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過去の気持ちが今の私

……いつもの日常だった。だけど、二度と繰り返されることのない日常の終わりの日だった。


※ちょっと過激なので、注意しておきます。

「お母さん、早く行こう。」

外は雨が降っているにもかかわらず、1人の少年が玄関で母親を急かすように合羽を着て長靴を履いて足踏みをしていた。

「ちょっと待ってよ、涼。」

今よりも少し若い明美が、少年を涼と呼んでいる。

「もう、お母さん遅いよー。」

「だって、せっかく涼とのお買いものだもん。おしゃれしたいじゃない。」

そんな会話をしながら、明美も長靴を履く。

「でも、お天気こんなに悪いのに今日でいいの?」

「うん、今日じゃなきゃだめなの。」

この日は明美の誕生日。だから涼は、今日母親の明美と出かける事を前々から決めていた。

「だって、どんな天気が悪くてもお母さんの誕生日なんだからいい日になっちゃうんだよ。」

そんな事を言う涼に、明美は優しい子に育ったなと嬉しく思った。

「……ありがとう、涼。それじゃ、行きましょうか。」

「うんっ!」

明美は、左手で傘を差して右手で涼の左手を握る。涼は、明美の手をぎゅっと握って歩き出す。




「ねぇ、お母さん。今日、何したい?なんでもしてあげるよ。」

「ほんと?そうね……なら映画を見ましょうか。雨も降ってるし、お母さんあんまり濡れたくないな。」

明美は、涼と映画を見ようとした。その映画は、涼の大好きな特撮ヒーローの映画で、涼の通う小学校ではそのヒーローが大人気だった。

「お母さん、本当にこの映画が見たいの?」

「うん。涼がこのヒーローの番組を毎朝観てるから、お母さんもこのヒーロー好きになったの。」

「それじゃあしょうがないね。」

そんな事を言いながら、明美は映画のチケットを二枚購入した。本当は、別にヒーローが好きなわけではないのだが、明美が本当に見たいと思っているのは涼の笑顔。だから、涼が大好きなヒーローが出る映画を選んだのだ。

「お母さん、一番前で見ようよ。」

「ふふん、涼。映画はね、一番前で見るよりも真ん中辺りの席で見るのが一番いいのよ。」

「そうなの?」

2人はそんな会話をしながら、チケットに書かれた席へと着く。

「何か飲み物いる?」

「ううん、いらない。」

映画が始まるまで、少し時間が余ってしまったので明美はトイレに行くと涼に言って用を足しに行った。

「あら、これは……」

明美は、トイレのついでに売店に立ち寄った。そこで、明美は何かを買って席に戻った。

「あっ、お母さん、遅いよー。」

「ごめんごめん。そのかわり、はい。パンフレット買っちゃった。」

「うわぁー、いいの!?お母さん、ありがとう。」

涼は、満面の笑顔でパンフレットを受け取った。その笑顔を見て、明美は今日は良い誕生日になりそうだと思っていた。そして、映画が始まった。





「お前は、怪人イルト!この街をめちゃくちゃにしたのはお前か!」

「ひっひっひっ。そうさ、私がめちゃくちゃにしてやったのさ。」

「許さない。お前は俺たち、コスモレンジャーが倒してやる。」

「そう何度もやられる私ではない。みろ、この星人の数っ。これだけいれば、お前らもお手上げだ。」

「くそっ、数が多すぎる。どうすれば……」

「ちょっと待ったー。」

「む、何者だ!貴様らは。」

「俺たちは、未来からの使者、ウルトラレンジャーだ。力を貸すぜ、コスモレンジャー。」

「へっ、余計なお世話だぜ。だが、ここは協力してやる。」

「何強がり言ってんのよ。ありがとう、ウルトラレンジャー。」

「……いや、来たのは俺たちだけじゃないぜ。」

「えっ……あれは!?」




「今回は助かったぜ。今度は俺たちがピンチに駆けつける、いつでも呼んでくれ!」

「あぁ、その時は頼んだ。……そろそろお別れの時間のようだ。また会おうっ!コスモレンジャー。」

「ありがとう、ウルトラレンジャー。それに、映画の前のみんな、また会おうぜ!!」


1時間半にわたる映画も、エンディングを迎えた。








「お母さん、凄かったね。歴代のヒーローがたくさん出てきたよ。」

「そうね、やっぱりヒーローは強いわね。」

2人は映画の余韻に浸りながら、近くのファミリーレストランで昼食をとっていた。

「涼、デザート頼む?」

「ううん、いらない。夕ご飯のために、お腹すかしておくの。」

「そっか、それじゃ次はどこ行こうかな。」

明美は次のデートの場所を考えながら、食後のコーヒーを飲んでいた。





「あぁー楽しかった。」

「ほんと?お母さん、楽しかった?」

「うん、涼のおかげで凄く楽しかった。今日はありがとうね。」

昼食後、2人はデパートに行き服やおもちゃ売り場を見ていた。そして、夕焼けのオレンジが綺麗に見える頃に帰宅しようしていた。

それまで降っていた雨も、2人が帰る頃には止み始めていた。

「ほら、お母さん。雨が止んだよ。」

涼は、合羽のフードを外して明美の手から離れていく。

「こら、涼。危ないわよ。」

そんな明美の声も涼には届かない。

「わあっ!!」

涼の驚いた声が聞こえた。慌てて涼のいる方を見ると、どうやら誰かとぶつかってしまったらしい。

「すいません。ほら、涼も謝りなさい。」

「ごめんなさい。」

「…………」

しかし、真っ黒い恰好をして顔を隠している相手は無反応のままその場を立ち去った。

「涼、大丈夫?」

「うん、平気だよ。」

明美は涼の手を取り、自宅への帰路を再び歩き始めた。その時、誰かが走ってくる音が聞こえた。明美が振り返ろうとしたその時、涼が明美の手から離れていった。



倒れた。涼の背中には、刃渡り15センチの普通の包丁が刺さっていた。白い合羽は、その赤い液体をはじく。雨を流すように。涼は、口から血を吐きだす。

「お…かあ…さ……」

「涼?ねぇ、涼!?……いやぁーーっ!?」

明美の叫び声に気付いた近所の住民は、表へと出てきて野次馬を作り出す。そして、誰が呼んだかは知らないが救急車のサイレン音が聞こえてきた。

うそ、嘘よ。涼が居なくなるなんて。涼が助からないなんて。そんなわけないじゃない……だって、さっきまで……

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