外伝33
鉱山労働での平均寿命は殊に短い。その主な理由に粉塵による肺への被害、また落盤事故、高熱の炭坑内での脱水症状、酸欠。数を数えればキリがなくそれ故に奴隷労働の代表格としてこの世界では苦役につく人々は常に弱者だった。
「だいたい、こんな社会で生き抜くには強者に媚びへつらうか強者になるかの二つしかないよ」
と、少年は何気なく語った。既に外は夜を迎えていた。
朝は労働ではなく、老若男女を選別して各炭坑への割り振りに時間を費やした。本格的な仕事は翌日からになる……そう知らされ内心ホッと安堵したカイト。同じ冷えた牢獄に繋がれた、荷馬車の美少年は自らの爪を月明かりに照らしながら諧謔的に口を歪める。
「お兄さんには死んで欲しくないけど、こればっかりは運だからね」
「……君はどうやって生き残る?」
「僕? ――決まってるだろ。男妾だよ」
男妾? とカイトは首を捻った。それから、その言葉の纏う陰鬱な雰囲気を察する。カイトの反応を面白げに眺め、クツクツと笑いながら、
「あははは、そうか。お兄さんはそういう関係には疎いのか……禁忌を犯しているのにね。まあ、それとコレは別問題か」
「君は今までそうして生きてきたのか?」
すると、
「そうだよ」あっさりと答えた。
恥じることもない反応にかえってカイトの方が愚問だったと羞恥を覚える。
「父は戦争で徴兵されて死亡。母は娼婦やってたときの梅毒で死亡。4人兄弟の次男だった僕は男妾をしてきた。……普通の子供の生活さ」
牢獄に伸びる一筋の月光だけが、カイトには有難いと思えた。でなければ少年の表情を見なければならぬからだ。
「だから言ったろ? 強い人間に媚びて生きていくのがコッチ」と言いながら自らに指を差す少年。
――それから、と更に少年は付け加える。
「多分、お兄さんは強い人間の側。何となくそんな気がするんだ」
「……そうか、余り嬉しくないな」
ふっ、と鼻で嗤い、
「そうかな? 僕には羨ましくて仕方ないけどね」
このときの幼い少年の美しい顔の口端は苦々しく歪んでいた。
「ま、明日は早いだろうからもう眠るといいよ」少年は言いながら、粗末な布を羽織り体を丸めた。
(この体に疲れはないのか?)
カイトは己の掌を眺めながら、そう思った。既に人間の規格から外れ始める予兆のようにも感じられ、掌を固く握り締める。
かつて、「日本人」であり、一般的な「高校生」だった自分の根底が薄らいでゆき、やがてその頃の記憶が夢であったかの様に思われて不安になった。
(まだ人間だ、俺はまだ人間なんだ!)
アイデンティティの喪失が異様に恐ろしく思えるならば、まだ俺は人間なんだ!
鉱山は様々な区画により構成されている。
早い時間にカイトは起こされると、鎖の足かせと首枷を繋がれ大きな広場へと導かれる。他の囚人兼労働者の顔は様々であり、意外にも小声で談笑し冗談を飛ばし合う光景がアチコチで見受けられた。周囲を警備する兵士たちもそれを黙認しているようだった。これでは、どこにでもある職場の風景と同じではないか? ……この「枷」を除けば。
カイトは言いようもない感情に襲われた。




