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十九

この世において、少なくとも二つの戦争の術がある。一つは、奇襲であり相手の意表を突くというものだ。人間ならば必ず隙が生まれるところを狙う技である。


 そうして、今一方は、正攻法である。これは、王道の戦闘術であり、人海戦術もここに腑分けしても良いだろう。しかし、これは分かっていても避けられない術であり、それゆえ王道足り得るのだ。



 ガルノスは、この場合自らの望む王道ではなく、奇襲に頼ることになるだろうと予期していた。何故か? 


 このパジャという男は今まで出会った中でも、殆ど完全と言えるほどの能力の男であったからだ。


 「して、いかがいたしましたか?」


 白い布を頭に巻いたパジャは、鳶色の眸を一際大きく瞠り鼻筋の通った鼻梁を対面した席から乗り出すようにして訊ねた。


 「……実は、これより《遠州》への攻略、いえ、蛮族討伐につて……」


 「ほう?」


 パジャは意外にも物分りのいい顔で、手の甲を別の手で撫でた。

 

 「実は、以前より領内を荒らし回る連中がいるのですが、国境まで追い詰めてもすぐに《遠州》の豪族が匿い、中々討伐が完了せず」


 「ほう。それはさぞご苦労ですなぁ」


 「つきましては、一刻もはやく、討伐の支度を……」


 「ええ、して、私は一体なにをすれば?」


 ……意外だ。内心、危ぶみつつ、しかし、話しがここまで上手く行き過ぎることにガルノスは首を傾げたくなる。あの話術だけで百万の兵に匹敵すると言われた男がここまで、うんうん、と物分りのいいのだろうか?



 しかし、今が好機だとも思えた。


 畳み掛けるように、ガルノスは許可の書類をいただきたいと願い出た。



 「ええ、もちろん。では、燕尾将軍にも話しをつけましょうか?」

 

 「いいえ、こちらでそれは行いますので、ご心配はいりません」


 そうですか、と呟くようにして執務机にもどり、ペンを走らせた。その時も、夜風は窓越しに鋭く伝う。ガルノスはそれをききながら、外の欅の森と葉叢の騒ぎに耳をしばし傾ける。



 「では、こちらをお持ちください。して、いつご出立を?」

 


 「できれば、今晩にでも」


 わかりました、とパジャは爽やかな笑みで応じた。



 ……時は十一刻であった。



 (ゆくべきか、ゆかざるべきか)



 疑念を払拭しきれないが、もはや、書類は手中にある。堂々と城門をくぐり抜け、遠征の準備をせねば、いずれ賢王とこの詐欺師に王都をはじめ、大陸中原を簒奪されるだろう! それだけは許せぬ。



 ガルノスは恭しく一礼をすると、即座に部屋にもどり、部下に帰国の令を発そうとした。

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