第6話 そして、物語は始まらない。
どうしよう、どうしよう。
何をしても、殿下、婚約破棄してくれない~。
モンペを穿いて行ってもダメ。オヤジギャル(古いな)スタイルもダメ。
令嬢、というより女性として何かを棄てたようなことをやってみせても全部ダメ。
「カワイイね」だなんて、殿下、どんな嗜好をお持ちなんですかっ!!
こっちはあり得ないことやりすぎで、精神的ダメージが半端ないっていうのに。
なんか、甘いセリフ囁かれて、会うのを楽しみにされてたりするんだけどっ!!
あ~~~~ん、もう、どうなってるのよーっ!!
ハッ!!
もしかして、これが俗に言う“悪役令嬢溺愛ルート”ってヤツ?
ゲームのシナリオ通りに過ごさない悪役令嬢。前世の(ややオバさんクサイ)知識を使ってみるけど、その知識のせいでイケメンにウケが良くなるっていう。嫌われて逃げ出したいのに、なぜか溺愛されて。そのせいか、主役(ヒロイン)が腹黒悪役化して。悪役令嬢が、主役に陥れられるのよ。そして、主役が殿下とかに断罪されて、「ギャボンッ!!」となる……。
そっ、それでいいのかっ?(汗)
このルートになれば私の断罪フラグは消えるけど、未知の展開だから、正しいルートかどうかわかんないのよね。
殿下に愛されてるって勝手に思い込んでるだけなら、ただのドキュン女、勘違いすぎて恥ずかしいだけだし。
殿下の好意を信じて行動して、万が一そこに主役が登場しちゃったら……。相手は、主役。それだけで誰からも好かれるという、特殊最高スキルを持ってるんだよ? たとえ殿下と相思相愛になっていたとしても、簡単にブチ壊されそうだし。
というか、主役、全然現れないじゃない。ゲーム開始は春からでしょ? 今、すでに春過ぎて、夏来にけらして秋にさしかかってるんだけど?
これはなにか? アニメ制作決定っ!!とか言っときながら、大人の事情で制作されなかったとかいう、そういうヤツ? そして、そのままお蔵入り? 制作? そんな話は知らなくってよ、とかなんとか。
イヤイヤ、待て待て。落ち着け、自分。これ、アニメじゃないし。ホントのことだし。ニュータイプの修羅場を観る気はないけど。
いつまでこんな中途半端、モヤモヤ状態なのかしら。
好きでもないモンペ姿に、甘すぎる殿下のささやき。
もう、私、限界っ!!
“悪役令嬢”、辞退させていただきますわっ!!
* * * *
ぬるま湯世界のヒーローは、今日も退屈だ。
真面目な王太子ということになっているから、日常的に政務がまわってくるものの、ぬるま湯のような平和な世界だから、大変な事案を取り扱う……なんてことはない。
軽く目を通し、署名、捺印、はい終わり。
あとは、恋愛にでもかまけていてくれとばかりに暇になる。
恋愛……と言われてもなあ。
自分の周りにいるのは、婚約者のアデリシア嬢だけだし。主人公らしきヒロインはまだ現れないし。
オタオタする彼女をからかうのも楽しいけど、それだけでは退屈で。
あーあ。
なんでこんな世界に転生しちゃったんだろうなあ。
もっとさあ、そうだな……。ある日突然、隣国異教徒が攻めてきて、勝てるはずの会戦で負けて王都炎上しちゃうような世界とか。足を滑らせて川に落ちて、戦国時代にタイムスリップしてソックリさん武将の身代わりになって生きるとか。
そういう、戦略とか戦いとかが繰り広げられる世界ならよかったのになあ。
それとも、俺のほうから、そういうこと始めちゃう?
騎士団あたりに声をかけてパーティを作って冒険……といってもロクなモンスターいないしなあ。ラスボス、魔王的な存在もいない。
みずから指揮して戦争をふっかけるというのも、なんか違う気がするし。攻められて、国を滅ぼされたところから立ち上がってこそのヒーローだろうし。
ホント、マジ、退屈。やることがねえ。
“乙女ゲームのヒーロー役”、マジで辞退させてくれ。
* * * *
だから、ムリやって。
なんか、ウワサで聞いたんやけど、王太子さん、悪役令嬢の婚約者さんと仲ええらしいやん? かなり特異な嗜好の令嬢さんらしいけど、王太子はそれが気に入ってるとかなんとか。
周りの人が、「あれはないわ~」ってドン引きしてるのに、王太子は、「かわいいよ」とかなんとか言うとるって話やし。
そんなラブラブの二人んトコにノコノコ出てったら、「空気読めや」ってなるやん。
KYやん。
下手すりゃ、“およびでない”だけやなくて、こっちが悪役化させられるとこやったわ。令嬢さんの代わりに、わたしが悪役化して断罪されるっちゅー展開。
あー、あぶなかった。
こっちで恋愛始めといて、ホント、よかったわ。
“恋愛脳”、“脳内お花畑”ヒロインなんてやりたくないし。
時代は、農業、アグリカルチャーやで。
好きな人と一緒に畑を耕して、野菜を育てるっ!!
