鏡の世界は同じ世界
うっ、何でっ、怒られたのかな。お手伝いしただけなのに……
「はぁー、いきなり問題発生か。沙由は、私が起こしに行くべきだったわ。」
明美は、後悔していた。これから、一緒に暮らしていくのだからお互いの事は干渉しすぎないように注意しているつもりだった。しかし、結果として知亜には可哀想な事をしてしまった。
「ねー、お母さん。ちぃにちゃんはー?」
「んー、知亜君はちょっと具合が悪くて自分の部屋で休んでるから遊びに行っちゃだめよ。」
耶絵は、知亜が姿を見せない理由を明美に聞いて、わかったーと言いながらどこかへ行こうとしていた。
「耶絵ー、どこに行くの?」
「ちぃにちゃんのお部屋だよ。」
さっき、行ってはいけないと言ったのにもかかわらず、耶絵は知亜がいる部屋へと行こうとしていた。
「だからね、知亜君は具合が悪いの。そっとしておいてあげないと、知亜君も困っちゃうよ。」
「うん、だいしょーぶ。静かにしてる。だから、ちぃにちゃんのとこ行くー。」
耶絵はそう言うと、明美の制止をふりきり知亜がいる部屋へと走った。
「って耶絵ー。……もうっ、あの子ったら。」
明美は、自分の言う事を聞かずに走っていく耶絵を追いかけた。
「…………」
知亜は、部屋の隅の方で膝を抱えながら顔を膝に埋めていた。
「……うー。」
麻衣は、知亜のそんな様子にどうすればいいのか分からず、部屋の中をおろおろと動き回っていた。
「……よし。……知亜、どうしたの?具合悪いの?」
麻衣は意を決して、知亜に近寄り話しかける。
「…………」
しかし、知亜は反応しない。
「……黙ってたらわからないよ?」
「……気にしないで、大丈夫だから。」
知亜がやっと話したと思ったら、大丈夫と言ってきた。どこからどう見ても大丈夫ではないのに。大丈夫という人ほど辛い思いをしていて、さらにそれを溜めこんでしまう。
「…っ、そんな大丈夫そうじゃない顔してたら納得できない。」
麻衣は、大丈夫と言いながら苦笑いをして見せた知亜に厳しい口調でそう言った。
「……ありがとう、麻衣ちゃん。だけど、本当に大丈夫だから。きっと、僕が悪いんだから……」
知亜は理由を一向に話そうとしない。そして、自分を非難していた。
「…………」
「……麻衣ちゃん?」
麻衣は、そんな知亜の返答に黙った。そして、寄り添うように知亜の隣に腰を下ろした。麻衣は、話そうとしないなら無理に聞くことをしてはいけないと思い、なら少しでも知亜の苦しみを和らげられるよう知亜の隣にいようと考えた。
「……ごめんね。」
「……別に謝る必要はない。私が好きでこうしてるだけ。」
麻衣がそう言った後、2人は静かにしていたがその空気が、心地良いと2人とも感じていた。そんな空気を壊すように、襖がほんの少しだけ開かれた。
「ちぃにちゃん、だいじょーぶ?」
耶絵が心配そうに、顔を覗かせていた。
「……大丈夫だよ。耶絵ちゃん、ありがとうね。」
知亜は、自分を心配して来てくれた耶絵に感謝した。麻衣のおかげで少しは元気を取り戻したようだ。
「ほんと?お母さん、具合が悪いからって言ってた。」
「もう、大丈夫だよ。具合も悪くないよ。」
知亜のその言葉に、耶絵は喜びの笑みを浮かべ、知亜に抱きつこうとした。しかし、麻衣がそれを止めた。
「……まだ、安静が必要。」
「うぅー、離してよー。離してったら、まいおねえちゃん。」
じたばたする耶絵を、麻衣は頑張って止めていた。
「……これなら大丈夫かな?」
そんな部屋の様子を、外から聞いていた明美が安心したようにその場から去っていった。
……沙由お姉ちゃんが帰ってきたら謝ろう。僕が悪いんだから……
麻衣ちゃんは、学校に行かなくていいのかな?




