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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~  作者: つばめ男爵
1章 新米冒険者ケージ編
83/244

出番は無いよ

「―――何!?王女達がこちらへ向かっているだと?」


「はっ!現在詳しい数を確認中ですが恐らく50程であろうかと・・・」


 冒険者ギルドの造反を聞きつけたガラード将軍は、直ちに愚かな反逆者達を根絶やしにしようと考えていた、丁度そんな矢先での報告であった。将軍はその報せを耳に入れると黙ったまま長い間思案した。


(これは偶然か?余りにもタイミングが悪すぎる。さてはラッセンの奴しくじりおったな・・・)


 王都の政権を乗っ取るにはどうしても無視できない邪魔者達がいた。その内のひとつが冒険者ギルドだ。将軍は水面下でギルドの情報を集めていた。そこで最大の障害となり得るのはギルド長であるメルシアとAランク冒険者ロキの存在だ。あの二人はどうあっても敵対するであろうと予め予測を立てていた。


 そこで将軍が取った行動は、目には目を冒険者には冒険者をであった。メルシアには彼女を疎ましく思っていた副ギルド長のラッセンを、そしてロキには因縁の相手でもあるAランク冒険者オッド・トルーガーを唆しこちら側へと引き込んだ。


 結果ロキの暗殺は失敗したものの、ラッセンは将軍の要望を見事果たしメルシアギルド長の暗殺に成功した。その後の対応こそ問題があったものの、あれは金と地位さえ与えておけば従順ではあった。


 故にラッセンが裏切ったとは思えない。では冒険者ギルドから発表された自身の首に賞金が懸けられたというのは一体何が起こっての出来事であろうかと考察する。


(誰がギルドを動かしている?それにあの出鱈目な賞金は一体・・・)


「将軍、直ぐに兵を向かわせてフレイア元王女を始末致しましょう。さすればこの国の実権は貴方と私のものだ!正式な国の統治者となればギルドにも横槍を入れられずに済みます!」


 大臣は真っ先に王女を片づけようと提案をしてきた。それには異論の無い将軍ではあったが何かが引っかかった。


(・・・何故奴らは向かってくる?こちらの兵が集結しているのだぞ?まさか勝算があるとでも言う気か?)


 互いの兵の数はざっと6倍差で地の利もこちらにある。装備も勝っている上にこちらは虎の子の古代人形(エンシェントゴーレム)まで所持しているのだ。その数は若干減らされたものの全部で残り13騎とそれだけでも余裕で相手を殲滅出来る程のポテンシャルを秘めていた。


「将軍!もうそこまで王女派が迫っておるのですぞ。素早いご決断を!」


「・・・兵を150とゴーレムを10騎投入しろ。王女派共を一気に潰す!」


「はっ!」


 将軍の指示を受けた伝令はすぐさま行動に移すべく部屋を後にした。


「おお!豪胆ですな。相手の3倍の兵数に加え、こちらの切り札をそれだけ投入なされるとは・・・」


「―――大臣、私は何だかとても嫌な予感がする」


「・・・は?」


 将軍の急な告白に大臣は思わず間抜けな声を上げてしまった。それも無理は無い。ガラード将軍のこんな弱気な台詞など、そこそこ長い付き合いでもある大臣でさえ聞いた事がないのだから。


「奴らの考えが全く読めん。更にギルドの意味不明な離反。・・・大臣、貴方はこれをどう見る?」


「すみません。正直私にも何が何やら・・・。しかしこの戦力差を覆すなど到底できますまい」


「それは分かっている。だが、あちらもそんな事分かっているものとばかり思っていた。これがただ愚か者が破れかぶれの特攻をしているだけであればいいのだが・・・」


 将軍の言葉にも一理ある。しかし政治の事ならば兎も角、戦事には長けていない大臣に答えなど出る筈もなかった。故に彼は将軍を鼓舞する為にこう提案した。


「ならば私が不安の片方を取り除いてきましょう。残りのゴーレムをお貸しくだされ。それと50ばかしの兵を・・・。ギルドへは私が向かいます。将軍は王女派に差し向けた兵達の指揮をお願い致します」


