・第11話 ー招待状ー
第11話
ー招待状ー
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黒曜帝国との首脳会談を控え、緊張の最中のワラキオ王国であったが、黒曜帝国との会談の前に釘を刺しておかねばならない国があった。無論、再軍備化を支援したムーン人民共和皇国である。
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○ワラキオ王国○
○王宮・謁見の間○
ワラキオ貴族の並ぶ中。ムーン人民共和皇国の駐ワラキオ大使である男が、挨拶を終え、ワラキオ国王と会話を交わす。
「ーーーさて、大使殿。噂で聞いてはいると思うが、ワシは近々、黒曜帝国の皇帝と会談を行うことになっておる」
「はい、存じております。スターリン卿からもお話はお聞きしております」
大使は笑みを浮かべたまま答える。
「この会談は娘を取り返すためのものでもあるが、黒曜帝国との緊張状態の緩和も期待できる」
「緊張状態の緩和…ですか?」
目を細める大使に対し、ワラキオ国王はそうだと頷く。
「はっきり言おう。我が国含めて周辺国家のほとんどは、我が国と黒曜帝国の緊張状態を良しとしておらん。ワシの元にも、周辺国のほとんどから自制を求める親書が山のように届いておる」
「自制ですか?まあ、侵攻して勝てるほど、まだ国力差は埋められておりませんから、それは妥当だと思いますが?」
「周辺国は万が一にでもその可能性を避けたいのだ。その証にいつもならしないであろう、問題の仲介をしても良いと言い出す国もある」
さらに言えば、ワラキオ王国が元大国であり、急拡大しているというのも問題であった。国力をつけたワラキオ王国が黒曜帝国に侵攻するという可能性は、周辺国からすれば"ありえる"可能性であった。
「話は分かりましたが…何故我々にその話を?スターリン卿から会談については説明を受けておりますが?」
再軍備化を支援したムーン人民共和皇国に対して説明するのは理解できる。だが、それは一度でいいはずと大使は考えていた。
「そこで提案だ。会談にムーン人民共和皇国も参加していただきたい。無論急な話でもあるから、大使殿でも構わん」
「…は?我が国がですか?」
大使は思わず疑問符を頭の中に浮かべる。
「そうだ。ワシは平和を求める。貴国を警戒しているであろう黒曜帝国の警戒を解くという意味でも、貴国の権益を確保するという意味でも、黒曜帝国とは貴国が直接話すべきと考えた」
「…成程、確かに対立するよりも協力した方が、損害なく利益を上げられる。しかし、黒曜帝国が認めますかな?我が国からの軍事支援を」
ムーン人民共和皇国の大使館職員の間では、黒曜帝国とワラキオ王国が和解した場合。黒曜帝国は再びワラキオを半属国化に向けて行動を始めると予測していた。
もし、そのように動くのであれば、間違いなく邪魔になるのが。軍事支援を続けるムーン人民共和皇国である。黒曜帝国がワラキオ王国に対して、ムーン人民共和皇国と手を切れと言ってくる。それがムーン人民共和皇国の大使館職員達の考えであった。
「もはや、我が国は他国からの軍隊を、祖国防衛の頼りとするほど小国ではなくなった。もはや、黒曜だろうと口出しはさせんよ」
それはもはや大国の影に怯える小国ではないという自負。自信の表れであった。
「(さて、どう出る?ムーン人民共和皇国よ)」
「(成程。これはいい具合に自信がついてきている。国力も増強され、我が国の軍事指導が完了さえすれば、将校の能力や兵士の士気次第ではいい勝負をするだろう。だが、未だ国内は戦後と併合のダブルパンチによる混乱期。外に力を向けたくないというのが本音というところか?)」
大使は少し考え込んだあと、返答を行う。
「かしこまりました。本国の方へ問い合わせをしておきます」
「よろしく頼む」
こうしてムーン人民共和皇国本国に、招待状という名の報告が届けられた。
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○ムーン人民共和皇国○
○皇帝執務室○
「会談への招待状だと?」
二井が顔を顰める。
