表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/14

013 朕、公務合宿を終え、親衛メイドのSMLを知る。

 親衛メイドたちに導かれるままに飲むこととなった、苦々不味不味まずまずな『旺餓肝オーガレバ』。それを私に勧めたイープの解説によると、この地の精霊の定めるところ、人が『旺餓肝オーガレバ』を飲み干すことには、正確には、二つの意味があるのだという。ひとつには私がなしたように人の王自らが、『旺餓肝オーガレバ』を飲み干すこと。これは人の王が、オーガ帝に戦いを挑むことを意味する。もうひとつは人の王の臣下が『旺餓肝オーガレバ』を飲み干すこと。『旺餓肝オーガレバ』を飲み干した臣下は、王に挑むことを意味する。そして、王を倒した臣下は、オーガ帝に王の身体を差し出し、自らが新たな人の王となる。とはいえ、伝えられている限り、王を倒すことを決意した臣下が『旺餓肝オーガレバ』は飲み干した例しかないとのこと。人の王がオーガを倒すことが不可能と思われる一方で、臣下が担いできた王を倒した事例はいくらでもあるものらしい。イープが書記長を務めるようになっている裏組織とやらは、要するに臣下による王のクーデターを管理する組織なのだろう。

 プシ国でイープが勧めた『旺餓肝オーガレバ』を私が飲み干したことにより、精霊の何とかにおいては、臣下による王のクーデターの道はなくなり、プシ国の王はオーガ帝に挑む存在となった。

 

 ☆

 

 その日から先、公務合宿は、より実戦を意識したものとなっていった。私は親衛メイドたちと形稽古かたげいこを続ける一方で、近い将来に必要となるかもしれない、1対多の戦いを想定した試技にも取り組みはじめた。

 オーガの帝王なる、如何にも強そうなのに正面から喧嘩けんかを売る儀式を、どうやら私はこなしてしまったというのだ。姫王閣下用語集ひめおうさまのたしなみには、旺餓オーガなどという語が存在しない。それは、人の王族にとり、旺餓オーガが途轍もなく恐ろしい者であるがためなのだという。とはいえ、何も知らされずに旺餓肝オーガレバを飲まされたことに、私はいまさら不満はない。怪しげな野心を抱く者が『旺餓肝オーガレバ』を秘かに飲み、先王せんおうや姫王閣下の暗殺や反逆を試みるといった不心得に及ぶことよりは、私自身が飲んでしまった方が明らかにましではあるのだから。

 

 オーガの存在は、儀を終えた成人となった王族に密やかに伝えられるもの。なぜならば、旺餓オーガは、人の王を喰らう存在ものであるため。

 

 合宿での試技の合間の食事時間やつつしまやかなオヤツの時間に、メイド長ユリコをはじめとした親衛メイドたちから、人と旺餓オーガの関係を、私は少しずつ聞き出していった。曰く、

 ・ プシ国を始めとする人間の諸王国の北西にオーガの帝国は存在する。

 ・ オーガの平均身長は5メートルから8メートル程度と人の数倍。体重は1トンから6トン程度。

 ・ オーガの帝国へと続く道以外の道は、極寒の世界である中央の霊峰と液体窒素の暗黒海とによって全て閉ざされている。

 ・ オーガの帝国の先にはゴブタルの帝国があるというが、そこまで生きてたどりつけた人間はいない。

 ・ オーガは、定期的に人の王国に来て、人、特に人の王族を喰らう。

 ・ オーガは、オーガをも喰らう。喰らわれた身体の残りの切れ端が旺餓肝オーガレバである。

 

 オーガは人を喰らい続ける。まさしく人食い鬼である。人の王国は、オーガによって常に蹂躙じゅうりんされ続けている。姫王閣下としてのちんならば、いや、この世界について何の知識もない人の子が、この話を聞かされたならば、オーガに恐れをなすか、オーガの帝国の不条理さに憤慨するか、というところだろう。そして、先王とうさまをはじめ、人の子の親ならば、我が子を背にオーガと対峙するようになることを想像するだけでも、おののくことだろう。たとえ、人の身の最強の戦士であったとても、軽くても1トンの体重を持ち見上げる高さのオーガと対峙した際に自らが勝つイメージを持つことは難しいだろう。

 

 私は、オーガという存在に困惑していた。人を蹂躙し喰らうということから、私は最初、戦闘メイドが辱めを受けるようなことを想像しかかったのだけれど、ユリコは違うと言った。オーガは、よく肥えた王族を真っ先に喰らうのだという。男女を問わず、肥えていない者、小さき者を好んで喰らうことは基本的にはないのだという。

