216 救世主達と王様
「おう。どうぞ〜」
ドアをノックする音が聞こえたとほぼ同時に、宗徳が返事をする。誰が来たのかなんて宗徳にはわかっていた。
「ルース。紹介するぜ。新しく同僚になった友人の亮司と幸菜だ。二人とも。こっちはこの国の王のルーセリウスだ」
「っ、亮司です。初めまして。お会いできて光栄です……」
「ゆ、幸菜です! よろしくお願いします」
緊張気味な二人に、ルーセリウスは微笑む。立場柄、こうした態度になる方が慣れている。
「ルーセリウス・セド・クラナードだ。我が国にようこそおいでくださった。異世界からの救世主殿」
「っ、きゅ、救世主!?」
「わ、私たち?」
「ああ。現に、かなりムネノリ達には助けてもらっている。勇者のような位置付けだ」
「そんなっ……」
「勇者だなんて……」
勇者のように、派手な動きはないが、国や世界を変えるのだから同じだろうという解釈をされているようだ。
「戸惑われるのも分かる。だが、異世界から来られた方は、敵対しないのならば、それだけで特別な存在だ。神によって来ることを許されたのだから、この世界に意味のある存在ということになる」
「おおっ……そういう解釈か……あっ、すみません」
「いや。異世界人は神を信じない場合があると記録もある。別の次元の存在であるが故に、そうなのだとの記述も」
「……それ、無理やり納得するために……あ、いえ……」
神を信じないなんてあり得ないと思っているこの世界の住民が、無信仰を納得するには、仕方のない理由付けなのかもしれない。
そこで、宗徳が思いつく。
「そういや、ルースはどれくらい滞在するんだ? 視察だろ?」
「うむ……三日ほどになるだろうな」
「あら。もっとゆっくりしていらしたら良いのに。王様業はお忙しいのねえ」
寿子と亮司達は、部屋の隅にあるテーブルセットの方に腰掛ける。寿子は、ルーセリウスを気の毒そうに見た。年齢が年下ということもあり、大変な仕事をしているのだと感心してもいた。気持ち的には、親戚のおばさんのようなものだろうか。
「やはり、年々、移動するのが辛くなってきてしまって……国内を回る視察も、そう何度もできませんのでね……」
ルーセリウスが弱みを見せられるのも、宗徳達の前だけだ。
「それでも、ムネノリが作ってくれた馬車のお陰で、かなり体に負担なく移動できるようになったものだ」
「王族の馬車が、座ってられないくらい飛び撥ねるとか、居た堪れなさすぎるだろ」
「馬に乗っているようなものだ。馬車とはそうだろう?」
騎馬での移動ではなく、風もなく、雨にも振られない。それだけで騎馬と馬車に乗る待遇の違いは十分だと思われているようだ。十分荷物贅沢だと。
「間違ってねえ感じはするけど、やっぱ乗り物は寝れねえとなあ。それに、子どもらが大変だろ」
「まあ、時間はかかる」
「だよな。そんじゃあ、舗装工事でもするか。ルース。先ずはこの辺からだな。王様が居るんだ。現場で決められることができるんだ。かなり手間が省ける!」
そう言って、宗徳は地図を取り出した。
「ルース。茶を持ってくれ。あ、これは防水加工もしてあるから、上に置いていいぞ」
「こ、この上に……っ?」
大きく精巧な、この国の地図。その上にカップを置けと言われても躊躇うものだ。
しかし、ルーセリウスのそんな心情に気付かず、宗徳はペンを差し出す。
「……これで何を……」
何をして欲しいのか、ルーセリウスはある程度察していた。
「これで、舗装工事する道を決めるんだよ。亮司達に魔法も教えないといけないからな。一石二鳥だぜ」
「「え? 魔法……!?」」
「あら。二人ならすぐに使えるようになるわよ。実践あるのみ!」
「そういうことだ。ということで、ほれ、遠慮なく線を引いてくれ。それが国の主要道路になるからな?」
「…………少し時間をくれ……」
「おう……?」
いくら王でも、すぐに決断できないこともある。人の命がかかるものでもないので、宗徳としてはざっと決めてもらえれば良いと思っている。
だが、ルーセリウスの持つペン先はいつまでも震えていた。
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