「大臣・・・分かった。そちらは任せるぞ?」


「将軍もご武運を!」


 こうしてクーデターの首謀者二人はそれぞれ別の戦場へと赴くのであった。




 一方恵二は依然潜伏先である正門近くの塀の上で潜んでいた。


(そろそろあちらも動き始めたな・・・。確か分断する数は60~70人がベストっと・・・)


 恵二の使命は相手戦力の分断という、かなり重要度の高い任務であった。これをもし失敗すると味方は相手の圧倒的物量でもってすぐに崩壊してしまう。つまり簡単にいえば全滅だ。


(それだけは絶対に阻止する!)


 かといって少数だけ通して殲滅しても意味が無いのだ。この分断作戦は相手に意図されてしまうと今後使えなくなる。つまり今回限りの一大作戦であった。


(こちらが余裕を持って倒せる数の最大上限数を外におびき寄せて、後は王都の中に閉じ込める!)


 その数のベストが大体60~70人と皆で話し合った結果であった。勿論例の古代人形(エンシェントゴーレム)の数によっては同じ頭数でも違いが出てくる。だがそこもまた恵二の見せ場でもあった。


 恵二には広範囲で魔力の反応を探知する術があった。自身のスキル強化によって性能アップした魔力探索(マジックサーチ)である。更に恵二の器用さはそれが人かゴーレムかを見極めることも可能であった。


(出来ればゴーレムは多くても5体くらいに絞りたい。ゴーレムの総数は不明だが20はいないと聞いている。この前のと合わせて後5体くらい壊せば半数くらいが大破したことになる。そうすれば相手の兵の中にもこちらに投降する者が出てくるかもしれない)


 あちらの切り札ともいえるゴーレムの数さえ減らせれば、もしかしたらこの内乱も治まるのではと期待してしまう。セオッツやサミあたりには“甘い”とまた怒られるかもしれないが出来れば人殺しなぞ御免だ。戦わずに済むのならそれに越した事は無い。


 だが、それ以上に仲間や友人が傷つくのは我慢ならない。とっくに覚悟してこの役を買って出た筈なのになと恵二はひとりごちた。


 あれこれと考えている内にあちらは隊列を組み終えたようだ。恵二は未だ自らが作った土盾(アースシールド)の中に閉じこもっているのでその風景は見えないが魔力反応で大体の事は分かる。だがひとつ予想外の事態が起きていた。


(―――ゴーレムが・・・10体!それも密集している!?)


 相手の最大戦力だと思われるゴーレムが10体も一塊に集まっている。これでは分散が難しそうだ。


(・・・どうする?いっそのことゴーレムを全部王都内に閉じ込めて兵士だけを・・・駄目だ。ゴーレムの前には30人しか反応が無い)


 彼らの隊列はこうであった。前から順番に騎馬30、ゴーレム10、兵士30、騎馬30、兵士30、兵士30と合計で兵士90、騎馬隊60、ゴーレム10体であった。


 馬と人の反応も区別できる恵二は騎馬隊の数こそ詳しく分かるが、流石に歩兵が近接戦闘をするのか、それとも弓兵や魔術師なのかまでは分からなかった。だが、そこは大きな問題では無かった。恐らく弓兵や魔術師は後ろに配備されているであろう。


 問題はゴーレムをはじき出すと、たった30人しか釣りだせない。かといってゴーレム10体はロキ達に負担が掛かり過ぎてしまうという点だ。


 そう考えている内に一番先頭にいた騎馬隊30の反応が正門を通って行くのを感知した。


(・・・仕方ない。少し無茶をするか)


 意を決した恵二はタイミングを見計らって閉じこもっていた土盾(アースシールド)の中から飛び出た。




 それは、ガラードの指示通りにゴーレム10騎が正門をくぐり、その次に配備されていた歩兵30人の部隊が正門を通り過ぎた丁度その時に起こった。


 突如、塀の上から何者かが飛び降りてきた。


「―――何者!?」


 急に目の前に飛び降りてきた少年にいち早く気が付いたのは、その正門を通りかかる前であった騎馬隊の一団であった。部隊長を務める男はその怪しげな少年に声を掛けるも彼は一度も振り返らず背を向けながらこう告げた。


