とても興味がある
「―――っ!一人やられたか!?」
恵二は魔力探索で様子を伺いながら問題の場所に向かっていた。その最中、魔力の反応が一つ減って8人となったようだ。
「急ぐか・・・。超強化!」
身体能力を強化し、ぐんぐんスピードを上げていく。林を抜けて行くとそこはどうやら別の街道に通じていた。恐らく先程ロイドが話していた別の街道なのだろう。そこには武装した8人の者達と、一人倒れている男がいた。
「―――新手か!?」
「―――誰だ!」
武装した8人は各々武器を振るい詠唱を交えながら戦っており乱戦状態であったが、少年の乱入により一瞬動きを止めた。8人の格好も様々で鎧で武装した者が大半であったのだが、その鎧で武装した者達同士も矛を交えていて恵二は混乱してしまった。よく見ると若干鎧のデザインが異なるようだが、どちらもヴィシュトルテの兵士なのだろうか、白を基調としたデザインの鎧であった。
どちらがどこに肩入れをしているのか、どういった目的で争っているのか全く分からない恵二は咄嗟にこう告げた。
「俺は王女フレイア様の使いの者だ。フレイア様の命により今すぐこの戦闘を停止せよ!聞き入れぬ者は容赦なく無力化する!!」
いっそのこと全員パンチで気絶させようかとも脳裏によぎったが、後々しこりが残るのも宜しくないと判断し、まずは王女の使者っぽく停戦要求をして見た。
(さあ、どうでる?)
恵二の思惑は功を奏し、斬り結んでいた者達はお互い一旦距離を取ってこちらの様子を伺っていた。その中から声を上げる者が現れた。
「フレイア様はご無事なのか!?貴殿が使者というのは本当か!?」
「・・・小僧。王女は今どこにいる?大人しく答えた方が身の為だぞ?」
今のやり取りで大体恵二は察しがついた。前者のフレイアの身を案じた、鎧に青いマントを着けた男は恐らく王族側の人間で、後者の恵二に威圧的な態度を取った鎧の者は多分将軍の配下であろう。
王族派だと思われる青マントと鎧を身に着けた兵士は2名おり、更に1名冒険者風な男も協力しているようだ。一方それに敵対しているのは5人の兵士で何れも同じ鎧を身に着けていた。確定ではないが、一先ず先にフレイアの敵であろう5人組の兵士に恵二は武装解除を求めた。
「お前達、大人しく武装解除してもらおう。そうすれば危害は加えない」
「・・・あの小僧を捕えろ!王女の居場所を吐かせるんだ!」
恵二の投降要求を無視して兵の1人が号令を出した。それを合図に5人の兵士は動きだし再び戦闘は開始された。
「くっ!おい、坊主!とりあえず一旦下がれ!こいつ等をぶっ倒してからお前の話を聞きたい」
そう声を上げたのは冒険者風の男であった。男は斧を両手持ちで構え、恵二を庇うように前へと躍り出た。王女の居場所を知りたいが故に、情報源の少年を渡さないよう行動したのだろう。だが余計な気遣いだとばかりに恵二は5人の兵士達へと肉薄した。
「馬鹿!今すぐもど―――!!」
“戻れ”と言いかけたところで男は言葉を呑んだ。目の前の少年は兵士達に接近した途端、周りの者達からその姿を消したからだ。
「―――え?」
それは奇妙な光景であった。少年の姿が消えたと思った瞬間、今度は鎧の男達が次々と吹き飛ばされていく。何か凄まじい衝撃でも加えられたのか、吹き飛ばされた兵士達は皆鎧の腹部にひびが入っており、木の小槌で思いっきり金属を叩いたかのような鈍く重い音が後から5発鳴り響いた。
一瞬で5人の兵士があちこちに吹き飛ばされた後、その場所には少年がただ一人残って立っていた。
「よし、片付いたな」
男はその言葉で、この不思議な現象は目の前の少年たった一人による仕業だとようやく理解した。
恵二の強化した拳であっという間にのした5人の兵士達はすぐに全員縛られた。
「本当は心底殺してやりたいが、今回の王女様の御命令はあくまでもこの戦闘の停止だそうだからな。ありがたく思うんだな」
そう呟いたのは王家親衛隊の副隊長を名乗るオーランドであった。
「駄目です副隊長。彼は、もう死んでおります・・・」
