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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~  作者: つばめ男爵
1章 新米冒険者ケージ編
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思い直せ

 次々と嫌な報せが舞いこみ、只でさえ厳つい顔をした将軍の表情は、子供が見たら泣き出しそうな程鬼気迫っていた。


 出来得る事なら今すぐにでも任務を果たせない無能者共を処分したい衝動に駆られるが、何とかギリギリ気持ちを落ち着かせ踏みとどまる。今そんな事をすれば事態は増々悪化するだけであった。塀の上から外の様子を伺っていた兵士の報告では、多くの兵が王女へと投降したというではないか。


 ここで粛清でも始めようものなら多くの兵があちらへと流出する可能性がある。それでは仮に王女派を打ち倒しても今後の軍隊としての機能が立ち行かなくなる。内乱でこれ以上兵を消耗するのは将軍としても避けたい事態であった。


「つまり、現在3つの門全てがあの土壁で塞がれているのだな?」


「はっ!時間を頂ければ破壊可能ですが、再度塞がれる可能性もあります」


 これがまず最大の問題であった。突如将軍達の目の前に現れた少年が、信じられない事に恐らく初級魔術である土盾(アースシールド)で正門を塞いでしまったのだ。更にその少年は西と北にある門も同じように塞いでしまった。これでは壁を壊さない限り馬や武装した兵を外へ出すことも出来ない。


「まさか本来王都を守るべき筈の塀が我々の前に立ち塞がるとは・・・」


 そう忌々しげに呟くガラード将軍。あの<土盾(アースシールド)>はどういう訳か兎に角大きく頑丈であった。いっその事土盾(アースシールド)の部分で無く塀を壊した方が早いのではと考えが過るも、王都の守りとなる塀を自身で破壊するなどどうかしているとなんとか思い留まる。


 戦は何も今回だけでは無い。この後周辺国が何時攻めてくるのか分からない状況なのに守りの要でもある塀を壊すなどあり得ない選択であった。


 将軍は一旦壁の件は後回しにして先程戻ってきた大臣が持ち帰った案件について話を切り替えた。


「・・・大臣、ゴーレムを全て破壊されたというのは真か?」


「は、はい・・・。申し訳ありません」


 将軍に冷たくそう問われ居た堪れない表情でそう答えたのは、数刻前にゴーレム3騎と50の兵を引き連れてギルドへと進軍した大臣であった。彼には将軍に楯突いた冒険者ギルドの処遇を一任していた。


 現在のギルドで注意すべき戦力は、精々Aランクが一人にB以下が数名とさしたる戦力は無いように思えた。大臣に貸し与えた戦力で十分事足りると考えていた将軍であったが、つい先程その大臣達は僅かな兵を引き連れ戻ってきた。そしてこう報告したのである。


 “ゴーレム3騎は破壊され兵の大半を無力化された”と


 戦力の大半を失った大臣はおめおめと逃げ帰って来たのだ。これには流石の将軍も盟友でもある大臣へ怒りを覚えずにはいられなかった。


「・・・私の記憶ではあちらにはそう大した戦力はいなかったと思ったがね?」


「は、はい・・・。おっしゃる通りです。最初はこちらが優勢でした・・・。一人Aランクの冒険者が奮闘していましたがゴーレム3騎相手には為す術無く、すぐに制圧できると思ったのです。そこへあの女が現れるまでは・・・!」


「あの女?」


 聞き返した将軍に大臣は頷くと、事細かく詳細を報告した。



 何でも冒険者側が劣勢とみると、彼らを指揮していた若い女が戦闘に介入しだしたのだと言う。そこからはまさに悪夢であった。年端もいかない少女と呼べなくもないその二刀流の女剣士は、ゴーレム3騎をあっという間にバラバラにしてしまったのだという。


 そこからは一気に攻勢が逆転し、多くの兵は殺されたか捕まった。最後には投降した者さえ出る始末。兵の半数を失った大臣は直ぐに撤退を指示。その去る間際に大臣はこんな言葉を聞いた。


「今度は将軍を連れてくるっす。貴方達の内乱には一切興味は無いっすが将軍には用があるっすよ」


 ゴーレム相手に大立ち回りを成し遂げた彼女は、逃げていく大臣や兵の後を追おうとした冒険者を制止させこう告げたのだと言う。



「つまり、その冒険者を統率していた女は私以外に興味は無い、と・・・」


「そ、そのようです・・・。如何致しましょう?」


 恐る恐るそう尋ねる大臣を無視して将軍は思考を巡らせる。


(ラッセンを押しのけてギルドの指揮を執る女・・・。それに二刀流ともなれば・・・まさか≪双剣≫!?馬鹿な、Sランクの介入が早すぎるではないか!)


