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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~  作者: つばめ男爵
1章 新米冒険者ケージ編
70/244

だと思ったよ!

「お初にお目にかかります。私はフレイア・ヴィシュトルテと申します。ロキ様とクラン<濃霧の衛士>のご活躍は私も耳にした事がございます」


「それは!なんとも光栄な・・・。こちらこそ王女様にお会いできて嬉しく思います」


 ロキはそう丁寧に述べると再度頭を下げたがフレイアがそれを制した。


「あまり私に畏まらないで下さい。現在お城は将軍の手に落ち王権は無いに等しく、私はただの16の娘に過ぎません。普段通りで結構ですのでもっとフランクにお話し下さい」


「それは・・・。いえ、わかりました。では早速本題に入らせて頂きます」


 多少姿勢を楽にするも、さすがに恵二のようにタメ口はせず敬語のままで話を続けた。


「ずばりお聞きします。王女様はこの先どうされるおつもりでしょうか?」


「・・・この先、ですか?」


 ずばりと言った割にはなんとも抽象的な質問にフレイアは思わず聞き返してしまう。ロキはその返答を予測していたのか、もっと分かりやすく伝えた。


「つまり、このまま将軍からお逃げなさるのか、それとも抵抗を続けるのか、です」


「―――ロキ殿!?その言い方はあんまりでは・・・!」


 ロキの問いに声を上げたのは親衛隊の副隊長を務めるオーランドであった。どうやら“逃げる”といったワードに不快感を示したようだ。余りにもストレートな物言いだったのであろう。しかし、それをフレイアは構わないと口にしオーランドを下がらせた。


「確かに、現状の私は将軍からただ逃げているだけになります。正直な話、私にはまだどちらの覚悟もできてはおりません。国も身分も捨てて逃げ出すのか、それとも命を賭して将軍に刃向うのか・・・。これが今の私の正直な気持ちです」


「フレイア様・・・」


 王女の考えを耳にした親衛隊員皆が悔しそうに顔を俯かせていた。彼らは皆が王権奪取に向けて命を懸ける覚悟であったのであろう。しかし、王女にはまだその覚悟が無いと聞かされて気落ちしてしまったのだ。


 だが何もそれは王女が自分たちの気持ちを汲んでくれずにがっかりしただけではなかった。自分たちの無力さが、王女に反抗をする気概を後押し出来なかったのだと、己自身の弱さを嘆いてのものであった。


 そんな親衛隊たちの葛藤を知ってなのか、ロキは再度口を開いた。


「そうですか・・・。しかし、それは現時点でのお気持ちですよね?条件が整い、戦力が十分なら考慮して頂ける。・・・違いますか?」


「・・・貴方達<濃霧の衛士>と組めば勝てる。そうおっしゃいたいのでしょうか?」


 確かにこの国でトップレベルのクラン<濃霧の衛士>が加わればかなりの戦力になるであろう。しかし、それでも将軍が率いる兵の数は膨大で、更には同等の戦力を持つクランもあちらについている可能性があると先程別の冒険者から聞かされていた。それだけで自分や他の者の命を懸けられるほどフレイアは傲慢でも愚かでもなかった。


 だがフレイアの問いにロキは首を横に振りこう告げた。


「勿論我々だけではありませんよ。他にも冒険者や王族派の兵士から協力者を募り戦力を増やしていくつもりです。ハッキリ結論から言わせて頂きますが、我々<濃霧の衛士>は王女様の意志には関係なく将軍に敵対するつもりです」


「――!?」

「―――正気ですか!?」


 ロキの言葉は意外だったのか、思わずオーランドは口を挟む。それに頷くとロキは事情を説明した。


「これは国だけでは無く我々冒険者の沽券にも係わる問題なのです。・・・今回のクーデターですが、恐らく将軍や貴族だけでなく、初めから冒険者ギルドの内部の者の多くが関与しております」


