4 北方口承伝
この異世界大陸の地図の中に、
《希望の丘》という地がある。
この地はかつて神話の時代の神々が降り立った場所とされた。無論、これは中原諸国に広く普及した宗教上での話である。
中規模都市カンブラ(以下日本で表記される「甲」と表記する)の人々もまた信仰していたからだ。
黒馬村の民はなぜこのような目立つ場所に逃げ延びるのか?
答えの一つに宗教自自治区である所が大きい。
この地は中原諸国の都市国家の介入を受けないばかりか、逆に信者の多さを強みに国家群に影響を与えている。
つまり、この地に一兵でも入れれば、その国は禁忌を犯したことになり、外は無論、内側からも圧力がかかり、結果、体制が崩れる。
彼らはこれを目論み、奔る。 すこし、ここで甲地人について語る。
彼らの築いた都市国家《甲》は、中型の規模と雖も鉄などの生産が豊富であり、自国の軍備の強化はもちろん、他国にまで鉄を流通させることで莫大な利益にあずかった。
気性はとても真面目であり、細工などの手工業が得意である。反面、彼らは荒っぽい性格でもあった。
中原諸国の諺に「熱い鉄を叩けば甲人の如し」と揶揄される有様である。
常備軍は都市国家の健全な男子一五歳から四五歳までと決め、総勢で三万人であった。そして、予備軍の奴隷や雇兵を含めると、五万人を超えたと言われている。
なにより鉄で固く装備された軍である。
(――それが負けた。)
それが例え、放逐された黒馬の民といえど、絶望は大きい。
山を大きく迂回して下り、海岸沿いに奔る黒馬の民達の一団の姿が有る。
潮の匂いが風にのってやってきた。
尚馬脚を早めると、遠く蒼き平盤の果に暁が射した。
「ここで、すこし馬を休めよう。」
誰かが、そう聲をかけた。
後続の者、あるいは先を走るものにもそれが伝播し、人々は草地と砂浜の間にとどまった。
「これから、あとどのくらいかかるだろう?」
言いつつ、若い男が竹の水筒に口をつけて空腹を紛らわす。
「これからあと7マリほどだろう。しかし、問題は、入国の方法だ。」
クラプトは、殿軍を巧みに率い、追手を躱して彼らに追いついた。
その彼が肩で息をしながら答える。
一団の注目が彼に集まった。