「はっ、ワラキオの王より直接話があったとの報告ですが…如何対応いたしますか?」
「ふむ」
文官の報告に、二井が少し考え込む。
「会談がどうのこうのと言う気はないが、我が国にも参加を求めるとは」
二井にとって、この会談は悪くないものであった。というよりも、現状の利益に満足していたと言うべきだろう。
「(特権である租借地を手に入れ、武器が中心とはいえ貿易も活発だ。平和になることは問題ないが…)」
だが問題もある。それはワラキオへの黒曜帝国の影響力増加である。
「ふむ、しかたあるまい。俺が行こう」
「はっ、大使に伝えます」
二井が飲み物を手に取る。
「ところで、ワラキオから輸入した【魔石】とやらの研究はどうなってる?」
ワラキオが大陸で最も産出する鉱石である魔石。魔力を宿す鉱石であり、大陸でエネルギー源として広く利用されるそれ。
ムーン人民共和皇国は武器の販売対価として、ある程度の量の魔石を輸入していた。そして、その使い道を模索していた。
「はっ、輸入した魔石につきましては、内臓エネルギーが少なすぎるため、我が国の魔法兵器のエネルギーとしては不足品であります。しかし、研究班の地道な研究により、魔石の合成及び圧縮に成功いたしました。名を【魔光石】と名付けましたこれであれば、通常車両のエネルギー源くらいにはなりましょう」
「研究用及び代金の代わりとして受け取ってしまった以上は、無駄にするのはもったいないからな。何とか使えるようにするべきだろう」
「それと、研究中に誤って魔光石を飲み込んだ犬が…その…何と言いますか」
「何かあったのか?まさか死「いえ、生きております‼︎」そ、そうか…それでどうしたのだ?」
密かな犬好きの二井が冷や汗を拭い、文官に問い直す。
「魔法を使えるようになりました」
「…はぁ⁉︎」
ムーン人民共和皇国で採用している魔法技術は、魔力だけでは意味がないものだ。魔法陣などに魔力を通して初めて効果を発揮する。つまり、魔法陣を扱えない犬が魔法を使うことは不可能である。
「解剖等の検査は飼い主の研究者が拒否しているためできておりませんが、簡単な解析の結果、擬似精霊化しているようでありまして」
「あー、解剖はしなくていい。しかし、擬似精霊か」
ムーン人民共和皇国には存在しないが、ゲーム内では精霊魔法というものが技術として存在した。魔法陣などを使わない魔法技術の一種である。
「(待てよ?擬似精霊を作れたということは…)」
二井があることを思い付く。
「擬似精霊を使った精霊魔法技術の研究開発は可能か?」
「はっ、不可能ではないかと」
「とすると、我が国は科学と魔法と精霊魔法の技術を手に入れることができるのか」
ゲームにおいて、プレイヤーは国家の技術を取得することができる。しかし、その取得条件は厳しく、その上多く取れば、研究力が分散し、研究開発が遅れる。
そのため、ムーン人民共和皇国では基本的技術である科学と魔法しか研究していなかった。
ーーーしかし、今であれば技術という手段は多い方が良い。そう、圧倒的技術的優位なのだから。
「しかし、そのためには今の保有魔石量では全く足りませぬ。せめて残り在庫の5倍はありませんと、技術として確立できません。何よりも持続的供給が必要となります」
「難しいな。多少の魔石はまだ取引があるとはいえ、会談後にどうなるか…最低でも貿易リソースは、黒曜帝国にも割かれることとなるだろう」
となれば、黒曜帝国は貿易的にも危険視すべき相手となる。
「やはり、一度会っておくべきか…」
「でしたら、【天空要塞】にてワラキオに向かわれては?あれでしたら、下等な技術しか持たぬワラキオなど、目撃した瞬間に属国になりかね」
「技術が下というのはいいが、下等という物言いは好かん」
「失礼いたしました」
「ふむ…しかし、あれを出すのは確かに」
天空要塞。それはムーン人民共和皇国が保有する浮遊要塞である。ゲームの中でも8ユニットしかないそれを、ムーン人民共和皇国は5ユニット保有していた。
莫大な予算と時間をかけて作られる天空要塞はまさにロマンである。だが、コストに見合った戦闘能力かと言えば微妙であった。まさに、ロマンの兵器であった。
「よろしい。【天魔号】と付属艦を3隻出せ。付属艦の1隻は空母にしろ」