「悪いけど、あんた達の出番は無いよ」


 少年はそう告げると無詠唱で魔術を、それも5つ同時に放った。それは目の前を歩いていた歩兵部隊の間を掻い潜り、更に前に配備されていたゴーレムの5騎にそれぞれ着弾した。魔術を当てられたゴーレムはすぐにその犯人である少年を捕捉すると、猛スピードでそちらの方に駆け出した。


 少年が放った魔術は恐らく火属性の初級魔術である火弾(ファイヤーショット)であろう。その威力こそ低かったものの無詠唱で、更には同時に5つもの魔術をあそこまで巧みにコントロールして放つとは一体どれほどのセンスなのだろうか。将軍は思わず見惚れてしまっていたが、すぐに彼が何者であるかを思い出した。


 それはかつてある冒険者の報告書に書かれていた眉唾物の存在である少年の姿と酷似していた。


(―――奴だ!奴こそが今回のイレギュラーだ!私の不安の種はコイツで間違いない!)


 天啓を得たかのような将軍は、そう確信するとすぐに声を張り上げ兵達に指示を出した。


「あの小僧を打ち取れ!アイツこそ此度の戦の一等首だ!」


 ガラード将軍がそう檄を飛ばすと兵士達の目の色が変わった。あの少年さえ打ち取れば昇進は勿論、報奨金も手に入る。そう考えた腕自慢達が次々とその少年の元へと殺到した。


「どけどけえ!アイツは俺が仕留める!」

「ふざけるな、俺がやる!」

「うおおおおお!」


 正門付近ではいち早く戦場の雄叫びが放たれた。




 恵二は困惑していた。


 始めは突然空から降って現れた恵二の姿を見た兵士達は皆が戸惑っていた。それも無理はないであろう。だがそこで少しでも思考を止めてくれるのはこっちとしては願ったり叶ったりだと考えた恵二は、先程思いついた案を直ぐに実行に移した。


 それは正門を過ぎたゴーレムを魔術でおびき寄せ、再び王都内に入ったところで封鎖するという強硬策であった。


 今の所その策は順調で、強化を全くしていない軽い牽制程度で放った火弾(ファイヤーショット)を受けたゴーレムの5体がこちらへと殺到する。それに反応する形で残りの5体も迫ってきているが問題ない。要は5体が門を潜り抜けた時点で壁を張ればいいだけのことだ。


 だが、ここで思いのほか早く敵の指揮官から指示が飛んだ。


「あの小僧を打ち取れ!アイツこそ此度の戦の一等首だ!」


「―――っい!?」


 当然いきなり現れた輩がゴーレムに魔術を放てばあちらも黙ってはいないであろう。だが、あの指揮官の口ぶりでは、ただ不審者を排除しろという命令では無く、まるで怨敵が現れたかのようなニュアンスに取れた。当然それを聞いた兵士達は手柄欲しさにすぐさま殺到する。


「おいおい、これから戦をやろうってのに大勢で子供相手に構ってる余裕なんかあるのか?」


 思わず皮肉を呟くも焼け石に水どころか火に油なようだ。


「あの生意気なガキは俺の獲物だ!」


 一番近くにいた騎乗している兵士がそう叫びながら近づいてくる。そちらに気をとられながらも恵二は横目でゴーレムの位置を確認する。どうやらもうそろそろで正門を通過する。


 そこで恵二が取った行動は逃げの一手であった。


 向きを90度変えると西の方へと走り出した。足にはそこそこの自信がある恵二であったが流石に強化無しでは馬に敵う筈もない。せいぜい追い付かれるのが数秒遅れるだけだ。だが、その数秒の間でゴーレム達はいよいよ正門を通過し始めた。


(・・・3、・・・4、・・・今だ!)