「くそ、あいつらめ!よくもガイアにカルロスを・・・!」
オーランドにそう報告した若い親衛隊員はタッフルというらしい。悔しそうに冒険者達の死を嘆いたのはBランク冒険者のカッツリーノであった。彼らは恵二が到着する前に事切れて倒れていた冒険者の生存確認を行っていた。
「すまんな、我々をここまで案内してくれたせいで彼らを死なせてしまった・・・」
彼ら二人の親衛隊はレアオールでのクーデターを阻止しようと参戦したのだがそれを全うできず、無念にも敗走をしていたのだという。何とか追手を振り払って逃げ延びていたところ、三人の冒険者が二人を助けてくれたのだと言う。それがカッツリーノと亡くなったガイアにカルロスであった。
「いや、あんた達に落ち度はねえよ。悪いのは全部クーデターを起こした連中さ。俺達は俺達の意思であんた達に助力しているんだ」
恵二は襲ってきた5人の兵士達を拘束しながら、ある程度の状況を聞いていた。どうやらレアオールの冒険者達も一枚岩では無いようで、カッツリーノ達のように王族派に支援する冒険者もいるようだ。現在親衛隊の生き残りと王族派の人間はキャリッジマークに集結しているらしく、カッツリーノ達は二人の親衛隊を隠れ家まで案内していたところだったのだという。その最中に運悪く5人の巡回兵に出くわし戦闘になったところに恵二は現れたのだ。
「・・・そうか。君達のような冒険者がまだいてくれた事、大変ありがたく思う。ところでケージ君と言ったな?君はフレイア様の居場所を知っているのか?出来れば直ぐにでも参じたいのだが」
「ええ、知っていますよ。すぐ近くで待ってますので案内しますよ」
「本当か!?それはありがたい!」
すぐにでも向かいたいというオーランド副隊長の意向を尊重して、気絶した5人の兵士達はそのまま置き去りにし、恵二を先頭に一行はフレイア達の元へと戻った。その道中彼らは恵二を質問攻めにした。
「ケージ君、王女様はどこもお怪我をされてはいられないか?国王の訃報を知っているとの事だが酷く落ち込まれてはいないだろうか?」
「君、強いんだなぁ。俺も剣には自信ある方だったけど、上には上がいるもんだ」
「お前、Cランクだって?その若さで十分大したもんだが、単純な実力だけならAはいってるんじゃないのか?」
次から次へとくる質問に適当に返事をしていく。戦闘については今更誤魔化すのも難しいだろうが、曖昧にお茶を濁して何とか切り抜ける。そんなやりとりをしていたらあっという間に元いた場所まで戻ってこれた。無事な王女の姿を早く見たい。そう思っていた親衛隊の二人が見た光景は―――。
「―――王女様、早くおかわりっす」
「は、はい。少々お待ち下さいね」
一生懸命次から次へと汗だくで忙しそうに調理をしている王女の姿であった。
『ふ、フレイア様――――!!』
そのなんとも嘆かわしい姿を目撃した親衛隊員は悲鳴のような声を上げるのであった。
「―――ですから、これは私が好き好んで行っているのです。この件に関しては口出し無用です」
「で、ですが・・・」
「―――わかりましたね?」
「・・・はい」
フレイア達の待機していた場所に到着した早々親衛隊副隊長のオーランドが目にしたものは、一国の王女をこき使って料理を作らせているといった信じられない光景であった。それを目撃したオーランドはやれ“不敬罪だ!”だの“万死に値する行為だ!”だのとリアを攻め立てた。
それに異を唱えたのはフレイア王女自身であった。彼女は自分がしたくて料理しているのだと力説した。最初は納得できなかった隊員達も、王女がそのお蔭で元気を取り戻しているようなので渋々とそれを了解した。
「いやー、もぐもぐ。私、危うく処刑されちゃうところだったっすよ・・・パクパク、ごっくん」
「お前一体どういう図太い神経してるんだよ、ほんと・・・」
未だに食べるのを止めないリアに恵二は呆れた声を掛けた。
その後、オーランドは王女に現状報告を行い、これからの指針を決めた。
「成程。貴方達の他にも生き延びた方たちがキャリッジマークに身を寄せているのですね。良かった・・・」
