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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~  作者: つばめ男爵
1章 新米冒険者ケージ編
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あの商人め

 バアル伯爵から貰った馬車の車両部分は大破したものの、馬二頭は健在であった。壊れた車両の破片の山から持って行く物を精査し取り出した恵二と一行は、再びキャリッジマークへ戻るべく歩を進めた。


 無事だった馬にはそれぞれ王女フレイアと行商人のリアを乗せ、二人組の冒険者ロイドとエイワスが前方で馬の手綱を持って牽引し、恵二は後ろから護衛する形で歩み出した。


 出発が遅かったのであっという間に日が暮れ、一行は1時間ほど歩いた先で野営地を作る事にした。


「まさか野営するとは思わなかったしなぁ。何も準備してないぞ?」


「俺達も野ざらしで寝るつもりだったからなぁ。嬢ちゃんは何か持ってはいないか?」


「私も調理器具や調味料以外は持っていないっす」


 恵二は予定外の出来事に準備をしておらず、ロイド達も夏場とあって特に素のままで寝られるだろうと考えており、野営に必要な物は何も持っていないという。リアに至ってはその大きなリュックの中身の殆どが調理器具全般と、後は調味料にマジックアイテムくらいしか入っていないそうだ。


「それだけの調理器具を持っているって事はリアも料理できるのか?」


「できないっすよ。これは誰かに作って貰うために持ち運びしているっす」


「・・・」


 恵二は最近この女行商人の事がよく分からなくなってきていた。


(コイツも色々キャラ濃いよなぁ。スキル持ちの腹ペコキャラ。女一人で大荷物を抱えて一人旅。おまけにギルド長とも面識があるようだし・・・)


 彼女の事を考えていると、横からフレイアがおずおずと恵二に声を掛けた。


「あのぉ、そんなに考え込まなくても、私の寝床をお気にされているようでしたら御心配は要りません。私も皆さんと同じ様にこのまま横になりますよ」


「あ、ああ。すまないが、最悪そうしてもらうか・・・」


「おいおい、いくらなんでも王女様に地面に直接横になって貰うってのはなぁ・・・。不敬罪にならねぇか?」


 慌てて帽子を被った冒険者のエイワスが心配そうに話すと、フレイアはそんな事はしない、大丈夫だと口にした。


「うーん。地面には適当に何か敷くとして、今日は風もあるし霧も濃いからな。ちょっと待っていてくれ」


 すると恵二は詠唱を唱え始めた。正確には唱えているふりだ。先程は思わずスキルを全力行使してしまったが、余り悪目立ちするのもどうかと思ったので、ここは無詠唱を見せないでおこうと考えた。が、しかし詠唱は相変わらず残念であった。


「土に大地に感謝せよ。嗚呼、母なる大地よ・・・」


「・・・なんだ?あの詠唱?」


「さぁ、俺は魔術はさっぱりだからな。きっと異国の詠唱なんだろう」


 恵二は昔学校の合唱コンクールで歌った大地を讃える曲のフレーズをもじって適当に詠唱をしてみせた。


「――土盾(アースシールド)


 詠唱を適当に終え魔術を発動させると、地面から土でできた壁が徐々にせり上がってきた。


『おお!』


 その光景に冒険者達は思わず声を上げた。その魔術自体は土属性の初級魔術であり、ロイドにエイワスも何度か目にしたことがあったが、恵二はそれに一工夫行っていた。


「なんだ、あの<土盾(アースシールド)>は?曲がってる?」


「もう一枚出てきたぜ。そうか、あれで囲いを作るってか!」


 恵二は土盾(アースシールド)を連続で発動させ取り囲むように次々と出現させると、土壁の上部を内側に曲げていきドーム状になるようにコントロールした。


「でも、あれだと入口がないっすよ?」


「任せろ」


 恵二はまだ魔術を完成させておらず、そのまま土を操り一ヶ所に穴を開けた。これであっという間に土製のかまくらが出来上がった。


「フレイアとリアはここで一晩寝てくれ。もう一ヶ所同じ物を作る」


 恵二は再度詠唱を始めるも、適当に思いついた詠唱だったのでさっきとは少し違った詠唱になってしまった。


「ん?なんかさっきとは詠唱違くないか?」


「きっと違う形状の物を作るんだろ」


(・・・そういうことにしておくか)


 ロイドとエイワスの会話に聞き耳を立てていた恵二は、さっきとは少し形状を変え窓代わりの穴を付け加え、二つ目の土のかまくらを完成させた。


「これで中から外の様子を伺えるけど、一応外に見張りを立てた方がいいよな?」


「ああ、そうだな。寝床は坊主に任せっ放しだからその分見張りはこっちが多く受け持つぜ?」


 髭面の冒険者ロイドの嬉しい提案に恵二は素直に飲むと、一同は再び食事の準備を始めた。リアがまた食べたいと主張したからだ。


「まぁ、俺達もあんな美味しい料理ならいくらでも食べたいしな」


 そういうと今度はロイドとエイワスの二人が狩りに出る事になった。


「・・・フレイア。また料理頼めるか?」


「ええ、かまいません。気晴らしにもなりますので・・・」


 思えばこの少女も今日は散々な一日であった。野盗に襲われ友人を失い、城ではクーデターで父親も討たれたという。城にも帰れず野外で野宿なんて初めてであろう。色々ストレスが溜まっているのかもしれない。