 ギルドの扱いを顧みるに、何時かは本部からの介入が来るものと覚悟はしていた。だが将軍の想定よりも遙かに早くSランク冒険者が来た事には思わず天を呪った。


(一体どこで嗅ぎ付けた!?これだから規格外の化物共は・・・!)


 将軍は知る由もない。これが単なる偶然であった事を。≪双剣≫のリアネールはただの私用で知人である故ギルド長のメルシアに会いに来ただけであったのだ。


 そして運の悪い事に、将軍を窮地に陥れる偶然はもう一つ存在した。偶々今回のクーデタ-騒動に異世界人であり元勇者、そして冒険者でもある三辻恵二が居合わせてしまったという事を―――――


(数はこちらが上・・・。しかし、しかしあの化物共には数など全く意味が無い!)


 先程我が軍を見事分断してみせた謎の少年(イレギュラー)とSランクの規格外(モンスター)。この二人を何としても抹殺しない事には、我が国は始まりすらしない。


 そう考えた将軍の取れる選択肢は最早ひとつしか無かった。


「・・・<古代遺物(アーティファクト)>を発動させる」


「ここでですか!?あれはもっと時間を掛けてからと、そうおっしゃっていたではありませんか?」


 すぐさま大臣が意見を述べるが、彼も現状が不味い状況だと理解はしている。将軍の行動を真っ向から否定する事が出来ずにいた。


「・・・致し方あるまい。どの道ここで倒れれば我が夢は潰える。今はこれに賭ける他あるまい」


 そう決意の表情でもって告げた将軍の掌には、幾何学模様や古代語が刻まれたメダルのような物が収まっていた。そのメダルの中心には小さく丸い宝珠が備わっていた。


「これで新たなゴーレムを誕生させる。こいつを守護していたゴーレムからしてあの強さだ。魔力の補充は完全ではないがきっと化物が生まれるに違いあるまい」


 そう、簡単な話であったのだ。化物共には化物をぶつければいいだけの事。将軍はその古代遺物(アーティファクト)を発動させた。




 一仕事終えた恵二は北門の付近で身を潜めスキルの回復を図り、完全回復すると急いで外側を周り正門前に陣取っていた王女派と合流を果たした。


 どうやらこちら側に死者は無く恵二の知人は皆無傷か軽傷と無事に初陣を終えたようで安堵した。逆に仲間達も恵二の無事な姿に笑顔を見せ、大仕事をやってのけた恵二を褒め称えた。


「よし、第一段階は怖いくらいに順調だ。だが、まだまだあちらの数は多い。ケージの報告では最低でも後5体ゴーレムがいるそうだからなぁ」


 ロキが油断するなとそう告げると他の面々は素直に頷いた。


「しかし、ケージの話は気になるな・・・。まさか将軍の首に賞金が懸けられるとは・・・」


「あ、あのぉ。もしかしてリアさんが何かしてくれたんじゃあ・・・?」


 フレイアはおずおずとそう意見を述べた。確かに彼女はギルド長の知人であるようで、現状を打破するべくギルドに赴いたような置手紙を残して姿を眩ませた。だが本当に説得だけでギルドの方針が変わったのだろうか皆が半信半疑であった。


