限界を超えた先の限界
あのおばさんすごいなー。あのおばさんの周りだけ、人が全然いないや。
「はい、僕。詰めてきたよ。」
「わぁっ!ありがとうございます。」
主婦はそう言って、パンパンに膨らんだ袋を知亜に渡した。袋は、もう何も入れないで、という悲鳴を上げているかのようにはち切れそうだ。その中身は、知亜の要望通りの明るい色をしたTシャツが沢山入っていた。
「さすがに、パンツとかはサイズも分からなかったから入れてないけど大丈夫?」
「はい。こんなにたくさん詰め込めたら明美さんも喜んでくれます。」
知亜は、渡された袋を両手で持ちながらそう言った。主婦も、その言葉に安心したように深い息を吐いた。
「それじゃ、おばさんはもうひと踏ん張りしてくるかね。」
「あの、洋服、ありがとうございました。それから、頑張ってください。」
主婦は、着ていた淡いピンクの長袖の袖口をまくりあげ、気合いを入れて再び戦場へ向かって行く。そんな主婦にお礼の言葉と声援を送る知亜は、主婦の姿が見えなくなるまで主婦の行く道を見つめていた。
「知亜君、成果はどう――ってなにその袋っ!?」
主婦と別れた知亜は、明美と合流していた。明美は、知亜が両手で持つ袋を見て驚いていた。どう考えても、知亜にこんな事ができるとは思っていなかったからだ。
「えへへっ。えっとですね、優しいおばさんが僕の代わりに詰めてくれたんです。」
「――ただ者じゃないわね、その主婦とやら。隙間なく詰め込まれた服に、この服の畳み方は如何に多くの服を詰められるかを研究して作られた特殊な畳み方。――一体誰だというの、その主婦とやら…」
明美がよくわからない事を言いだしたのだが、知亜はそれを一生懸命袋を持ちながら聞き入っていた。
「……でも知亜君。Tシャツしかないけど、パンツとかどうするの?」
「えっ……それは…タイムセールでと思いまして……」
知亜は、Tシャツしかない事を明美に指摘されるとは思っていなかった。なぜなら、とにかく次々と洋服を詰め込めれば良いという考えで明美は詰め放題をしていると思ったからだ。そして、指摘されると思っていなかったのでつい、タイムセールという言葉を使ってごまかそうとした。
「……それもそうね。詰め放題のパンツとかはあんまり良い物は無いしね。」
「は、はい。だから、パンツとかは明美さんと一緒に選んだりした方が良いと思いました。」
どうにかごまかせたようだが、Tシャツも詰め放題にはあまり良い物は無いのではないだろうか、という疑問が知亜にはあった。
「それじゃ、次のタイムセールが始まるまでゆっくり店内を見て回ろうか。」
明美はそう言って、知亜の手を取り店内を回り始めた。
「ねぇ、知亜君。この洋服、知亜君に似合いそうだから試着してみない?」
「…あの、明美さん。それ、女の子用ですよ。」
「分かってるってば。知亜君に似合うなら、麻衣も似合うかと思っただけ。」
そんな会話をしながら、2人はタイムセールの放送が始まるまで楽しく店内を見ていた。その際、タイムセールに備えて知亜のパンツのサイズを測ったりもした。
――これより、本日二度目のタイムセールをお知らせします。対象商品は――
「…………」
「……!明美さん、今子ども用下着って言ってましたよ。」
集中して放送に耳を傾ける明美に、知亜は自分が対象となる商品のタイムセールが始まった事を明美の手を引っ張りながら伝えていた。
「場所は――あそこかっ!知亜君、行くよっ。」
「え、どこですか、明美さ――」
知亜が、タイムセールの行われている場所を明美に聞こうとしたが、そこに明美の姿は無かった。
「うぅ、明美さん、もういなくなっちゃった。どこに行けばいいんだろう。」
明美が先に行ってしまい、どこに行けばいいのかわからない知亜は迷子の子どものように店内をうろうろし始めた。
「――ねぇ僕、もしかして迷子になっちゃった?」
「えっ――」
不意に、知亜は自分にかけられた声に聞き覚えがあった。そして振りかえると、そこにはどこかで見覚えのある黒髪をしていた。
あれ?このお姉さん、どこかで会ったような――