「―――なんですって!?」

「―――っ!」


 これには恵二も驚いた。一部の冒険者が将軍側に依頼という形で協力しているとの情報は得ていたが、まさか初めからクーデターに参加していようとは夢にも思わなかった。


「その情報は確かなのですか?」


 これがもし本当であれば、場合によってはギルドの存続も危ぶまれる重大懸念事項である。それは本当の話なのだろうかと王女は問うと、ロキは首を横に振りこう答えた。


「・・・残念ながら、現時点では確たる証拠を掴めておりません。それと、クーデターが始まる大分前からギルド長とも連絡が取れないのです」


「―――!?」

「それは本当っすか!?」


 今度はリアが横から声を出す。突然の質問者にロキは首を傾げるが、すかさずフレイアはフォローを入れた。


「彼女はギルド長の知人です。野盗に襲われていた私を助けてくれた、そこの冒険者の方の同伴者です」


「ほう、君も冒険者か?若そうだが腕が立つようだな」

「おお、彼が王女様を助けてくれたのか!」

「あんな少年が!?」


 いきなり話を振られ注目され始めたので恵二は慌ててしまった。


「私達も彼に救われた。彼は少年とは思えない凄まじい腕の持ち主だ」


 更にオーランド達までよいしょし始めたので恵二は顔を赤らめた。話の流れで恵二は自己紹介を催促され名を名乗った。


「えっと、Cランク冒険者のケージ・ミツジです。」

「行商人のリアっす。私もギルド長に会いに来た道中ケージさんに助けられたっすよ」


「Cランク!?その年でか・・・」


「ロキさん。この少年の腕はBランクの俺以上です。逸材ですよ、彼は!」


 カッツリーノまで恵二を持ち上げた。


(うーん、かなり注目され始めたな。悪い事ではないと思うんだけど、素の状態の俺の実力はDもあるか怪しいからなぁ・・・)


 なんだか居た堪れない気持ちになってきた少年に救いの手を差し伸べたのはフレイアであった。


「ごほん、話を戻します。つまり、冒険者の中にも初めからクーデターの加担者がおり、あなた方としては無視できない。そういう事でしょうか?」


「ええ、それもありますしギルド長のメルシアさんは俺達の恩人でもあります。放っては置けません。恐らく彼女は副ギルド長ラッセンの手にかかって拘束されているのか、あるいはもう・・・」


 既に殺されている可能性があるとロキは伝えた。どちらにしろ恩人であるメルシアの身に何が起こったかは確認する必要があるようで、<濃霧の衛士>単独でも動く覚悟がある事を伝えた。


 すると、今度はフレイアに代わり親衛隊副隊長のオーランドが口を出してきた。


「貴方達の事情は良く分かりました。ですが、将軍の動かせる兵の数は最低でもざっと300人。王女様と敵対すると聞けばある程度人数を減らせるかもしれませんが、あちらも冒険者や傭兵を使ってくることを想定すると、そう変わらないでしょう。対してこちらは対抗できる程戦力が足りているのでしょうか?」


「・・・現在うちの者に協力者を集めて貰っているがまるで足らん。だが、向こうの冒険者についてはこちらでなんとか押さえられると思う。現在他の町や国にあるギルドにも応援要請を出している。ギルドの不祥事とあってはある程度の協力が見込める筈だが・・・」


 ロキは言葉を詰まらせた。何か懸念材料があるのだろう。それについては心当たりがあるようで、オーランドは話を続けた。


「最大の懸念事項はあの魔導人形(マジックゴーレム)という事ですね?」


「ああ。それほど数はいない筈だが、あのレベルのゴーレム相手では俺やトリニスでないと対応できんだろう」


「ちょっと待って下さい。あのゴーレムは他にもいるのですか?」


 オーランドとロキの会話にフレイアが割り込んだ。彼らが話しているゴーレムとは、恐らく恵二たちを襲ってきたのと同一であろうとフレイアは口を出したのだ。


「フレイア様。もしかして、貴方様の方にもゴーレムが来たのですか?」


 フレイアの質問に質問で返すオーランド。本来そんな粗相など行わない男であったが、クーデターの際猛威を振るったあのゴーレムが王女にも差し向けられていたとは夢にも思わず、つい聞き返してしまったのだ。