「勿体ないお言葉です」
「正確にはキャリッジマーク付近にある野外の隠れ家に身を潜めているそうです。彼がその案内人です」
若い親衛隊員のタッフルは冒険者のカッツリーノを指すと、彼は自己紹介を始めた。
「お初にお目にかかります王女様。Bランク冒険者のカッツリーノと申します。早速ですが、我々の隠れ家にご案内致します。御足労かと思いますが、なるべく目立たないよう迅速に行動したいと思いますのでご容赦下さい」
「まぁ、大変ご丁寧に。分かりました、早速向かいましょう」
「・・・あれが本来あるべき礼節だよなぁ」
「ああ。俺も王女様に料理作らせちまったけど、後でばれたら大変だぞ・・・」
フレイアとカッツリーノのやり取りを遠巻きで眺めていた二人組の冒険者、ロイドにエイワスはしみじみとそう呟きながらも彼らの後を付いていった。
その場所はキャリッジマークから徒歩で20分といった場所にあった。普段は霧が立ち込めていて滅多に人が立ち寄らない場所だがそこには大きな岩山があり、そこをぐるりと周ると何やら洞窟のようなものが見えた。
「・・・あれはクラン<濃霧の衛士>が稀に使用する隠れ家です」
「まぁ!貴方達は<濃霧の衛士>の方たちだったのですか?」
「ええ、そうです。クランメンバーは全員王族派です。勿論リーダーのロキさんもですよ」
「それは頼もしいですね」
案内人のカッツリーノと王女の会話に聞き耳を立てていた恵二は、気になった事を尋ねた。
「なぁ、<濃霧の衛士>ってクランは有名なのか?」
「ああ、この国でも1、2を争うトップクランじゃないか?規模もデカいがAランク冒険者も二人いるクランさ」
そう教えてくれたのはロイドである。彼はこの国の冒険者ではないようだが、そんなロイドでも知っているクランともなれば、かなり有名なのであろう。
ちなみにクランとは同じ志を持つ冒険者の集まりの事を指す。その規模は様々だが、<濃霧の衛士>は複数のパーティーが所属している大所帯クランだそうだ。
「・・・ちなみに、もう一方大きい勢力に<湖畔の家>というクランがある。そこにもAランクが二人居て、<濃霧の衛士>とほぼ同戦力のクランだ。・・・多分だがあそこは将軍派だろうな」
「・・・冒険者は今回の戦いに不介入じゃなかったのかよ?」
「表立っては行動していないだろうさ。どっちに転がっても負けた方に加担した冒険者は国家反逆罪になっちまう。ギルドとしてはそれだと体裁が保てないから“基本不介入”と言いつつも“裁量は各々で”って方針じゃないか?まぁ、ギルドはギルドで何やら不穏なようだがな・・・」
「メルシアさんは絶対クーデターなんかに加担したりしないっす。きっとあのおやじの仕業っす」
リアは再三ギルド副長が怪しいと主張しているが、現時点で証拠は無くただの憶測になってしまうのでその話を恵二は適当に受け流す。
案内人のカッツリーノを先頭に、一行は洞窟の中へと進んで行く。中は真っ暗であったが、カッツリーノは簡単な光属性の魔術を扱えるようで光源を生み出すと奥まで一行を案内し、暫く歩くとやがて行き止まりへと差し掛かった。
「・・・?行き止まりですね?」
「まぁ、見ていて下さいよ」
王女の疑問に自信ありげに答えたカッツリーノは、側面の岩壁を探ると一ヶ所不自然に盛り上がっている箇所を押し込んだ。すると―――
「―――こ、これは!?」
「おお!」
「凄いっす!」
全員が感嘆の声を上げる。行き止まりだと思われたその岩壁はまるで魔法の様に姿を変え、ぽっかりと大穴を開け奥へと続く道を出現させた。その道は今までの天然の洞窟とは様変わりしており、綺麗に整備され歩きやすい道となっていて壁面には灯りも備わっていた。
「どうです?<濃霧の衛士>自慢の隠れ家は?どうも昔の古代人が残したであろう遺跡を我々が流用したアジトです」
「遺跡!?」
その言葉に恵二は思わず食いついた。魔術修得を優先しエイルーンを目指そうと今回は諦めていた遺跡がこんな巡り合わせで見られるとは、恵二は夢にも思わなかったのだ。興味深げにあちこちをキョロキョロと目を輝かせて見渡す。
