生きる、この言葉に定義は無い
……生きるの事が、こんなに辛くて嫌になるなんて思わなかったな。……辛いよ、涼。お母さんを助けてよ……
……涼が殺されてから、私の全てが崩れ去った。夫・俊哉との離婚、家族三人の思い出がいっぱいの我が家、これからも増えていくはずだった思い出の我が家を追い出された。実家に帰ろうにも、孫の涼がいなくなったのは私のせいだと言われた。
……なんで、みんな私が悪いのよ。悪いのは涼を殺したあの女よ。何が受験に失敗した腹いせなのよ、人に当たらないで自殺でもしてればよかったのよ。……そんな奴に…涼をっ……。
……なんかもう、どうでもよくなってきた。そんな時、気分が悪くなったり嘔吐したりしちゃって、あっ、私も死ぬのかな?って思った。でも、涼のところに行ける。涼、待っててね、今お母さんも涼の所に行くからね……。
━━おい、誰か倒れてるぞ!早く、救急車っ!!
…………
……
「大丈夫ですか?」
目を覚ました明美は、一面真っ白な部屋にいた。そして、声をかけてくる女性が見える。
「……あの、ここは?」
「ここは、病院。あなたは突然倒れて、それを見た人が救急車を呼んでくれて緊急搬送されたの。」
どうやら明美は、助けられたらしい。余計な事をと明美は思っていた。
「それにしても、もうちょっと自分の体を大切にしないとだめですよ。栄養失調で倒れていたら、お腹の赤ちゃんに影響を与えてしまいますよ。」
「……えっ?」
何を言ってるんだこの医者は。私には、もう子どもはいないのに……殺されてしまったのに。
「だから、あなたのお腹に新しい命が宿ってるんですよ。」
「……うそ、ほんとですかっ!?」
「はい、妊娠2カ月目ですよ。みなさん、このくらいになってから気付くんですよね。」
女医は、笑いながら書類に何かを書いていた。明美は、信じられないという顔をしたまま涙を流す。
「……涼、あなたには妹がいたのよ。お兄ちゃんになるはずだったのにね。ごめんね、あなたを守ってあげられなくて。……ほんと、ダメなお母さんよね。本当に守りたい物も守れないなんて。あなただけが私の生きる意味だったの……そんなあなたがいなくなって、お母さんは生きる意味を無くしちゃった。けど、今になって生きる意味が出来ちゃったの。現金なものよね、死にたいと今まで思っていたのに今度は生きたいって思ってるの。……こんなお母さんでごめんね。だけど、もうちょっと待ってて欲しいんだ。お腹にいる赤ちゃんが立派な大人に育つまで待っててくれる、涼?」
明美は、空を見上げながらそう言った。そこから、明美は必死に働いた。貯金も少しはあったが、子どもを生むまでにかかるお金は全然足りていなかったからだ。元夫に子どもの事を話そうとも思ったが、話したらきっと産れて直ぐ俊哉に親権が移ってしまう。確実に稼ぎのある人間と、全く稼ぎの無い人間。どちらが子どもにとって、良い環境であるかは一目瞭然だからだ。そうなる事を恐れて、明美は俊哉には話さなかった。
必死に働いても、お金は足りなかった。だから、お金の事を考えて大きい病院には行かずに小さな産婦人科医院に行った。そこで出会った、産婦人科医はお金はいつでもいいから元気な赤ちゃんを産みましょうと言ってくれた。明美は本当に嬉しかった。涼が死んでから、誰かに優しくされたのは初めてだった。
……妊娠が分かってから40周目に陣痛が始まった。本当に、苦しかった。誰にも頼らずに、この子を産んでみせると誓った。だけど、1人じゃなにもできない。また自分の子どもを死なせてしまうところだった。
だけど、沢山の人が助けてくれた。同じ産婦人科医院に通う妊婦の方々、働き先の店長、格安で部屋を提供してくれた大家さん、他にも沢山の人が支えてくれた。だけど、
「一番助けてくれたのは、涼だよ。ありがとう……」
もう一度だけ、お母さん頑張るから。……お母さんねっ、絶対にこの子、守ってみせるからねっ。
だから、涼。この子の笑顔を守ってあげて。