「ええ、一体だけですが、銀の鎧を纏った魔導人形(マジックゴーレム)が襲い掛かってきました。そのゴーレムもケージさんが倒されてしまいましたが」


「――なんと!」

「・・・お前、あのゴーレムを単騎で倒したのか!?」


 王女の発言に再度恵二に驚愕の視線が集まった。話を聞くと、どうやら今回のクーデターを阻止できなかった最大の要因は、十数騎の魔導人形(マジックゴーレム)が大暴れしたせいであるらしい。Aランクであるロキや<濃霧の衛士>に所属するもう一人のAランク冒険者がなんとか応戦できたものの、単騎ではとても倒すまでには至らなかったのだと話す。


「つまり、Aランク相当かそれ以上のゴーレムが更に十数騎も将軍の手の内にあるのですね・・・」


 フレイアの言葉にロキは頷き答えた。


「はい・・・。正面からぶつかれば、まず我々に勝ちの目は無いでしょう・・・」


「他の支部からの応援の冒険者というのは、何時頃到着されるのですか?」


「・・・うまく交渉がいったとしても、揃うのに4日は掛かるかと。その頃には俺もこのくらいの怪我治してみせますよ」


 そう答えて怪我している右足を軽く上げた。どうやらクランの中に回復魔術を扱える者がいるらしく、魔力が回復する度にかけ続けてもらえれば3日もあれば完治するらしい。


(単純な怪我に関しては魔術がある分、医療技術はこちらの世界の方が上なんじゃないのか?)


 そう思えるほどロキの怪我はとても3日かそこらで治るようには見えなかったのだ。


「大体の戦力は理解できました。ですが、やはりまだ私のこれからの行動をこの場で即答する訳にはいきません。・・・3日だけ猶予を頂けませんか?それまでには将軍に立ち向かうか、それとも逃げ出すのか、よく考えたいと思います」


「ええ、分かりました。それまではここの隠れ家をご自由にお使い下さい。仮に例え道を違えても、後から難癖つけるような行為は誓って致しません。案内させますので存分におくつろぎ下さい」


「何から何まで・・・ご配慮痛み入ります。・・・ケージさん。後で少しお話があります。お時間を頂いても宜しいですか?」


 フレイアはロキに感謝の言葉を述べると、後で話があると恵二に声を掛けた。この場では話し辛い事なのだろうかと首を捻るも、特に断る理由も無く頷き返事をした。


「?ああ、分かったよフレイア」


 つい先程までの癖で王女を呼び捨てにしてしまい親衛隊員達に凄い形相で睨まれるも、フレイア自身が構わないと周りを制止した上に王女の命の恩人とあっては彼らも渋々と恵二の無礼を咎めなられなかった。


「人に散々言っておいて・・・。ケージさんの図太さも大概だと思うっす」


「そ、そうかなぁ・・・」


 少年が元いた世界では大人に敬語を使う事はあっても、同年代にはタメ口で話していた恵二にとってフレイア相手にはどうしても敬語はしっくりこなかったのだ。




 王女一行がカッツリーノの案内で去って行くと、この場に残されたのはケージにリア、それと道中奇妙な縁で一緒になったロイドとエイワスの二人組の冒険者とここの隠れ家のリーダーであるロキのみとなった。


「さて、王女様とのやり取りは一段落したし、後はお前さん達にちょっと話があるんだが・・・。姫さんに牽制されちまったなぁ・・・」


「え?」


 ロキの言葉の意味がよく分からず首を傾げる恵二を余所にロキは話を再会した。


「そうだな、ケージ君にリア嬢ちゃんは自己紹介して貰ったし、後ろの二人もここの隠れ家を知った以上は無関係って訳にはいかねえしな。済まねえが先に後ろの二人の名前を聞かしちゃくれねえか?」


 ロキがそう問うとロイドにエイワスは各々の名前にランクと、ここまで来た経緯を簡単に説明した。


「そうか、事情は分かった。異国のお前さん達を巻き込んでしまって悪かったなあ」


 話を聞き終わったロキは二人組の冒険者に向かって頭を下げた。Aランクの男に頭を下げられ気恥ずかしいのかロイドにエイワスはこう告げた。


「いや、いいってことだよ。俺達も冒険者として放っては置けねえし、何よりあのいけすかねえ副ギルド長の鼻を明かしてやりたいって気持ちは分かるぜ!」


「おうよ!それにさっき相棒と相談したんだがよぉ。・・・良ければ俺達をあんた達のクランに入れてくれねえか?あんたの名は外から来た俺達でも知っているし、何よりここの連中とは気が合いそうだ。今回のも何かの縁だろうし、あんた達や王女様の力になりてえんだよ!」