 それでは、まるで、放し飼いの牧場のようなものではないかと思えてきて、私は、複雑な気分になっていた。人の立場としては、食人は当然に殺人罪である。しかも人の王を喰らうなどは、不敬の極みというところだろう。

 しかし、ある存在に土地を分け与え、そこで自由に暮らさせておき、大きくころころと育った者だけを食べにいく別なる存在があったとしよう。ある存在が羊や牛であってそれを食べる存在が人である世界が地球である。そして、食べられる存在が人で、それを食べる存在がオーガである世界がここプシチャクなのだ。地球で人が悪ならば、プシチャクのオーガも悪、地球で人が悪でないならば、プシチャクのオーガも悪だとは言えないだろう。どうしても、そう思えてしまう。

 オーガがデップリの者たちを好んで食べるというのも、何か、人が和牛の霜降り肉を好むようなものと思われる。私も、A5の霜降り肉は好きだったしね。

 まだ女子剣道部の新入部員だった頃、お菓子を食べすぎると剣がにぶる、という、それ自体は間違ってはいない言い伝えを先輩からされた私は、週末のおやつタイムをやめることにしたのだった。そのことを私に相談されたメイド長は、翌週からは、週替りで小さなケーキくらいのサイズのお肉をおやつタイムに出してくれるようになった。育ち盛りだった私がおやつ代わりに食べられるようにと柔らかめのお肉がセレクトされた結果、凝り性のメイド長の手配により、それから1年ほどの間の週末おやつタイムで、全都道府県のA5和牛を制覇することとなった。かくして、日本一周霜降り肉ゲームのようなものを中学2年でクリアした私は思う。できることならば、ちんにも味あわせてあげたいな、と。

 


 私の成人の儀の前日までと定めてはじめた公務合宿も9日が過ぎ、残すは1日となった日の夕方に、私は、親衛メイドたちに、オーガに対、私が思うところを伝えることとした。


 「それで、どうなさいますか?」

 私の言葉をひざまずいて聞いていたユリコが、皆を代表したかのように私に尋ねた。

 

 「やってやるに決まってるじゃない。オーガの帝国とやらを打ち倒してやるわよ。オーガが良い存在なのか悪い存在なのかということと、オーガに挑んで倒すこととは別個のことじゃない。

 何も知らないうちに『旺餓肝オーガレバ』なんてのを私に食べさせたあなたたちだって、私にやらせる気だったんでしょ。」

 突き出してしまった自分の手指を見る。なんとなく、手を前にだすと円陣を組みたいような気持ちになるものだが、別に、この地で、剣道大会とかサーベラ大会があっで、オーガとそこで戦うとかいうわけではない。ひとまずは、身体の力を抜いた、と思った私は、

 「まぁ、どう倒すかとかは、委細はこれからとして。まずは、これまでみんなが聞かせてくれたことから、私なりに考えてみてことはあって。続きは食卓を囲んで、にしましょ。」

 

 そして、夕食前には、毎晩の合宿後半の儀式として、旺餓肝オーガレバをちょっぴり入れた青汁を飲んだ。別にオーガを倒す願掛けをしているわけではないし、オーガレバをおいしく思うようになったわけではもちろんない。青汁だって嫌いな味だけれど、あえて別種の不味さと不味さをかけ合わせてでしてなんとか私は旺餓肝オーガレバを飲むようにしていた。イープが一番はじめに言ったとおり、実際にオーガの肝は疲労や筋肉痛に効いているらしいのだ。すごくよく効く漢方薬のようなものかもしれない。私の剣の動きは合宿の後半に急速に磨きがかかっていた。親衛メイドたちの中で、合宿の序盤で苦戦したミカコや勝てなそうに思えたイープから、かなりの確率で一本を取れるようになっていた。親衛メイドたちの中で私に残り立ちはだかるは、ユリコとカンマのみだ。


 ただ、親衛メイドの上の方と私とが、人の中では最強の類になれたとしても、貨物トラックとかアフリカゾウのレベルの体重があるオーガに向けて正面切ってサーベラをふるえばいい、ということはないだろう。 さて、どうするべき、か。


 ☆

 

 食事中、飲み干した旺餓肝オーガレバ青汁あおじるの空の器を持ちながら、私は、

 「それにしても、なんだってオーガは、こんな人を強化するようなものを人にばらまいてるのかしらね?」

 と、つぶやいた。

 