「ケージさんは遺跡にご興味がおありでしたか?」
そんな恵二の様子が珍しいのか、フレイアはそう尋ねると恵二は首を1度2度縦に振って無邪気に答えた。
「ああ、さっきの仕掛けといい、この整備された道といい凄いじゃないか!。これを大昔の人がどのように、どのような目的で作ったのかとても興味がある!」
そう言葉を発してあちこちを見て触ってとせわしなく動く様は年相応の無邪気な少年のようであった。
「ふふ、そうだったんですね。この国には数多くの遺跡やダンジョンが発見されており、今もまだ眠っている遺跡が数多くあるのではと伝えられております。・・・本当はもっとごゆっくりとこの国をご案内してあげたかったのですが―――」
「申し訳ないが、今はとりあえず俺に付いて来てくれ。クランリーダーのロキさんに皆さんを逢わせたい」
思わぬ遺跡との遭遇に少年は後ろ髪を引かれながらも、また後で見られる筈と自身を説得し大人しく付いて行く事にする。
歩みを再開して数分も立たないうちに、今度は行き止まりの壁に一つの扉が備わっていた。その扉にカッツリーノは変則的なノックをする。するとそれが合図だったのか、内から扉は勝手に開かれた。
「戻ったか!カッツリーノさん!どうだった?」
中から出てきたのはカッツリーノよりかは少し年下の青年であった。青年の質問にカッツリーノは表情を曇らせる。
「ああ、フレイア王女様と親衛隊の方2名と協力者の方々をお連れした。だが、カルロスにガイアの奴は・・・」
カッツリーノの言葉を最後まで聞かずにその青年は何があったのか概ね察したようだ。
「そうか・・・。けど王女様がご無事であったのは喜ばしい事だよ。きっとカルロスにガイアさんも浮かばれる・・・。さぁ、中に入ってくれ。ロキさんがお待ちかねだよ」
青年は無理やり明るく振る舞うと、王女一行を中へ招き入れた。扉を潜るとそこは、ただっ広い空間であった。その室内には椅子や丸いテーブルがいくつもあり、壁の端には武器なども備わっている。その室内には全部で8人の冒険者達がいた。
「おお、カッツリーノ戻ったか!」
「王女様だ!フレイア様が生きておられた!」
「ようこそ、<濃霧の衛士>の隠れ家へ!」
室内にいたのはどうやら全員が<濃霧の衛士>のメンバーなようで、口々にカッツリーノの帰還や王女の来訪を歓迎した。
「さ、この奥にリーダーはいるはずさ。入ってくれ」
その広い室内の奥にはいくつか扉があり、他にも部屋が複数あるようだ。その中でも一番奥にある部屋に入っていくと、そこには大柄な男が一人と親衛隊の鎧とマントを身に纏った3人の兵士達がいた。彼らはこちらを見るとすぐに驚きの声を上げた。
「フレイア様!本当にフレイア様なのですか!?」
「おお、ご無事で・・・。本当に良かった・・・」
「副隊長もご壮健で何よりであります!」
真っ先に声を上げたのは親衛隊員の男女3名であった。声を上げた順に若い女性隊員が一人に老齢の男隊員、それにタッフルとそう変わらない年齢の青年隊員の計3名が王女と副隊長の無事を喜んだ。
「あのぉ、俺もいるんですけど・・・」
3人は誰も青年隊員のタッフルに見向きもせず王女や副隊長に話しかけており、彼は少しいじけてしまっていた。
「良く戻ったなカッツリーノ。王女様をお連れするとは大手柄だぜ!」
「ロキさん・・・。それは死んだガイアやカルロスのお蔭だよ・・・。俺は何もしちゃあいねえ。そこのケージに救われただけさ」
「そうか・・・あいつらは逝っちまったか・・・。済まねえな、俺が不甲斐無いばっかりに・・・」
ロキと呼ばれた大柄な男はそう呟くと、椅子からよろよろと立ち上がった。どうやら片足を怪我しているらしく、右足には痛ましい血の滲んだ包帯が巻かれていた。
「王女様に他の方々も、ようこそ我がクランの隠れ家にお越し頂きました。俺が<濃霧の衛士>のリーダーを任されております冒険者のロキと言います」
ロキはそう歓迎の言葉を告げると、その大柄な体を折り曲げ頭を深く下げたのであった。