「・・・どちらにしろ、その話が本当なら将軍が黙っちゃあいねえ。すぐにギルドに兵を送るだろう」


「そ、そんな!すぐにお助けしないと・・・!」


「んー、無茶だと言いたい所だが、敵の敵は味方って言うからなぁ。・・・つーか、ギルドが俺達の敵ってのがそもそも可笑しいんだけどよぉ」


 人一倍ギルドに貢献してきたAランク冒険者であるロキはそう自嘲した。


「すぐに行動するのは賛成だぜ。あっちがギルドに兵を割いている内に俺達は俺達で仕掛けようぜ」

「ああ、我々も一刻も早く王城を奴らから取り戻したい」

「今あいつらの士気はガタ落ちだ。そこへ王女様が呼びかけしてくれれば投降する兵や同調する者が増えるかもしれない」


 賛成多数で即行動に移す事を決めた。このまま外で待っていても相手に何か対策案を与えてしまうかもしれない。時間は決してこちらの味方では無いのだ。


「分かった。これから市街戦に入る。人数が少ないこっちには有り難い戦場だが、くれぐれも一般人には気を付けろよ?それとなるべく固まって行動しろ!いくら町中でも大勢で囲まれたら終いだ。場合によってはまた恵二の土盾(アースシールド)で分断して貰う」


「ああ、準備しておくよ」


「よし、異論なければ突撃だ!塀の上の監視をなるべく排除しつつ例の場所から踏み込むぞ!」


『おう!』


 王女派一行は遂に王都レアオールへ踏み込むことを決断する。冒険者達はこれからの激戦に己を鼓舞し、王女や親衛隊員は最早叶わぬと思っていた王都の帰還を目の前に心を震わせた。


 一行は王都の東にあるレアオール湖目指して進軍を開始した。




「―――報告!」


「・・・どうした?」


「はっ!監視の報せでは王女派が動き出した模様。現在東へ進軍との事であります」


「・・・東、だと?奴ら諦めて逃げるつもりか?」


 てっきり人数差を考慮した市街戦を持ちこむものとばかり考えていた。正門か、あるいは他の門から攻め込むものと予想し、兵を多数待機させていた。


 例の巨大土盾(アースシールド)は厄介であったが、それがあると分かればそれ相応の動きをすればいいだけだ。町中で分断されても最悪家を壊して道を作ればいい。

 国民から苦情が出るやも知れぬが全て戦に勝った後、逆賊である王女派の仕業だと擦り付ければいい。そう考えていた矢先にこの報告だ。若干肩すかしであった。


「ふむ、これならば急いでコイツを呼び出す必要も無かったか?」


 将軍の視線の先には、丁度ガラード将軍と同じくらいの背丈である黄金のゴーレムが佇んでいた。大きさこそ銀鎧の古代人形(エンシェントゴーレム)より小さいが、その性能は恐るべきものであった。



 将軍が先程手にしていた<古代遺物(アーティファクト)>は、ここレアオール城の地下に眠る遺跡から発掘された物だ。その遺跡は歴代の王を継ぐ者のみしか入る事が許されず、その情報も秘匿されていた。王自信も先祖からの決まりで他言無用のまさに機密事項(トップシークレット)であった。


 だが、世の中に漏れない秘密など無い。歴代の王の中にはその遺跡の中にある情報を本にし、厳重に封印していた者もいた。


 見せる気が無いのなら態々本にしなければいいと思うのだが、この国の状況に絶望し少しでも情報が欲しかった将軍が封印されたその書物に目を通すのは最早必然であった。それを読んだ将軍は頭を金槌で殴られたような衝撃を受けた。


 まさか毎夜他国の侵略に怯え策を巡らせていた将軍の足元に、それらを一気に解決する古代の超兵器が眠っているというのだから驚きだ。それは長い年月を掛け魔力を送る事で、その代償に魔力を送り続けた主を守護するゴーレムを生み出す<古代遺物(アーティファクト)>だという。


 早速それを調べるべく将軍は、王の留守を狙い何度も地下にある不可侵な遺跡の調査に乗り出した。そこで見たものは書物の通り、例の<古代遺物(アーティファクト)>とそれを守護するゴーレム達であった。


 最初は強行して<古代遺物(アーティファクト)>を手に入れようと試みたが、それを守護するゴーレムにして異常な強さであった。1体なら兎も角多勢のゴーレム相手では全く歯が立たなかったのだ。


