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大陸中原の奥地に、
中原鍾乳洞 という場所がある。
二人はこの鍾乳洞に飛ばされた。この場所の近くに村がある。とりあえずはその村を目指して壮一と真希は歩く。いや、這うという方が正しい。
高さ約一メートルにも満たないため、中腰か腹這いでしか進めない。
そこを出ると、ポツリポツリと民家が見えた。
「ふーっ、疲れた。おっ、大丈夫か?」
壮一は後ろの真希に手を貸しつつ、鍾乳洞の出入り口から立ち上がる。
遅れた真希も隣に立つ。
「ねぇ、ここ本当に異世界? なんか、中世の地球です。って言われた方が信用できるんだけど。」
「なーあ、ホントそうだよな。オレもそう思う。一応は石文化で西洋ですって言われた方が理解できるけど、まあ、中東の文化だと言われても違和感ないな。」
ゆっくりと切り立った岩場を降りると、二人は村に入った。村は深く森に隠れている。岩場と村の境界線は木の柵しかない。
二人は村を歩く。すると、先に潜入していた研究者や異世界人の格好をした護衛の姿が見つかった……死者として。
その時である。
「うっ……臭い、なんだッ!」
壮一が、顔を顰めて鼻を蔽う。
民家どもの窓から煙が上がっている。道々に現地の人間の死体も転がっている。 轟轟と焔は立ちのぼる。
馬脚の音がいくつもした。 壮一の頭が閃く。
「まっ、真希。いいか、父さんの後ろに隠れろ。お前、催涙スプレー出しとけ。いいな。」
壮一はボウガンを構えると、腰に隠した矢尻をセットする。
盗賊の一員がきた。
「はっはは。まだ生き残りがいるぞ。ん? なんだ妙な武器を構えやがって。おい、こいこい。捕虜にできるぞ。」
無精ひげと煤で汚れた顔の男が馬上から仲間を呼ぶ。
その声に惹きつけられた数騎の男たちが続々と集まる。
「ッチ、まあいい。ボウガンじゃなくて拳銃のほうがいいな。」
ベルトにボウガンをかけると、拳銃を腰のホルスターから抜き出して発砲した。 乾いた音が木々に響く。
かちっ、と小石がぶつかったような反響で無精ひげの男の兜に命中した。
「やろッ、なにしやがった! おい。」
「殺せ! 八つ裂きだ。」
「……っ、なにこれ? なんで、なんで。」
震える手で必死にスプレー缶を右手で握る真希。しかし、足の力が抜ける。それを抑えるように膝頭を左手で制する。
今、父と盗賊の一味が殺し合いをしている。
(人間じゃない――獣だ。)
真希は悟った。
殺し合いとは、つまりどちらの殺気が圧倒しているかということを。 盗賊の数騎が馬をかけてこちらまでくる。
それを壮一は冷静に引きつけてから発砲した。先頭をきた騎馬の馬めがけて一発撃つ。
すると、馬の眉間に突き刺さり、倒れた。後続の騎馬は転倒に巻き込まれて崩れてゆく。
「いまだ、真希。伏せろッ!」
言うや否や、壮一はベルトに付けた手榴弾を投げた。
……二三秒の間だった。 小さい閃光が煌き、土煙が湧く。
盗賊どもの血肉が民家の壁や軒先に散らばった。
すかさず、壮一は発炎筒を遠くに投げた。しばらく敵をかく乱する目的だろう。 「……ふぅ、っはー。」
息を整える壮一が真希の眼には最初、人間には見えなかった。しかし、時間が経つにつれ、真希の知る父にもどっていった。
「さあ、危ないから、はやくここを逃げよう。鍾乳洞はまずいから、とりあえず、森を行くぞ。キャリーバックはある程度まで持ってくが、敵のないところで必要なものだけで、あとは置いていく。いいな?」
呆然とする真希を尻目にキャリーバックを転がして左手側の森に侵入した。 父のあとをつけるように真希も連なる。