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外伝32



 中原の中央山脈より尚、西南の方角に鉄鉱石の採掘される山々があった。古来より中原の都市国家はこの鉄山を共同管理の地域として取り決めを結んだ。

 「鉄」とはそれほど重要な代物だった。

この時代の軍事とは即ち、鉄の専有による所が大きい。鎧兜、武具、蹄鉄などに利用される為にどこか一つの地域が鉄山を支配することを恐れた。

 

 さて、この鉄山――基本的な労働力は罪人や奴隷を主とした。他に貧民からの志願者を除けば最底辺労働者を意味する〝ネズミ〟という別称が加えられた。無論、採掘の技師などは尊敬の念を込めて採掘師と呼ばれ、区別されている。

 鉄山周辺は人口三万人ほどの規模を誇る街が山々に点在している。

 軽い刑罰の罪人や、経済奴隷、或は志願民の家族や生活圏を営む街は、それだけで他に類のない独特な文化を持ち、経済活動を行っていた。酒場から娼妓、生活必需品の運搬は岨道から馬車隊によってもたらされる。

 1

 少年は簡単な説明を加えながら、時折鉄格子の外へ目をやった。気温が低くなるのが皮膚感覚でわかる。標高が上がっているのだろう、一晩を経た今は昇る朝の陽が山と山の間から顔を覗かせ、蜜色の照光に浴した下界の峠道は明瞭に影と光の二層に分離した……

 「お兄さんはどこから来たの? その頬の……」

 と、言いながらカイトの頬に浮き出た魔光テープを指差す。禁忌を犯し、捕縛されたのだろうと言いたげな表情を少年はつくっていた。

 (しまった――)

 迂闊にも禁忌などに対する答えを用意していなかった。沈黙が長く続いた。

 ふと、外から雲雀の鳴き声がする。どこかに巣でもあるのだろうか。赤土の砂利道を数十人を乗せた登山用の牛車が街まで牽引する。巨大な車輪が頻繁に車体を上下に揺らす。

 こんな時ほど感覚が研ぎ澄まされる。

 暫く耳を澄ませながら、カイトは言い淀む。

 果たしてなんと説明すれば良いのだろうか、逡巡しながら目を細め己の頭脳に問う。

 しかし、ピリピリとムズ痒くなる額以外に変化はない。

 内心「ちっ」と舌打ちをしながら、

 「色々あった」それっきりカイトは語らない。

 ふーん、と曖昧に頷いた少年は興味が失せたように鉄格子に背を凭れた。

 乗り心地の悪い粗末な奴隷運搬車は饐えた臭いが充満している。皮脂から蒸れ立つか、或は垂れ流しになっている糞尿が原因かは判らない。幸いにして、気温が下がれば臭いは軽減される。

  目を閉じよう、カイトは弱くなった軀を少しでも休めようと思った。

 2

 〝またネズミどもが入ってくる……〟と、たれかが囁く。

 鉄山のメインゲートを潜る「商隊」を見物しようと、街の上級住人が集まってきている。やせ細った人々が巨大な檻の荷台から見える。一体彼らのどれほどが生きて炭坑から戻ることができるだろうか、と住人たちは値踏みする目つきで眺めた。

 だが、そういう悪意の含んだ好奇の視線に一々反応する気力も失せた荷台の人々は俯き、ひたすらこの時代に生まれたことを呪い、運命を受け入れていた。

 (喉が乾いた……)

 カイトもただ、ひたすら生理現象に悩まされながら外界の人々へ努めて意識をしまいと決めた。

 


 

 『男と女、それぞれ区別せよ!!』

 荷台の檻が開かれたとき、ダミ声の男が叫んだ。それにつられて起きたカイトは、荒涼とした赤土の丘陵地帯を目にした。

 続々と手枷と足枷の嵌められた人々は下車してゆく。

 ジャラジャラと不愉快な鉄の撓む音が鼓膜を聾する。

 「ああ、起きたか。お兄さん、降りないと」

 少年が肩を竦めて肩に軽く手を置く。

 ああ、と同意して足を励まし立ち上がる。どうやら回復能力は高いらしく、立ちくらみせず、二本の足が軀を支えた。

 冷えた檻から降りると、ナイフで刺すような陽光が激しく眼球を眩ませた。

 「急げェ」

 偉そうに命令する男。それが、再び網膜に朦朧と眼前に浮かび上がる。

 カイトは、酷い喉の渇きを覚えながら整列させられた人々の中に放り込まれた。


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