出た。
「忌々しい……! ただの人間一人の為に、あんな物まで使わざるを得ぬとは……!」
足早に廊下を歩き、慌ただしく走り回る者たちを跳ね飛ばすように進んだ王は中庭に出て空を見上げた。
空は既に太陽が落ちようとしていて、夕焼け色に染まっている。
そして眼前に広がる「大陸で最も巨大な城」の頂上には、大きな影を落とす物体が鎮座していた。
それは来るべき魔族との戦いに備えて建造を急いだ、この世界の人類全てが知りうる中でも最大の兵器だ。
『魔導砲』
この大陸全てを支配するこの国の中でも、最も火力が大きい魔導兵器。
それを見上げながらも、王は自分の中に不安が込み上げてくるのを抑えられなかった。
全ては、あの一撃。
王国の玉座からも確認できる程に強烈な閃光が空に走った、あの時から始まった怒りだった。
「騎士団長殿を探せ! 恐らく国民が留め置かれている城の入り口におられる筈だ!」
「魔族が攻めて来たんだ……! 間違い無い、魔王が人間達を滅ぼそうとしてやがるんだ!」
「落ち着け! 迎え撃つのは、人間だ! それも一人!」
「おかしいじゃねぇか! だったら、なんでこんな戦争みたいな準備をしなきゃいけねぇんだよ!」
「くっ、くぅ……!」
周りを緊迫の表情で走り回る兵達の声が王には不愉快で仕方が無い。
頭の中には、全ての発端である一人の人間が浮かび上がっていた。
自分が罠にかけた、あの冒険者。
田舎から出てきたばかりだと聞いた、あの青年「アルス」
「重装歩兵は王都の外壁扉に集結せよ! 弓兵は全て外壁に向けて集結! 全ての全力は正面入り口に向けて配置を急げ!」
「おい。そこのお前! 何をしている、戦闘可能な一般兵は全て武器を取れ!」
「攻城兵器も外に向けて配置だ!」
だが、周りの怒号があまりに耳障りで王は頭が回らない。
後に城自体が消滅してしまう程の厄災に見舞われた王国。
全ては、王自身がとある勇者パーティに対して「一人の青年を追放せよ」と命じた事に端を発していたのだった。
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