 イープは、「旺餓肝オーガレバを飲んでやる気出した者が、王の首をオーガに届けるわけだから、物々交換みたいなものなのですかと。」と述べ、ユリコは、「オーガ帝なる者は、旺餓肝オーガレバを飲んでやる気出した王がやって来たならば、首を取りに行く手間が省けるとでも考えているものかと。」と続けた。どちらも当たっているのだろうなとは思う。私は何も言わずに、前を向いてうなずいた。私の正面に座っていたカンマは、不敵に思える笑みを浮かべた。

カンマを見据えて、私は聞いてみた。

「人としての無意識のリミッターがない状態の夢見状態あなたがたは、人の中では既に最速最強の類よね。」

「はい。」とカンマは即答する。

「そして、オーガには力の絶対量では負けているけれども、速さでは負けることはない、と。」

と、裏組織の使者をしているミカコに確認する。親衛メイドの中で、オーガを一番見た回数が多いとのことだった。

「そうっ、ですね~。まぁ、オーガはあたしたちには感心ないんで追いかけっこしたことはないですけど。」

と、ミカコは肯定する。


 そう、人の他国と事を構えることになれば蹴散らすことができる。オーガが近づいて来た時には距離を取れば良い。

つまりは、私達が生き延びることはさほど難しくないであろうということ。オーガから見れば、人間牧場の中にちょろちょろすばしこいのが何匹かいる、といったところだろう。覇王という名前にふさわしいかどうかはさておいて、そこが成人した王となる私の出発点。


 仮にオーガと相対することになったらどうか。原始人がマンモスを倒す時に使ったとかいう弓矢によってか。地形を利用して潜り込みサーベラで足を払うか。マンモス級のサイズながら二本足というオーガには効きそうな気がする。オーガも、力任せに振るえそうな巨大な棍棒を持っているとのことだが。

 

 少し考えにふけっていた私に、姫王閣下のおねむの時間かきた。


 ☆

 

 その夜、姫王閣下に転生したことを知った私がはじめての夢を見た。私は、屋外で開催される古流の剣道大会に出ていた。目くらまし、足払いなんでもありの団体戦。控える親衛メイドたちに、私は「こういう大会では、いくわよ、と言ってから、みんなで、シャーっだからね。」といって、剣道部の時の試合前と同じようにシャーッという掛け声を夢の中でしていた。


 翌朝には、姫王閣下にはじめての生理あのひが来ていた。前世のお嬢の時に経験済とはいえ、元々が若干の筋肉痛を抱えていた私は、そんな予感はいていなかった。そして、この世界ではそんな場合にどうするのかも知らなかった。ただ、先日にいい年して、おそそうしてしまった時とは異なり、ゲンプの間の前の石扉に控えていた朝メイドたちは既に準備を整えていた。姫王閣下たるちんはただその者たち事を任せておけば良かった。武王となった翌日におねしょをしてしまったちんが、覇王を宣した後に生理あのひとなってもおかしくはない。そんなことを予想した諸事隊長が万全を期していたのだろう。

 

 前世では生理痛で部活を休むこともしばしばあった私だったが、あえてサーベラを取ってみると意外と動けることが分かった。オーガレバには、痛み全般を鎮める効能があるのだろうか。でっぷり王たちを喰らうことしかないオーガ帝が、人の女子の生理うんぬんのことを気にかけているわけはないだろうけれど。

 

 ☆

 

 前世の部活用語と同じ意味の公務あのひまで来てしまい、全部入りとなった感じもする公務合宿、その最終日が終わった。

 最終日は、はじめての生理あのひで負担がかかっているであろう姫王閣下の身体を思いやり、私の試技は軽めだった。

 昨日もやったし、最終日こそ、円陣を組んでシャーっとやるものだと昨晩までは思っていたが、流れ的には、それは次の合宿に取っておくことにした。

 

 代わりに、日課となった旺餓肝オーガレバ青汁あおじるを飲み干した後、他に色々とやること聞くことが多すぎて聞けなかった、親衛メイドの夢見状態スニツァの元となった6名のことを、私は聞いてみることにした。

 