「余り無理はするなよ?なんだったら先に横になっていてもいいんだぞ?」


「・・・お気遣いありがとうございます。でも本当に大丈夫ですから」


 そこまで言うのならいいかと頭を切り替え、恵二はこれからの事を考えた。


(フレイアを一旦キャリッジマークまで連れて行って、その後はどうする?護衛くらいはしてやれるだろうが、さすがにクーデターを起こした軍の連中と正面から遣り合う訳にはいかないしなぁ・・・)


 本音は先を急ぎたかった恵二だが、ここまで関わってしまって知らんぷりというのも気が引けた。ある程度、せめてフレイアの身の安全が確保されるまでは力になってあげるかと覚悟を決めていた。


 晩御飯を終えた一行は、男連中が交代で見張りを行い一夜を過ごすのであった。





翌朝、昨晩あれだけ食べたリアの第一声は──


「お腹減りました。朝ごはんはまだっすか?」


「そう来ると思ったよ!昨日の肉が残ってる。大人しく待ってろ」


 朝目覚めると、リアが早くも朝食を要求してきた。昨夜はロイド達が張り切ったお蔭で肉が大量に残っており、朝から王女であるフレイアは忙しそうに調理を始め、出来あがった傍からリアは食べ始めた。


「・・・朝からよくそれだけ食べられるな」


「もぐもぐ・・・。さすがに私も朝は胃が働かないっすよ」


 そう言いながらも次から次へと皿を空にしていくリアの言葉には全く説得力が無かった。


「それだけ食べて太らないというのは正直羨ましいです」


 調理をしていたフレイアは、胸焼けしそうなくらい食べているリアの体型を眺めながらそう呟いた。


「朝だしこれくらいにするっすかね。御馳走様っす」


「お前、ちゃんとフレイアにお礼言っておけよ?昨日からずっと料理させっぱなしじゃないか・・・」


「ホント頭が上がらないっす。王女様、大変美味しかったっす」


「ふふ、お粗末様です」


 食事を終えた一行は再びキャリッジマークへと歩き始めた。





 時刻は同じ頃、レアオールの冒険者ギルドには大勢の冒険者達が集まって一人の男の話を聞いていた。


「本当だって!そいつはとんでもねえ化物なんだ!」


「だったら場所を教えろって。俺達がサクッと倒して王女を連れて来てやるよ」


「だから、何度も言っているだろう!?お前らだけじゃ全然足りないんだって!Bランクが少し増えた程度じゃあアイツは倒せねえんだよ!」


 そう声を荒げたのはBランクパーティー<霧の光明>の一人、槍使いの冒険者であった。他の二名は王女との約束を守り今回の件から身を引いたのだが、この男だけは報酬とランクアップの好条件を諦められなかった。そこで男は他の冒険者に話を持ち掛ける事にした。


<霧の光明>と同じ様に職員から王女を連れてくるよう依頼を受けていた他の冒険者に協力を求めたのだ。向こうも王女を探していたので情報は欲しいのだが、中々交渉に折り合いがつかなかった。というのも協力を持ち掛けられた冒険者達は、これ以上報酬を山分けする人数が増えるのを嫌がっていた。


<霧の光明>の男から話を聞く限りでは、一緒にいたのはCランク二人に後は女子供だというではないか。だが、男の説明ではその子供の冒険者が恐ろしく腕が立つのだという。だが、どのくらいの腕前か尋ねると、その内容は信憑性に欠ける情報であった。


(拳一つで木々を吹っ飛ばし地面を抉る?そんなガキがいて堪るか!)


 冒険者達の交渉は未だ纏まりそうになかった。





「今の話し聞いたか?」


「はい、ギルド長」


「よし、それではその情報をすぐに将軍にお伝えするのだ」


「はい」


 それは<霧の光明>の男の話しをカウンター越しに聞いていた職員とある男の会話であった。職員の男はそう返事をすると、すぐにギルドを出て将軍の元へと向かった。


(ちっ、王女は生きていたか、厄介な・・・。早急に始末せんと面倒事になる。しかし私の判断で迂闊に行動する訳にはいかん。将軍の指示待ちか・・・)