 恵二は迫りくる騎馬兵を無視し正門に右手を向け大声でこう叫んだ。


「―――土盾(アースシールド)!」


 恵二は魔術を放つ際呪文を唱える必要が殆ど無い。だが、あえて大声を出したのは今から放つのが超巨大な土盾(アースシールド)であったからだ。最早今更であり、ほんの気休めかもしれないが無詠唱で大技をバンバン放つ異常者とみられるのを防ぐためだ。スキルの存在は極力隠しておきたい。


 大声と共に放たれたその魔術は、予め自身の魔力を十二分に強化させた恩恵もあり、凄まじい速さで地面から大きな地響きを立てつつ出現した。そして恵二の目論見通りゴーレムの5体目が通過した丁度その後に、その土壁は正門を完全に塞ぐ形で完成を遂げた。


「―――なっ!?」

「・・・は?」

「え、ええええええ!!」


 それを目撃していた兵士達はまるで夢か幻でも見ているかのような表情をしていた。最早いきなり乱入してきた少年を気にする者など極僅かだ。だが、その極僅かである一番近くにいた騎馬兵はすぐそこまで迫っていた。彼は手柄欲しさにその目標である少年に夢中で状況を全く理解していないようだ。


「―――貰った!」


 男は薙刀のような槍を装備していた。どうやらその射程に入ったようだ。得物を振りかぶり恵二へと振り払おうと試みる。だが、そこで恵二が取った行動はまたしても逃げる事であった。


(ここにはもう用は無い。お次は西門だ!)


 恵二は自身のスキル<超強化(ハイブースト)>で脚力を強化すると、迫ってくる騎馬兵の速度を一瞬で凌駕し加速し始めた。まさか人の身で馬よりも素早く動くなど想定外であった男の攻撃は虚しく空を切る。


 だが追跡者はその男だけではなかった。次に迫って来たのは古代文明が作り上げた叡智の結晶とも言われる古代人形(エンシェントゴーレム)達だ。かなりの重量がある鎧の塊にも関わらず、そのゴーレム達は馬よりも素早く恵二の方へ迫って来た。


 だが、恵二のスキルはその更に上をいった。


(―――超強化(ハイブースト)3割増し!)


 さっきまで2割程度で強化していた脚力を更に一段階引き上げる。すると恵二とゴーレム達との差はぐんぐんと広がっていく。


(よし、これくらいなら任務に支障は無い。ゴーレムもすぐに撒けるだろう)


 恵二は後ろを確認する事を止め西側にある門を目指した。




「な、なんて速度だ・・・。あれ、本当に人間か?」

「・・・つーかなんだよこの壁?」

土盾(アースシールド)って言ってたぜ?ありえねえよ・・・」


 突然現れた少年と巨大な土の壁。そして人間離れした速さで遠ざかって行く少年の後姿を見送りながら兵士達は思い思いの感想を述べた。


 ガラード将軍も信じられない光景を連続で見せられ一瞬思考を停止してしまったが、すぐにこの壁の意味と少年が向かった方向から次に何が起こるのかを察する。


「―――まずい!騎馬隊!直ちに西・・・いや、北だ!北へ向かえ!全員大至急だ!王都の門が全て封鎖される前に急げ!」


「―――っ!りょ、了解であります!」


 将軍の命令でやっとこの事態の深刻さを理解した騎馬隊長が、部下に指示を飛ばしすぐに北の門へと馬を走らせた。


「残りの者はこの壁の破壊だ!魔術師団、詠唱を準備しろ!メインは水属性、お互いの魔術で威力を相殺するなよ?」


「はっ!」


 こちらも将軍の一声ですぐ行動に移す。ヴィシュトルテの兵士は他国と比べ数こそ少ないが良く統率が取れていた。軍を指揮する事に関してガラード将軍には間違いなく資質があった。それを日頃見てきた腹心達であるからこそ、忠誠を誓った自らの主である王を裏切ってまで将軍に付いて来たのだ。


 だが、例え一軍の扱いに長けようと、部下からの熱い信頼があろうとも、文字通りその目の前にそびえ立つ巨大な壁はビクともしなかった。

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