219 約束ですので
今日も、前日とやる事は同じ。王都に向かって道を作る。
「そんじゃあ、ルース。今日も行ってくるからな!」
「ああ。領主への手紙は……」
「私が届けますわ。宛先と場所の確認をしてもらっても? まだ領主と領地の名前が覚えきれなくて」
「分かった」
「この地図に書き込んでもらえるかしら」
「すぐに」
貴族でもなければ、自国の名前と隣にある国の名前、それと領地ならば住んでいる領地と特産などがある有名な領地の名前くらいを知っていれば上等だ。
村人などは、近くの町の名前しか知らないという者もある。村から出なければそんなものだ。
「表札がある訳でもないから、緊張するのよね」
「ひょうさつ?」
「苗字、家名を書いた板を門の所に貼り付けるの。誰の家か分かるでしょう? 門に家紋? 家の紋章があるのは分かるんだけど、それ、知ってるの貴族だけよね? 『誰の屋敷の前だと思っている!』とか怒鳴ってるところ見たけど、私なら『誰の屋敷?』って聞き返してやるわね」
「……なるほど……」
ルーセリウスが考え込みながらも、地図に当主の名を書き記していく。
「こう……私たちの国ってね、人に誤解されないように先に手を打つって精神があるの。一つでも問題になるようなことを減らそうって考え方ね。まあ、最近は行き過ぎというか、言ったもの勝ちの、揚げ足の取り合いみたいになっている所もあるけど」
「ほお……」
「この世界では識字率が低いみたいだから、表札があっても読めるかは分からないけど、読めもしないと分かってるのに分かれという方がおかしいわよね〜。それに、何が無礼になるかって、その人によるじゃない?」
ちょっと不快だったというだけで貴族に打たれる民達は多い。それは学があるとかないとかの問題ではない。
「……確かに……民達に学がないと馬鹿にする者に限って、無礼打ちが多いかもしれん……」
「最低ね。そんなの、奴隷と変わらないわ。大体、貴族の方に学以前に、倫理観とか道徳とか人として持つべきものが乏しいのでしょうね。それって、犯罪者と同じってことよ。底辺と上にそんなのがいるってどうかのかしら」
「うむ……そう考えると、なんとも危うい……注意しておこう」
「ふふふ。ただの愚痴よ。まあ、王様ならちょっとは知ってて欲しいわね」
「ああ。有り難い意見だと心に留めておく」
そうして、ルーセリウスから地図と手紙を受け取り、寿子も出発した。
宗徳達よりも後に出発しているが、当然のように箒に乗って飛ばせば一瞬だ。今日は明日以降に向かう領地の領主へも三つほど郵便屋さんをして、寿子も宗徳と合流する。馬車で一日は掛かる距離が一時間も掛からないのだから異常なスピードだ。障害物もなく直線で行ける空だから可能とも言えるが、スピードの出し過ぎ感はある。
とはいえ、そんな事情は宗徳や亮司達も当たり前のように受け止めている。『寿子は飛行機よりも速い』これだけのことだ。
作業を始めている宗徳達が、前日と違うのは、徨流を連れていること。
未だ亮司と幸菜は杖も箒も持っていないため、移動手段としてついて来てもらった。
《クキュ〜》
「徨流。あんま遠くに行くなよ? あと、高度は高くな。万が一にも攻撃が飛んでこないように」
《キュウ》
いつもは飛ぶにしても屋敷の上ばかり。たまには本来の姿で、広い空を飛ぶのも良いだろう。のびのびと楽しんでいるようだ。
「琥翔も連れて来てやるべきだったか? いや、あの子はそう高く飛べんし……」
「あら。コトちゃんは広い所よりも狭い所の方が好きなのでは? お庭での隠れんぼが楽しいみたいですよ?」
「あ〜、確かに。アレはやっぱ猫だな」
「そうですわね」
因みに二匹の梟姿の神達は、普通に『行ってらっしゃい』と送り出してくれているので、遊びでもこの世界に戻る気はまだないようだ。
そんな会話をしながら、やはり熟練というか、宗徳と寿子の作業速度は早かった。
「すげえな……もう次の町が見えてるぞ」
「まだまだ練習しなくてはなりませんねえ」
亮司と幸菜は疲れたとは言わない。確実に作業速度も早くなってきている。そして、とても集中していた。ふとした時に顔を上げて驚くくらいだ。
今も、そろそろ日が傾き出したと気付いて顔を上げていた。
「おっ。夕日が見える頃には、あそこまで終わるな」
「予定通りですわね。あら。役人さんが出て来ていますわ。あなた行って来てくださいませ」
「おう。邪魔すんなって言ってくる」
「喧嘩腰ではいけませんよ? ルースさんの委任状見せれば良いんですから」
「ってもよお、本物かどうか確認するのに時間掛けやがるからなあ。時間は謝られても戻らんし」
「確かにそうですわね。あそこまで終わらなかったら残りはお任せしましょうか」
「お! そうしよう! よし!」
そうして、予想通りの押し問答のお陰で、残り数百メートル夕日が見える頃までに終わらなかった。
「いいな。最初に言ったぞ。明日はもう反対側から次の町へ向かうから、ここの残りはお前らでやるんだからな!」
「お、お待ちください! それでは陛下とのお約束がっ」
「だから、領主への手紙も来てんのに、お前らがこれが偽物だとかなんとかやって、俺が手を止めてる間に、出来なかった分なんだから、お前らがやるのが筋だろ。これ、最初に約束したよな? いいな? 余計な金使うなよ? お前らで、やれ!」
「そんな……」
「まあ、悪いのはお前らの上だ。王にもそう報告しておく。帰りに王も通るから、出来てなかったら問題だぞ? と言ってやれ。じゃあな」
「っ、あ……」
そんなやりとりをして、宗徳達はきっちり定時で帰宅した。
そこには、朝来ていた客が三人待ち構えていた。
「おおっ!! なあ! お前達、俺らの弟子になれ!」
「「「「は?」」」」
目を輝かせながら宗徳達を見る三人の男女。それは、薔薇の古くからの知り合いの魔導士と魔女だった。
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