「天魔号でありますか?とすると兵力は」
「1個師団で良い」
天空要塞・天魔号は役割は輸送天空要塞と言うべきものだ。つまり、装甲トラックなどと近い。
要塞に相応しい収容キャパと、要塞らしい防御力。二井が最も相応しい運用方法とした形の天空要塞である。
「では、最精鋭の近衛師団を…」
「いや、通常部隊に旧式装備をさせろ。見て理解できる装備がいい。超重戦車とかだな」
「なるほど、徹底的に威圧するのですね?かしこまりました。すぐに用意させます」
そこで、二井が確認したいことを思い出し、文官に問いかける。
「そういえば、属国関係の報告がないが、異常はないのか?」
ゲームにおいて、プレイヤー国家はいくつかの方法で属国を作ることができた。例えば、帝政・ツンドラの20の属国がそれに当たる。
ムーン人民共和皇国も5つの属国を保有していた。しかも、規模としては中規模国家レベルの属国を5つである。
「我が国の属国は問題ありませんが、四天連合主要加盟国が一国、【神聖ユグドラシル教皇国】の属国である【新樹教国】が不穏との報告があり、確認のために諜報員を出しております」
「夕霧のところか。あそこはなんだかんだでまとめるか、すでに裏で動いてそうだな。下手に関与するな。向こうの作戦が崩れる。何となく夕霧の所に情報だけ渡しておけ。それで全て済む」
「はっ‼︎」
文官が立ち去る。
「魔石、か」
二井は腕を組み、少し考え込む。
「新資源を他国に握られるのは嬉しくない。しかし、ここで戦乱を起こせば、義がない戦争で士気は上がらず、戦争国家の野蛮な国とレッテルを貼られ、まさにその通りの国となってしまう」
つまり平和に貿易するか、火種をワラキオに用意させるか。
「…いや、よそう。我が国の貿易品は多いし、ワラキオも再軍備化は完了していない。我が国式の軍隊にして、一度は勝利している以上は、そう簡単に手を切れないはずだ」
何より、ワラキオ王国軍の武装は全て輸入品だ。弾丸は後々はライセンス生産もどきをする気ではあるが、銃本体などは完成品の輸出予定である。つまり、補充するにしても強化するにしても、ムーン人民共和皇国あってのワラキオ王国軍なのだ。
「いや、待てよ?呼ばれてタダで行くというのも印象が良くないな。何か手土産を用意したい所だが…」
ドアがノックされ、「失礼します」との一言の後に将校が入ってくる。
「どうした?」
「はっ、以前ご指示いただきました【レトロ・ウェポン計画】の件です」
「ああ、ワラキオ向けの輸出兵器か。どうなった?」
「はい、なるべく古い技術で、大量生産可能な兵器に仕上げました」
二井が書類を受け取る。
「先ず小銃ですが、今まで輸出していた【新月火縄銃】は在庫を出していたので、無くなる前に専用の生産所を作りました。現在は戦後増強分及び補充用を生産中であります」
「どのくらいで整う?」
「まだ稼働したばかりなので何とも言えないところもありますが、予定通りの稼働ならば1ヶ月ほどで需要を満たせるかと」
「悪くないな」
二井が頷き、将校が報告を続ける。
「それと大砲については、以前の【宝月砲】を廃止。新たに開発した…というよりは宝月砲を生産しやすくした【玉月砲】の生産を開始しました」
「そんな名前の大砲だったのか…いや、何でもない」
二井が少し考え込む。
「…そうだ。その手があったか」
「陛下?」
「すまん。それより至急初期型装甲艦を3隻ほど手配してくれ。ワラキオに供与する」
「初期型装甲艦をワラキオにですか?確かにそれであれば、ワラキオが黒曜帝国に対して、多少の海上優位に立てるかもしれませんが…」
とはいえ、単純に数の暴力は脅威である。しかし、今回の目的は黒曜帝国ではなかった。
「石油は我らのものだ。石油が必要なワラキオはどうなると思う?」
「経済的依存ということですね?有効な手かと考えます。すぐに用意させます。ただ、初期型装甲艦の燃料は石炭ですので、石炭の輸出になりますが、構いませんか?」
「あー、そういえばそうだったな。それで頼む」
「はっ‼︎」
将校が立ち去る。
「さて、うまくいくといいが」
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エンド