 どうやら二人は人情に厚いのか、ロキ達やフレイアの力になりたいと申し出た。それをロキは快諾しこう告げた。


「そりゃあ助かる。勿論歓迎するぜ!元々お前さん達にも声を掛けようと思っていたところさ。だが、王女様はまだ戦うって覚悟が決まってないようだが、それでもいいのかい?」


 ロキの言葉に二人は顔を見合わせると、笑ってこう答えた。


「ああ、それでもかまわねえ。王女様がどう決断しようがあんた達に手を貸すのは王女様の為にもなるだろうしな。下々の俺達に料理までしてくれる王女様の為なら命を張るには十分だぜ!」


「ちげえねえ。それにこれは俺の感だが、恐らくあの王女様はご決断されるだろうよ。・・・ま、坊主次第だろうがな」


 エイワスは恵二の方を見てそう答えた。


「?なんでそこで俺の名前が出てくるんだ?」


 周りの者達は何かを察したようで、恵二の疑問には誰も応えてはくれなかった。少年の言葉はそのまま聞き流され、ロキはロイドとエイワスにこう告げた。


「よし、それなら改めて宜しくな、二人とも!ここのクランは基本自由だが、まぁ冒険者らしい最低限のモラルは守ってくれ。他のメンバーには後で紹介の場を設けるからそのつもりでな。・・・さて、今度はリア嬢ちゃんの番だが、お前さんは確か行商人って言ってたな?」


「そうっす。先に言っときますけど私に戦闘の方は期待しないで欲しいっすよ」


「そうか・・・。だが一応ここは<濃霧の衛士>の隠れ家で、現在は解放軍って奴になるのか?将軍に対抗する戦力の前線基地となる訳だが、“働かざる者食い扶持無し”ってことわざが異国にあるらしい。嬢ちゃんは一体ここで何ができる?」


「・・・そうっすね。今手持ちはこれくらいしかないっすが、マジックアイテムをいくつか融通できるっすよ」


「ほう、どんなだ?」


 ロキに尋ねられたリアは背中の大きなリュックを漁ると、中から恵二に以前見せた【エンチャントナイフ】を大量に取り出した。


「・・・このナイフは?」


「このナイフに付いている水晶玉に魔術を込めるっす。するとナイフが着弾した瞬間に水晶に込めた魔術が発動するっすよ」


「・・・マジか?」


「マジっす」


 ロキはどうやら初めてそのナイフを見たようで、興味深げに手に取って眺めていた。一通り調べた後にロキは質問をした。


「ちなみにこの水晶にはどのレベルまでの魔術を込められるんだ?」


「さぁ?試した事ないっすが、少なくとも中級魔術は問題なかったっす。唯一の欠点は、発動した魔術の威力が高い場合は水晶やナイフが壊れて使い捨てになる事っすね。威力の弱い魔術なら再利用もできるっすが・・・」


「いや、使い捨てで強力な魔術を込めるべきだな・・・。これは場合によっては相当戦力になるマジックアイテムだぞ!嬢ちゃん、これは一体いくらで売ってくれるんだ?」


 どうやらロキはこのマジックアイテムを相当気にいったようで、全部欲しいとリアに告げた。


(確かに使い捨てと考えれば、俺の強化した魔術を込めれば相当凄いアイテムになるんじゃないのか?)


 少年の想像以上に凄かったこのマジックアイテムを彼女は一体いくらで売るつもりなのかと思っていたのだが、返ってきた答えは意外なものであった。


無料(ただ)でいいっすよ。その代わり条件があるっす」


「・・・なんだ?」


 これ程の逸品を無料でだなんて一体何を見返りに要求されるのか、ロキは息を飲んだ。そして返ってきた答えは少年の予想通りの言葉であった。


「ここに滞在中は衣食住を提供して欲しいっす。特に食事はしっかりと欲しいっすね」


(だと思ったよ!)


