体の傷は心の痛みに比例する
………あれ、僕何してたんだっけ。
知亜は、夢を見ていた。
それは懐かしい夢。しかし、思い出したくない。心にしまった嫌な思い出。しかし、夢は止まらない。
――知亜――
「お父さん?」
――お前は、我が高槻家の跡取りなのだ。もっと必死になれ――
「嫌だよ、もうやりたくないよ。」
――ちぃー君、お姉ちゃんに任せて。あんなお父さん、私が――
「お姉ちゃん、やめてっ。お父さんは悪くないんだ。」
――知亜さん、あなたは私の子なのだからもっとできるはずです。――
「お母さん、僕はお母さんみたいにうまく演奏できないよ。」
――知亜、ちぃー君、知亜さん――
「もう…やめてよ。僕にそんな期待しないで。みんな、そんなきらきらした目で僕を見ないでっ。」
「うっ……」
「――!知亜君っ、よかった、起きたのね。大丈夫?どこか痛いとこない?」
「あけ、み、さん?――っ!?」
知亜は、春子に吹き飛ばされ、右側頭部を床に打ちつけて脳震盪≪のうしんとう≫を起こしていた。春子も、知亜が急に出てきたので腕を振り上げた時の勢いを殺そうとして、一応腕を止めようと我慢したのだが完全には殺しきれなかった。そして、そのまま知亜を吹き飛ばしてしまった。幸い、知亜は吹き飛ばされた時に腕をクッションにしながら右側頭部を打ちつけたので、衝撃も少なく気を失ってから1,2分で目を覚ました。しかし、意識を取り戻した知亜は頭の痛みで表情を歪ませた。
「まだ起きちゃだめだよ。痛みが引くまで、大人しく休んでて。」
「は、い。」
知亜は、痛みに耐えながらゆっくりと横になった。今になって気付いたのだが、妙に明美の顔が近くにある事に気付いた。そして、降ろした頭もちょうどいい柔らかさの枕の上にある。
「大丈夫?もう少し、枕を高くする?」
「いえ、大丈夫です。」
別に膝枕をしているわけではない。明美は、買っていた服を丸めて枕替わりにして知亜の頭を乗せていたのだ。顔が近いのは、知亜のすぐ側に膝をついて顔色をうかがっていたからだ。
「明美さん、濡らしたハンカチ――!知亜君、目を覚ましたのね!」
どこからか、湿らせたハンカチを手に春子がやってきた。そして、知亜が目を覚ましている事に気付き足早に知亜に近づいた。
「ごめんね、本当にごめんなさい。私、わたし――」
「あの、春子さん。僕は大丈夫ですから、気にしないでください。」
知亜は、泣きながら謝る春子を許した。そもそも記憶があいまいで、どうして頭が痛いのか、どうして2人がこんなに心配しているのか分からないでいた。
「だけど、私、また自分を制御できないで桃香と同じ事になっちゃったらって思ったら――」
「春子さん?桃香ちゃんがどうかしたんですか?」
「!ううん、なんでもないの。本当にごめんなさい。謝っても許される事じゃないのは分かってる。だけど、謝るしかできないの。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんな――」
春子は怯えるように、何度も何度も知亜に謝罪する。そんな春子の様子を見て、知亜は痛みに耐えながら起き上がり、春子に近づく。
「――春子さん。僕は、大丈夫です。だから、頭を上げてください。」
知亜は、今できる精一杯の笑顔を春子に見せた。春子は、その知亜の笑顔を見て、涙を隠すように知亜に抱きついて泣き声をあげた。
知亜は、春子が泣きやむまで春子の好きなようにさせていた。
なんか、すごい体が重い感じがするな……




