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『巡査と質屋の共犯目録 灰色の正義について』  作者:
未亡人の哀しみと死者の声
1/8

プロローグ



 灰色の蒸気にけぶる街。

 

 蒸気機関の音が遠く響くこの工業都市では、魔法や錬金術などというものはくだらない子供のお伽話として忘れ去られて久しい。


 教会では死者の魂の存在を認めず、死んだ者は潔白(しろ)く洗い流されて神の国に昇るとされる。


 かつては金剛石(ダイヤモンド)の都と呼ばれた華やかなるルクスボロー市は、今では灰白色の霧にけぶり煤に汚れた石炭(コールタール)都市(まち)だ。

 

 そんな街の片隅。

 うらびれた路地裏の質屋の店主は、死者の声を聞くという噂がある。



――からりん。 からりん。



 軽やかで涼しげな音がする。

 

 その店には、ひどく不機嫌な店主の青年がひとり。


「見てほしいのよ、この絵の価値。いくらかは値が付かないかねぇ」


 カウンター越しには、大量の絵画を運び込んだ老婆。


「…………無名な画家の作品なんてものはな、おばあさん。質屋じゃなくて、せめて画廊に持ち込むんだよ」


 青年は不機嫌に、面倒臭そうに、しかし歳上のマダムへの最低限の礼儀をどうにか取り繕って言う。

 その手が絵画のひとつに触れた時。


「……ぁっ、ゔ……ァアッッッ!」


 苦しげに零れた声。

 老婆は、目を見開く。


「まぁ……あら、まぁ……!」


 このささやかな出来事が、青年にとっては最悪の始まりになる。


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