十八
「決して、ヤツには悟られるなよ」
ガルノスは真剣な眼差しで警備隊長をみた。警備隊長は四〇代の、老練な男である。ガルノスが信頼をもつ一人である。
「……今回は分が悪いですな。」
「……ウム。しかし、まずパジャに話しをつけつつ、無事ここから脱出せねばならん。」
彼の《遠》州侵攻作戦計画を胸に抱き、ガルノスはパジャに建前としての〝鎮撫”という形式でもって、討伐するという説得工作を考えた。
(手勢は僅か五〇〇、しかも、あの北方の賢王がいるッ。忌々しい)
この会議で明確になったのは、パジャと北方勢が蜜月の関係になったという証明に過ぎなかった。
ともかく、ガルノスは思考する。
……燕尾将軍は当面、連絡をこまめに行い、かつ、相手の意向に沿った形で、《遠》州を攻略する。
ガルノスは窓枠の向こうの楓の枝が揺れたのをしっかりと眺める。
「――さて、いくか。」
ガルノスは髭を撫でて席をたった。
その背中を警備隊長が続く。
パジャの執務室は意外な程、質素である。彼自身は宗教が大陸最大のグノーシス教でなく、実はマイナーな部族単位で信仰されている宗教である。しかし、彼は敢えてそれを表立って発言も表現もしない。それは無用な軋轢を招くと知っているからだ。
彼は羊紙に羽ペンをはしらせる。
ターバンのような布を頭に巻いている。それは、彼の生まれた砂漠の地帯の民族衣装の一部である。
深い闇のような眸はしばらく室内の沈黙とともにあった。
……その時、コンコンと、扉が叩かれた。
「……どうした?」
扉は、守衛が幾人かいるだけだが、恐らく訪問客であろう。
すると、守衛の兵士が彼の背中に二つの影を連れていた。
おや、と彼は守衛の兵士たちに「火をもってこい」と命令した。
守衛の兵士たちが、室内に三人ほど、入ってきた。真紅のカーペットに、壁にかけられた獣の首が不気味なほどの雰囲気を醸し出した。
「ああ、ガルノス殿か……。いやはや、このような深夜、どうなされた?」
人の良さそうな笑みで相手を出迎えた。
つつしみ深く礼をしたガルノスたち。
「さあ、どうぞ手近な席にでも……」
促されるままに、ガルノスは腰を落とした。眉を張り詰めてパジャを凝視する。
「いかがした?」
ため息をつきながら、自らも席につくパジャはガルノスに向かい合う。
「実は折り入ってご相談が……」




