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首領

 「本当にどういうつもりなの?」

 純白のエンパイア風のドレスに身を包んだ真希は、同じく白いテーブルクロスの掛けられた長いテーブルの席についていた。


 「真希さん、お綺麗ですよ?」

 背後に控えた風の魔術師が嬉しそうに耳元に口を寄せて、熱い吐息を吹きかける。

 甘く蕩けそうな声音が真希の背中をゾワッと、快楽の伴う刺激を与えた。


 「――――」

 真希は黙ったまま、目前の食卓に置かれた燭台の蝋燭を眺めている。


 (なんで盗賊連中のアジトなんかに……)


 睨みつけるように周囲に目をやると、長いテーブルの上には金と銀で加工された食器がいくつか配置されている。……しかし、大きな部屋であるにも関わらず、真希と風の魔術師の他に人の姿はない。


 また、部屋の四隅に香炉が置かれ、紫の煙が薄く立ち上っていた。

 「眼鏡、ないと落ち着かないんだけど……どこにあんの?」

 頬杖をつき、不機嫌に言った。

 「眼鏡――あの目の保護具ですか? あれは……お預かりしています。の部分にヒビが

入っており――直すのに高等技術の職人でもなければ難しいので」

 「いいよ、勝手に修理しなくても。それより、なんで私ここに居るの?」

 ワザと粗雑に足を組んで腕組みをする。

 不貞腐れた子供を優しく見守るように、風の魔術師は「ふふっ」と口元に微笑を浮かべ、手に持っていた櫛で真希の肩まで垂らした黒髪を梳く。


視界の悪さを補うために真希は目を細めて、

 「ねぇ、私を殺したいんだったら回りくどいよ? こんな小娘の細い首くらい何時でも絞めれるでしょ?」、背後を振り返り、自らの手で首元を絞めるような動作で挑発した。

 

 

『そんなことはしませんよ』


 室内で朗々と響く男の声が、少女の言葉を強く否定した。

 思わず身を固くした真希は、素早く声の主の方へ意識を向ける。

 太った丸顔の男は道化師ピエロのように白粉で厚化粧を施し、さらに色濃い化粧で顔面を彩る。


 鼻には赤い球形が嵌っていた。禿頭は被り物など一切せず、まるで仏僧がピエロの恰好をしている風だった。


「――っ、お前がぁッ!!」

 咄嗟に真希は立ち上がり、手元にあった銀食器のナイフを鷲掴みにして男を殺そうとした。

 ……だが、風の魔術師が手元を軽く動かして魔術を発動して真希の身体は静止した。

 見えない力で圧迫されたようにナイフを握った手首が止まり、首以外は動かす事が出来ない。

 「なんでッ!!」

 恨みの籠った眼差しを風の魔術師へ送る。

 彼女に半ば気を許していた真希は、裏切られたような気持ちで苛立ちと――悲しみの綯交ぜになった瞳で正視した。


 風の魔術師は申し訳なさそうに顔を逸らし、唇を噛みしめる。

 サッ、と頭を動かしてピエロのような男へ再び目線をやった。

 「やぁ、初めましてになるのかな……? ベムと申します。この盗賊の首領をしていますよ」

 朗々と芝居役者のように発音するベム。


 ――……この男の裏切りによって、黒馬の砦が陥落した。

 大切だった人たちを……――ナターシャたちを失った。


 真希は自然と、興奮で高まる心臓の音を耳で感じにながら、ナイフを握る力が更に籠る。

 「お前は絶対に許さないッ――――」

 「なぜ、そんなに怒るのですか?」ベムは、率直に聞いた。

 どこか他人事の態度に対し、真希の怒りは最高潮に達した。

 「お前が!! お前たちが私から――大事な人を奪っていったからだッ!!!」

 「……大事な人?」

 「お前たちがあの時、裏切った黒馬の砦の人たち……――私の、私の本当に大切だった人たちだぁ!!」

 真希は言いながら、当時の記憶が鮮明に甦るのを感じた。

 心優しかった年下の親友、ナターシャ、勇気のあった禿頭の少年。親切にしてくれたおかみ。

 すべて、あの一瞬の裏切りによって消えていった人々の顔。

 己の無力さを最大に味わいながら真希は目端から涙を流し、必死に訴える。

 「返して! 全部、あの人たちの居た日常を!!」

 真希の必死の訴えに、どこか懐かしそうな表情を浮かべたベムは、首を微かに左右にふる。

 「――そうですか。貴女に想われた人たちはさぞ幸せなのでしょうね」

 小さく、誰にも聞こえないような音量でベムは呟く。

 真希の背後に控えた風の魔術師も、ベムと同じ思いだったようで、複雑な顔で目を強く瞑る。

 「……なんで、返してよぉ!! 私の大切な人たちを返してぇよぉ、」

 肩を大きく震わせて真希は止めどなく溢れる涙を流した。


良かったら感想下さい――――って言ったら感想もらえる?

……すいません、嘘でーす。

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