 そこで将軍は王族に目を着けた。あそこは王を継ぐことが決まった王族の者が儀式として赴く遺跡。過去何度か執り行われたがその内容は極秘。しかし、どの王も無事に戻ってきた。そこに絡繰りがあると将軍は判断したのだ。


 そして将軍は見事その賭けに勝った。王を脅迫し無理やり遺跡に同行させた将軍の想像通り、ゴーレム達は王の前では大人しくなった。更に嬉しい誤算で<古代遺物(アーティファクト)>を手に入れ魔力を注入した途端、それを守護していたゴーレム達は将軍の命令を聞くようになった。これでいちいち王を盾にする必要も無くなった。


「将軍、そなたは間違っておる!それは決して表に出してはいけない兵器だ!すぐに思い直せ!」


「王よ、貴方こそ思い直すべきだ。他国がより一層軍事力を高めているというのに相変わらずのその能天気な思考。・・・反吐が出る!」


 結局王とは相容れる事が無く将軍は王の首を刎ねた。クーデターの始まりである。将軍はそれから逐一その<古代遺物(アーティファクト)>に自身の魔力を注いできた。魔力を溜めれば溜めるほど、解き放たれるゴーレムの強さも変化するらしい。後で学者に遺跡を調べさせた結果判明した事だ。


 幸い遺跡で守護していた16騎の古代人形(エンシェントゴーレム)も十二分に戦力となり、最後の切り札となる<古代遺物(アーティファクト)>を使う間でもなく王都を制圧する事が出来た。


 残りの杞憂は継承権のあるフレイア王女だけであったが、どこかに軟禁でもして傀儡にしてしまえばいい。これで完全にヴィシュトルテ王国は掌握できる筈であった。やっと遠い過去の強い強国だったヴィシュトルテを作り上げる事が出来ると将軍は歓喜した。


 だが―――――



「―――ほ、報告!」


 慌てて駆け寄ってきた兵士の言葉に将軍は思考を中断する。


「―――何だ?騒がしいぞ!」


 やや不機嫌そうに聞き返すも、伝令兵は焦っているのか将軍の態度を全く意に介さずこう告げた。


「王女派が東から王都内に侵入致しました!」


「―――なんだと!?」


 これには流石の将軍も驚きを隠し得なかった。今伝令兵は確かに東といった。だが東側は王都を囲っている塀のすぐ横に巨大な湖がある。つまり天然の堀であった。船で近づかない限り一軍の侵入など出来る訳が無い。それとも我が軍の見張りは悠長に船で近づいてくる王女派の行動を見逃したとでもいうのだろうか。


「ど、どういうことだ!?何故東から侵入された!?」


 困惑した大臣は直ぐに兵を問い詰めると、伝令兵は信じられない事を告げた。


「そ、それがレアオール湖の一部が凍っておりまして・・・。奴らはその氷上から塀を破壊し侵入した模様です」


「―――はぁ!?」


 兵の返答に大臣は大きな声を上げた。確かにレアオール湖は冬場の寒い時期に少し氷が張る事もある。しかしとても人を、ましてや軍隊の重量に耐えうる厚さの氷が張る事は決して無い。しかも今は本格的に夏場を迎えようとしている暑い時期だ。


 この兵は何を寝ぼけた事を言っているのかと大臣は伝令兵の頭と自身の耳を疑った。


 一方将軍は兵の嘘のような報告を否定する事を直ぐに止めて行動に移った。


「直ちに正門と西門に待機させていた兵を東へ送り防衛線を張れ。北門に念の為残していた兵は全て王城に集めろ!」


「はっ!」


 伝令兵は敬礼をすると急ぎ将軍の命令を伝える為部屋を後にした。


「将軍!今の報告を信じるので?」


「俄かには信じられん話だが侵入されたというのなら動かぬわけにはいくまい?それに今日は何度も信じられないものを見たよ、大臣」


 将軍は全く動じず笑顔まで見せて余裕そうに答えた。


(成程、確かに化物ならば湖を凍らせる事くらいしてみせるのだろう。だが、こちらの化物はそれ以上だ!)


 心の中で気を吐いた将軍は、目の前で動かずにじっと命令を待っている黄金の化物(ゴーレム)を見つめた。

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