 心の中でそう叫ぶも、これはロキとリアの問題だ。恵二は口を挟まずにただ成り行きを見守った。


「・・・本当にそんな要求でいいのか?なんならそれに加えてある程度の報酬も付けさせて貰うぜ?」


 一方リアの異常な食欲を知らないロキはそんな甘い事を抜かしていた。それを慌てて止めに入ったのはリアの事を熟知しているロイドにエイワスであった。


「ちょっと待ったロキの旦那!お嬢ちゃんがそれで良いって言ってるんだ!衣食住だけで手を打とうぜ!」


「そ、そうだぜ!な、リアの嬢ちゃん。それで勘弁して下さい」


 二人の介入にリアは傍に居た恵二にだけ聞こえるように舌打ちすると、笑顔でこう答えた。


「そうっすね。欲を出してはアムルニス神に怒られるっすね。ここは王女様の為にも一肌脱ぐって事で、それで手を打つっすよ」


「・・・?本当にそれだけでいいのか?」


『いいんだよ!』


 ロキの問いに声を重ねて止めに入る二人に首を傾げながらもその条件で納得をした。彼は後程二人に感謝をする事だろう。それとももっと早く教えてくれと怒るのだろうか。


(<濃霧の衛士>の給仕さん、本当にご愁傷様・・・)


 将軍と戦う前に解放軍が内側から食糧難で潰されないよう恵二はひたすら神に祈った。


「ごほん。さて、それじゃあ後はケージ君なんだがなぁ・・・」


 まだここでの扱いが決まっていないのは恵二一人となったのだが、どうもさっきからロキの歯切れが悪い。それを恵二は訝しげに見遣ると、その視線を察した大柄な冒険者は説明をした。


「ああ、すまん。誤解を招く態度だったかな?ケージ君、いやケージと呼ばせてもらうぜ?本当はお前さんも俺達のクランに勧誘するつもりだったんだが、王女様に釘さされちまったしどうしようかと思ってたんだ」


「フレイアが?」


 何時そんな言葉を放ったのかと恵二は先程の会話を思い出していた。そして、思い至った。


「・・・そうえいば、さっき後で話があるって」


「そう、それだよ。王女様は十中八九お前さんを勧誘するつもりだろうさ」


(そうか、それで・・・。そうだよな、うん。別に、期待なんかしてないし!)


 同年代の、それも可愛いお姫さまから“後でお話が”と言われ、実は期待して舞い上がっていた少年は、心の中で言い訳をしながら少し落胆した。


「まぁ、そう落ち込むな。俺の見立てでは、そんな脈無しには見えなかったぞ?」


「え?いやぁ、その・・・。それは置いておいてお話の続きを・・・」


 どうやら顔に出ていたようだ。少年は誤魔化す為に話の続きを催促する。


「ああ、そうだな。駄目元で言ってはみるが、もし王女様に仕える気がないのなら、うちのクランに入らねえか?お前さんだけを特別扱いって訳にはいかねえが、うちはなかなか居心地のいい所だぜ?」


 ロキは恵二の腕を認めながらも、あくまで公平に一人のメンバーとして扱うと公言した上で誘ってきた。そんなロキの人柄が恵二は気に入った。恐らく男の言うとおりここのクランは本当に居心地がいいのであろう。だが、返事は初めから決まっていた。


「申し訳ないですけど、俺は今のところ国にもクランにも仕える気はないんです。誘って貰えて嬉しかったけど・・・。すみません、俺には他にやりたい事があるんです」


「いや、いいってことさ。まぁ断られるだろうなとは思っていたさ。・・・ちなみに、そのやりたい事って聞いてもいいか?」


 ロキは本当に興味本位で聞いてみたのだろう。すると恵二は目を輝かせこう答えた。


「俺は世界のあちこちを旅して冒険してみたい。ここの遺跡のように色んな所を見て回りたいと思ってます」


 その恵二の言葉にロキは目の色を変えて賛同してきた。


「ほう、そりゃあいい!俺も昔はあちこち回ったもんだ。今は所帯を持っちまってあんまり動けねえが、この国にはまだ色んな遺跡やダンジョンがあるからなあ。・・・ん、待てよ?」


 ロキはふと何かを思いついたのか考えを巡らせた後、恵二にこう告げた。


「お前さん、暫くの間でいいから俺に雇われないか?報酬は滞在中の衣食住とここの遺跡を自由に調べられる権利・・・どうだ?」


 ロキはそう提案をしてきたのであった。

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