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かろうじて夜の頃、エイフラム、壮一、モグラおよび農奴の一行は砦にたどり着いた。 砦付近の田畑を抜けた。

 岩肌に隠れた出入り口の隙間に一行が通る。 

しばらくしたところで、どこからか人の「ぎゃあああ」という声が密生した木々の間から響いてきた。 

(この方角は、まさか滝の水源地からか!)

 エイフラムは歯噛みしつつ、もし敵が入り込んで戦闘になっているかと考えをめぐらせた。

 しかし、まだモグラやその農奴、さらに壮一に滝の存在を露見するのはまずい。 「壮一さん、モグラ殿、あなた方は一端、この先をまっすぐ進んで砦にいてください。私は様子をみて、もし敵勢であるなら、急ぎ知らせます。では」

 言葉も途中に馬頭の方向回して駆ける。 残された二人と農奴はやむなく、その指示にしたがった。




 サウナから上がり、滝壺で体を洗っていた真希は睡魔に襲われていた。 滝の水が落ちる音、三日月は爪痕のように銀色に薄い夜空に滲んでる。

 分厚い木々の枝がすこしの風で騒ぐ。外は寒いはずだが、今は体の芯から熱い。 ウトウトと眠りかけていた。

 ――瞬間である。 

脹脛に激痛がはしる。足がつったのだ。まるで血管が凝縮したみたいだ

「ぎゃあああああ」

 と、年甲斐もなく叫ぶ。

 すると、まだ小屋にいたおかみが「どうしたんだい?」と慌てた様子で真希の状態を伺いにでてきた。 

あっ……すいません……イタタタタ。足、がつっ……りまし……た。」

 途切れとぎれでなんとか伝える。 おかみが近寄り、真希を滝壺から引き上げると、まず息をすることを教え、足の力をなるべく抜くようにいう。

 しばらくすると、痛みが嘘のように消え始めた。 

「あっ、もう大丈夫です。ありがとうございます。」 

「まったく、驚かせないでよ。急に冷水に飛び込むと危ないだろう。」 

「面目ないです。」 

真希は俯き反省した。

 と、遠くの激しく叩く地響きがした。おかみと真希は顔を見合わせる。 「えっ、まさか盗賊とかですか?」 

「まさか、なかなかこの場所は見つけられないよ。滝の音がしていても、反響音がひどくて、特定できやしないのさ。それに、砦からも滝は孤立しているから……。」

 と語るおかみも、言葉の端々に怯えがみてとれた。 

(もし、敵なら、着替えの方に、スタンガンがあるけど……今の状態はムリかな) この異世界に来て何度目の諦めをすればいいのだろう。申し訳ないが、もう寿命がすごいはやさで消えてる気がする。

だが、激音は途中で途絶えた。 

しかし、叢をかき分けるのが暗がりでもわかった。

 (くっ、どうせ殺されるなら!)

 真希はおかみの腕を外すと、数歩先の着替えのバックに忍ばせたスタンガンを取り出す。 

スイッチをONにすると、

 「で、でってこい、へっ、変質者、アホ、バカ!」

 勇気で奮い立ち、敵だと思われるヤツと対峙する。 

足元が震えて仕方がない。肘も揺れる、メガネもなく、焦点が定まらない。 やがて、気配が変わった。

 草陰から漂わせていた殺気が慌てた色になる。 訝しんだ真希は、 

「出てこい! 変態! ぶっ殺してやる!」

 と、言葉を吐く。 

「……? もしかして、真希か?」 

おかみと真希は再び顔を見合わせる。 

それは、聞き覚えのある独特の声だった。

 眠気を常に帯びて重く湿った、鉛を詰めたような声。間違いない。

 「え、エイフラム? さん?」 

叢をかきわけて鋭い眼光が現れた。 

 真希は絶句した。 

「え? なんでこんなところにいるの? ノゾキ? は? 最低ですね。ホントに? あれ? でも今はいないんじゃ? あれ?」 

「待て、自分はただ悲鳴をきいてここに駆けつけただけだ!」

 エイフラムは説明しながら、馬をおりて、二人に近寄る。 

おかみは冷静に状況を捉えたが、どうやら、真希だけは理解できていないらしい。 「……だから、急いで帰還したとき、悲鳴が……おい! しっかりしろ? 大丈夫か?」

 ボーッと呆ける真希は、徐々に、理性が戻り、現状を把握した。

 その様子をみたエイフラムも、眠たげな目を瞬かせて、静かに頷く。

 「よ、よかった。」

 ヘナヘナとその場に座り込む真希。

 夜空に滲んだ三日月を覆っていた雲が途切れる。 

薄い月光から、真希の裸体がエイフラムの位置からも確認させられた。

 壮一とモグラは、言われたとおり砦まで到着すると、門の守衛に先ほどの悲鳴やことのあらましを伝える。

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