215 ヤバそうだ
王は、宗徳に会いに来たのだが、表向きは国の視察ということだった。
「良く来たなあ、ルース」
「ああ。ムネノリは……あちらに帰っていたのか」
「おう。丁度良かったぜ」
「呼び出したのでなければ良かった」
「なんだ。王様らしく呼び出せば良いんじゃないのか?」
ニヤニヤと足に頬杖を突いて笑ってやれば、ルースと呼んだ王、ルーセリウスは、苦笑いを浮かべる。
「お前相手にはそれをしたくないんだよ……」
「ははっ」
「っ……」
ルーセリウスにとって、宗徳は初めてできた派閥や生まれなど気にせずに付き合える友人だった。勇者と同じ異世界から来たということも知っており、更には、実年齢をも知っている。見た目は息子と言えるほどに若い宗徳だが、異世界ではその見た目でも実年齢は違うのだと思うことで納得していた。
だから、宗徳の方が二十ほど年上だときちんと分かった上で、友人としている。感覚としては憧れのお兄さんというものに似ていた。だから、揶揄われて赤くなるし、会えたことに喜ぶ。
「魔獣とか、道中平気だったか?」
ここは俗に辺境と呼ばれる土地だ。人が多く行き来し、広く土地を開拓した辺りと、ほとんど人の手が入っていないこの辺りとでは、生息している魔獣も違う。王都近郊には、人の気配を察して逃げていく魔獣も居るのに対して、この辺りの魔獣は、餌との認識で襲ってくるのだ。よって、ここまで来る道中はとても危険なものになる。
「騎士を鍛えてくれただろう。危なげなく戦って勝っていた。それに、作ってもらった馬車と譲ってもらった魔馬がよかった。町中は走りづらそうだが、外ではな……」
「あ〜……小さい魔獣とかは撥ね飛ばす勢いで走るもんな。見た目はめちゃくちゃ紳士なんだが」
普通の馬では餌と認識されて危険だと考えた宗徳は、王族ならば身を守るためにもハッタリの利く馬はどうだと、宗徳が紹介した馬だった。普通の馬よりも倍近く大きい。二頭立ての馬車を一頭でも余裕で運べる馬力と、なによりもとても凛々しい顔立ちをしていた。
宗徳が王族を守るんだぞとルーセリウス達家族を紹介して言って聞かせれば、賢く理解した馬だった。これにより、その魔馬はルーセリウス達家族を大事に扱ってくれているようだ。しかし、そうであったとしても気になることはある。
「いや……かなり大きいものにも突進したらしい……あれは、走り出すと止まらない……」
ルーセリウスは、遠い所を見るようにして旅路を思い出す。撥ね飛ばすなんて可愛いものじゃなかったと言いたそうだ。
「御者をしていた騎士が、少し前まで毎日のように死にかけていたしな……」
「御せるかどうかのやつか。あいつに勝てねえと言うこと聞かんか」
「お前が言い聞かせてはいたが、不満はあったようでな……騎士達が何人か根気強くやってくれた」
御者については、魔馬が賢過ぎるために下手な者には協力しなかった。従うのではなく、あくまでも協力までの譲歩だ。王族の一家は、宗徳が大事にしろと言うからその通りにするが、それ以外は知らないというスタンス。
そもそも、この魔馬は自分より劣った者の言うことなど聞かない。これにより、御者となるために騎士達が数人、魔馬と勝負をしていた。半年近くかかって、ようやく認めてもらえたらしい。とはいえ、実は魔馬は努力を認めただけで、まだまだ力不足との評価を出しているのだが、それを理解できる者はいなかった。
「そりゃあ、強くなっただろ」
否応なしに、強くなるしかないのだから、強くなっただろう。
「騎士団長が辞職しそうになった」
「わははっ。団長よりも強くなっちまったのかっ。御者がっ」
「笑い事ではないわ……」
御者候補の者達は死ぬ気で頑張ったらしい。
「その上に、かなりの速さを御さねばならない。普段出したことのない速さというのは、怖いらしいな……」
「ああ。走れる場所でも、慣れねえと意外とスピードは出せんな。こう……視界に入って来る情報量が多くなるからか、いつもの調子では処理しきれずに落ち着かなくなる。それが怖いと感じるんだろうな」
「ほお……」
「前までの馬車なら、あんな速度はそもそも出ねえよ。トップスピードに達する前に大破するさ」
「‥‥確かに、それも怖いと言っていたぞ……」
「そんなやわなモンでは作ってねえから大丈夫だ」
「疑ってはおらんよ」
「そっか」
「そうだ」
宗徳に対しての信頼度は高い。だから、どれだけ騎士達が不安だと言っても、ルーセリウスは心配していなかった。
「あいつら、捕まえた寿子に似て、スピード狂っぽいし、たまにはこの辺まで来て思う存分走らせてやってくれ」
「すぴーどきょう?」
「暴走大好きってことだ」
「なるほど」
納得顔になるのは早かった。
「ならば、今度は騎士達に、乗りこなすのを頑張ってもらうべきか。ここまで単騎でも来られるように」
「背中に乗せてもらうのは、また苦労しそうだがなあ」
「御者とは違うのか」
「そりゃあな」
「騎士達がその内、何でも乗りこなすようになるかもしれんということだな」
「おうっ。シカでもイノシシでも、その辺の大きな魔獣に乗るようになるかもなあ」
「それはそれで……良いかもしれん」
「騎士団が一気にサーカス一座になりそうだぜ?」
「さーかす? それが何かかは知らんが、面白さと凄さで言えばどちらだ?」
「面白さじゃね? 絵面やべえわ」
「他国に自慢できそうだ」
「ははっ。そりゃあいい! やべえ国だって一目でわかりそうだっ」
「うむ」
これを聞いていた近衛の騎士達は『うむ、じゃねえぇぇぇっ。無理ぃぃぃぃっ』と、今にも叫び出しそうにしていた。
そんな所に、寿子に案内されて、亮司と幸菜がやってきた。
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