 新宿区の花道という通りに面した業界関係者向けの「サティステックミカ子バンド」という名の専門店、そこに親衛メイド6名、加えて、執事長の夢見状態スニツァが所属していたそうだ。7人が務めていた、店の看板と登記上は、著作権とかの類の関係で「S.M. Bund」なのらしいが。7人が持つ名刺に書かれた通り名「サティステックミカ子バンド」は、私は聞いたことがない名だったけど、昭和の時の伝説のバンド名とのこと。そんな由緒ありげな名前だったので、業界というのは芸能関係者のことよね、と最初のうち私は思うようにしたのだったが、店の看板名の方、SMプレイヤーのための租界地バンドなのだった。要するに、お店のおねえさんたちは、アイドルやアニメのヒロインなどの服をお召しになり、そんな姿のままでののしられるのがお好きなお客さんに対し、想像通りあるいは想像以上のののしりをご提供する。その他、おねえさん方は、一連のサディスティックなコスプレイをお客さんにあれこれ提供する、という、ただただそれだけのお店。。。

 今朝の姫王閣下の生理あのひでもともと調子が狂い気味だった私は、何が何だか分からなくなり、後は、6名が話すままにしていた。

 

 昼間は大学の非常勤の先生をしていたというユリコは国際関係論の研究を続けていくための生活費を稼ぐため、悪い男に騙され女子大を辞めてしまったというシズカは社会復帰のため、リサはシズカのお友達付き合いから、そして、イープとミカコとカンマは純粋に楽しいから、その店に集う業界関係者ののしられずきのおとこたちを、皆が皆それぞれの設定に基づくコスプレイのためのコスチュームを身につけては、求めに応じ、時としてハイヒールで踏み、時としてプレイ専用のムチを振るい、そしてもちろん数々の罵りを行ってきたのだという。


 その店は、そもそもが、夢魔リリスの家なす者たちが、経営するなのだそうだ。求人広告や伝手つてで集まってきた者のうち、選抜された6名+1名から、夢魔リリスは、夢見状態スニツァを取り出し、「設定」を与え、この地に転移させた。


 その後、聞いてもいないのに、皆はそれぞれの属性を語ってくれた。

 ユリコは

 「ちなみに、私とシズカはどちらかというとソフトに縛られたりして罵られるのがむしろ好きな方、すなわちエム女です。」

 と続けた。

 ミカコは、

 「あたしとカンマは、完全にS。ていうかカンマはドSね。」

 と笑った。

 カンマは、例の凄みのある笑いを浮かべながらも

 「まぁ、妄想だらけの夢見状態スニツァがこちらの方に転移したことで、本人の方が矯正してフルーレのワールドカップを制すことができたらいいね。」

 と珍しく冗談じみたことを言った。

 そして、イープが

 「わたくしとリサはレズピアン。思い入れがない分、エム男を罵るのに意外と向いているのよ。」

 と嗤った。

 

 そこまではずうっとだまっていた私は、最後に聞いた。

 「ひとつ聞いていい? もしかして、6人の親衛メイドとしての名前って、まさか、店のお名刺の名前だったりして。」

 

 「「はい。」」

 6名が声を揃えて、肯定してくれた。

 

 私は転生者。人生を前世では15年、姫王閣下として12年、そうの記憶があるだけを取り出しても、軽く20年以上は生きてきたことになる。とはいえ、そのほとんどは、小中学生。ネタ好きの同級生からSMとは何かを聞いたことがあったとしても、そんな関係者に取り囲まれる日が来るとは思わなかった。


 私は、覇王志望者宣言してから後でははじめての不安にとらわれた。我が軍を率いるは、小中学生の経験しかない姫王閣下。主戦力は、中身はSが2名、Mが2名、Lが2名、らしい、SM専門店の女子出身者が6名、プラス、事務総長おじさん1名。こんなメンバーで、軽くとも体重1トンとかいうオーガが群れなす帝国を本当に倒せるのかしら、と、

 

 そんな私にユリコは、最後に気になることを言った。

 「ひとつだけ付け加えますと、この6名全員、生まれの年では、前世のあなた様より年下なのです。」と。

 

 謎掛けとしか思えないその一言が気になった私だったが、成人の儀を前に全て知っておきたいという願いはかなうことなく、姫王閣下の体力が尽きたらしく、おねむになって、リサに抱っこされながら、炬燵おこたに向かうことになったのだった。

 

 ☆

 

 その夜も夢を見た。どこか前日の続きのような屋外の剣道大会だった。私以外の全員は互いに前世からの知り合いだというのに、なんで私は前世で仲良くしたみんなの名前を思い出せないのだろうと、夢にふさわしくなさそうな思い悩みをしていた。私はまずは自宅に帰ろうと帰り道を探し彷徨さまよった。

 朝起きたとき、とりあえず、私の家は、レンジかレジンだ、ということを思い出していた。午後に成人の儀に臨む私は、武王の国プシに、私が家の名レンジ(仮)を冠することにするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