 男はそう考えを纏めると、手に持っていた果実にかじりつき顔をしかめた。それは今朝、職員に急いで買わせに行かせた果物であった。


「くそ、やはり何時ものでないと味が落ちる。酸っぱい上に甘みも全然足らんではないか!」


 そう悪態つくと、食べかけであった果物を地面に叩きつけた。それを見た職員はいそいそとその潰れた果物を掃除し始めた。


「あの商人め!急なトラブルで何時もの果物を売る事ができないだと!私を誰だと思っている!?この町のギルド長だぞ!」


 頭にきた男はその商人に今後冒険者を派遣しないと告げた。それでは商売に支障が出てしまうと泣きついた商人は、なんとか機嫌を直して貰おうと別の果物を無料で提供した。それで渋々今回の不手際は不問にした男であったが、腹の虫はまだ治まらなかった。


「くそ、あいつらもまだ交渉だのなんだのやっているのか!そもそも<霧の光明>共がさっさと王女を連れて来てさえいればこんな面倒事にならずに済んだものを・・・」


 男の怒りの矛先は今度は<霧の光明>の男へと変わって行った。





 少し時間の掛かった昼飯も終え、再び歩き出していた恵二たちは、そろそろキャリッジマーク目前という位置にまで近づいていた。


「しかし、林の中の寂れた道を使っている割には全く魔物に出くわさないなあ」


 そうぼやいたのは髭面の冒険者ロイドであった。


「・・・ここ以外にも道があったのですか?」


 フレイアの疑問にロイドは説明を始めた。


「ええ、この道は魔物が多い上に視界も悪いですからね。商人なんかは余程急いでいない限りは遠回りの安全な道を使うのだと聞きました」


「その割には全く魔物に遭遇しないのは助かりますね」


「ふふん、私のお蔭っすね」


「は?」

「え?」


 どうだと言わんばかりに胸を張るリアを不思議そうな目で見るフレイアにロイド。


(あの二人はリアのスキルを知らないからなぁ・・・)


 リアは生まれつき<幸運>のスキルを持っていた為、それのお蔭で魔物と遭遇していないのだと彼女は考えているらしい。


(その代わり野盗に襲われている王女に遭遇するは、馬車を駄目にするはでこっちは散々だけどな・・・)


 後者は主に恵二に被害が及んだのだが、果たして本当に彼女は幸運の持ち主なのだろうか。段々疑わしくなってきていた。


「・・・おい。あれって・・・人か?人が倒れてるぞ!」


 そんな事を考えていると、リアの馬を引いていたエイワスから前方に人が倒れていると報告があった。


「・・・本当だな・・・。確かに人間だ。しかも、ありゃあ同業者じゃなかったか?」


 そう答えたのはロイドであった。どうやら彼は倒れている人物に心当たりがあるらしい。


(冒険者が道の真ん中で倒れている、だって?)


 野盗か魔物に襲われでもしたのだろうか。そう疑った恵二は急ぎ強化のスキルを使って、広範囲に魔力探索(マジックサーチ)を展開した。


「・・・あっちの方で何人かいる。・・・しかも戦闘中のようだぞ?」


「――何!?本当か?」


「野盗か魔物、どっちか分かるか?」


 冒険者の二人はすかさず恵二の声に反応し警戒をしながら質問してくる。


「人だ。全部で9人はいる。魔術を使う者もいるぞ」


 どうやら何者かが集団で交戦中のようであった。その場所はここから離れているらしく、このまま大人しく街道を通れば多分だが気づかれないであろう。


「・・・駄目だ。こいつはもう死んでるぜ!」


 道端に倒れていた男の様子を見ていたロイドはそう声を上げると、男の懐を探った。


「――あった!やはり冒険者だ。Dランクのカルロスか・・・。まだ若そうだが可哀そうに・・・」


 遺体の懐から冒険者のランク証を取り出すとロイドはそう告げた。事切れていた男は20代の青年であった。以前ロイド達はこの男と一緒に依頼をした事があるらしい。若くて元気な冒険者だったそうだ。


「どうする?このままキャリッジマークまで真っ直ぐ向かえば、恐らく巻き込まれる事は無いぞ?」


 恵二はフレイアに向かってそう尋ねた。少し卑怯な気もするが、この一行のとりあえずの目的は王女を無事キャリッジマークまで送り届ける事であった。ならば彼女の意見を聞くのが筋であろうと恵二はフレイアに判断を委ねた。


 それに王女は即答した。


「放っては置けません。様子を見るだけでもできませんか?場合によっては争いを止めたいと思います」


「分かった。それなら俺一人向かえばいいだろう?ロイドさんとエイワスさんはフレイア達の護衛を頼めないかな?」


「悔しいが、お前さんが適任だろうな。こっちは任せろ」


「おう!王女様たちには指一本触れさせねえよ!」


 ロイドとエイワスが頼もしい返答をすると、安心した恵二は戦闘が行われている方へ向かって行った。


「ケージさんお気を付けて・・・」


「ちゃんと手加減するっすよ」


二人の声を背に恵二は戦場へと赴いた。



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