変なスキルなんてないけど、一夜で作物が成るなんてことはないけど。(当たり前やわ。最近のそういう手の話って、ホンマ農業やったことあるんかっていうのが多い。農業、舐めるなや)
それでも、大好きなビリーとの農作業は、ホンマ楽しい。働いとる時のな、ビリーの上腕二頭筋の動きとかな、服の上からもわかる三角筋や大胸筋の厚みとか。見とるだけで、キュンキュンするねん。
男は、マッチョでなんぼやねん。ビリー、最高っ!! このまま彼とゴールインするでぇっ!!
つーことで。
“主役”なんてめんどくさいもん、辞退させてもらうわ。
* * * *
ああ、もうどうなってるのよっ!!
せっかくちょうどいい具合に転生予定者が出たから、それぞれの役割に転生させたと思ったのにっ!!
ヒロインは登場を拒否するわ、ヒーローは悪役をからかって遊んでるわ、悪役は逃げ出そうとするわ。
――最悪。
これじゃあ、上司(神さま)の査定評価下げられちゃうじゃない。適切な人材を世界に派遣(転生)させられなかったって。
下手したら、私が女神から降格されてしまうわ。
こうなったら、ストーリーを変更しておこうしら。
ヒロインとヒーローを恋愛させて、悪役を断罪させる予定だったけど、そこを今風にチェンジして、悪役とヒーローを恋愛させるの。
もともとそういう展開のストーリーにするつもりだったんですって言っておけば、評価も下がらないと思うし。
あー、でもその場合ヒロインが悪役化しなくっちゃいけないけど、ヒロイン、とんずらこいたからなあ。
じゃあ、もう一人ぐらい転生させておいて、その子を悪役化させようかしら。最近は、そういう展開もあるっていうし。
よし。そうしましょう。
……って、あら? 転生予定者魂がもうないわね。
おかしいわ。ストックはここの引き出しに入れておいたはずなのに。使い切ったのかしら。
仕方ないわ。
下界のトラック運転手にでも通達を出して、ノルマを達成してもらわなきゃ。今月はあと10人ぐらい魂が必要かしら。ああ、猫にも通達ださなきゃね。身代わりに轢かれる人材探し、しっかりやってもらわなきゃ。世界を構築するには、人材の見極めが大事なんだから。
“ヒキニート”とか、“平凡なOL”、“フツーの高校生”とか。“適度にオタク”で“ゲーム世界”を知ってる人物。現世では陰キャだけど、来世ではイキリになるような人材。
煽り耐性0で、売られたケンカは買うような短気さ。
チートスキルや特殊能力を渡しても、すぐには発揮せずに、追放されてから使いだす腹黒さも持ち合わせてる。
高等魔法を苦労せず覚えられるほどの能力を持ちながらなぜか隠したがり、そのくせ頑丈なはずの的をぶっ壊すほどの厚かましさ。(隠す気ないよね、キミ)
現世で経験ないはずなのに、痛みや苦しさへの耐性はMAX。モンスターもサクサク倒しちゃう非情さ。
そういう激レアな人物を探してこなくっちゃ。今やってる世界みたいに失敗しないためにも、ちゃんとやってもらわなきゃ。
とりあえず、今の世界は、もう一人ぐらい投入しておいてっと。
あーあ。
こんな仕事、ラクじゃないわ。ストレスでお肌が荒れちゃうじゃない。髪や肌がキレイなのも、女神としての評価に含まれてるっていうのに。
もうホント、イヤになっちゃう。
転生斡旋女神なんてお仕事、辞退させてもらいたいわ。
おしまい。
第六話です。
最終話です。これでも。
悪役令嬢→ヒーロー→ヒロイン→女神の順で語っていきます。
いやあ、かなり“悪役令嬢転生モノ”をディスった内容になってしまいましたのう。アハハハ……(乾いた笑い)
色々とツッコみたいことを盛りだくさんにして書いてみた、この作品。(トートツですが)今回をもって最終回となります。
別にね、王子と悪役令嬢がラブラブになってみてもいいのですが、そういうのを書く気は毛頭なかったので。……なんか、ちょっとサギみたいな作品ですね、コレ。
閲覧していただいた方、皆さま、本当にありがとうございます。見ていただけた、読んでいただけた。それだけで物書き冥利に尽きます。だんごは幸せ者です。
次作でまた、皆さまにお会いできることを楽しみにして。
令和3年9月17日 若松だんご 拝