決定
僕たちが向かっているのは街から近くて尚且つ人がいなさそうな。
洞窟がベストだ。
アスタや榊の話を聞いているとどうやらあの時の襲撃者のような奴がこの世界にはうようよいるらしい。
なにやら目的があるらしいがそこはアスタも榊も知らないらしい。
ただ、噂話程度のことなら聞いたことがあると言っていた。
どうやらこの世界に飛ばされた奴を全員殺すとあのおっさんに会えるらしい。
ちなみにおっさんの正式な名前は不明で、様々な名で呼ばれているらしい。
そしておっさんに会うことが出来ると元の世界に帰ることが出来るらしいが……。
別に帰りたくもないしこのままでいいかなというのが僕の考えだ。
以前までは平和が一番とか思っていたけれどもいざこういうのに巻き込まれてみると意外と悪くはないかと思う。
何回も死にかけてる……いや、死んでるか。
死んでるのにこの状況を楽しいと思えるなんて僕はどこかおかしいとしか思えない。
……本当になんでなんだろうな。
そんな自己思考はさておき、榊と二人できょろきょろと岩山を見渡してみる。
アスタはまだ起きない。
何個か候補は見つけているがアスタのお気に召すかも考えなければならないのでアスタ待ちということになる。
「この愚図はまだ起きないんですか」
アスタのことを蔑むような、というより蔑んでいる目で見下す。
「安易に眠らすんじゃ無かったな」
「いえいえ、私たちのことを思って行動してくれたんですから」
アスタを見る目と僕を見る目を同じにしてやってくれ……。
「う……ん……」
「あ、起きたか」
「俺は夢を見ていたんだ」
「へぇ、どんな」
また突拍子のないことを。
「性格のいい二人の美女に囲まれる夢だったんだ。その夢が現実だったら良かったのに」
もっと突拍子のないことを言い出した。
よく起き抜けで人を煽ることが出来るなこいつは。
ある意味尊敬するよ。
「どうでもいいや。それより何個か目星はつけてるんだけどどの辺がいい?」
めんどくさくなりそうだったのでさっさと話題を変える。
「ん?俺は別にどこでもいいぞ?楓が気に入ったとこにしてくれ。あ、またいたのか榊。さっさと家に帰れよ」
「そうですね。さよならアスタさん。さぁ楓さん、一緒に二人のマイホームを探しましょう!」
「出て行くのはてめぇだよ榊ぃぃぃぃぃ‼︎」
「貴様が出て行くんですよアスタぁぁぁぁぁ‼︎」
暴れんな。
僕のキャラがどんどん薄くなる。
「それじゃあ……ここに決めるか」
前を見ると丁度ドアがはまりそうな穴が開いており、周りにはたくさんの岩山、そして高さもなかなかある。
「なかなかいいじゃねえか」
アスタがにやっと笑う。
「なかなかどころか最高クラスですよ」
榊はふふっと少し声をあげ笑う。
「んじゃ、ここにするか!」
三人の家がここに誕生した。
……と思っていたが洞窟内を整備する必要があるので家が完成するのはもっと先になるのであった。
家の決定に伴い全員の事をしっかりと分かりあう為にこれからの事を話しあうことになった。
「まず俺たちがやらないといけないことは何か分かるか」
「……家の整備か?」
「ですかね」
「いや、違う」
こいつにしては神妙な顔してるな。
「まずやらないといけないことは…-…」
おいおいやめろよ。
そんな真面目な顔お前らしくないだろ。
「……就職だ」
「……リアリストなんだな」
「はい、反論する気が失せました」
「お前ら真面目に聞けよ」
至って真面目です。
「俺が楓と宿に泊まることが出来たのは手配書に載っている悪人たちを捕まえて賞金を稼いでいたからだ。おそらく榊も似たようなもんだろう」
「いえ私は村の人達のご厄介になってましたが」
「……」
頑張れアスタ。
「まぁいい。とにかくこれからは生活費をわれわれ三人で稼がねばならん。そこでどんな仕事をするか決めるんだ。なるべく三人一緒の方がいいだろ?」
「お前にしてはいいこというじゃねーか」
「チャバネゴキブリから普通の黒いゴキブリぐらいには見直しました」
それほとんど変わってないだろ……。
人によっては下がったと思うかもしれない。
「楓はどんな仕事がしたい?」
と言われても僕は仕事をしたことがないのでわからない。
「ついでに聞いておくが榊はどんなのがいいよ」
「私ですか……わたしは食事処のような所がいいですね。ご飯も頂けるかもしれませんし」
「なるほど」
勉強になる。
「しかし人に多く接するような仕事で大丈夫なのか?店を開くにしてもどこかに雇ってもらうにしても洋装の奴が来るかもしれんぞ?」
「おお……そこは盲点でした」
こいつすごいな……。
普段はあんなんなのに。
「そこでだ。意見を聞いておいて悪いんだが俺は便利屋をやってみたいと思っている!」
本当になんで聞いたんだよ。
そして便利屋?
そういうので通じるのは漫画内だけにしておけよ。
「便利屋ならば仕事を選べるし報酬もそらなりに受け取れる筈だ。な、どうだ?」
「考えんのめんどくさいからそれでいいよ」
「私もそれでいいと思います」
アスタは拒否されると思っていたらしく、というか拒否して欲しかったらしい。
「……なんか釈然としないがそれに決定だな」
と言ってこの話題は終わった。
「えぇ……と、次の議題はこれかな」
「次は何を決めるんだ?」
「黙って聞いてろアスタ」
しょぼんとするアスタ。
やめろ。
お前がやっても別に可愛くもなんともない。
「家の間取りだ」
「それは重要ですね」
「この洞窟は横向きには穴が開いてるけど縦にはまだ岩が詰まってんだよ」
この岩山はなかなかの大きさがあり
高さにして三階建て、広さにしてはワンフロアで4LDKにも出来そうなくらいだった。
だからこそ慎重に決めないといけない。
「とりあえず三人の部屋は確実に作りますよね」
「あとはキッチンとか風呂とかリビングとかか?」
「そうだなぁ……あと応接用の大広間は欲しいな」
「仕事場は一階、共用スペースは二階、個人の部屋を三階にしましょうよ」
「それでいいか。まあそれだけ決まったらあとは適当に掘ればそれっぽいのが出来るだろ」
なんとも適当な計画であった。
「他に話すべきことは……全員の身の上のことですか?」
榊が提案。
「そうするか。俺はお前らのこと全然知らないしな」
「知ってるやついたらびっくりするって……話すか。僕からだな」
アスタがいよっと大きな声を出す。
バカみたいだからやめろよ。
「僕は佐倉楓。16歳だ。口調と一人称があってないって言われるけど気にしないでくれ。特技は……なんだろうな。持ってる能力は……正直よくわからんが肉体強化らしい。よろしく」
ぱちぱちと拍手が洞窟の空洞に鳴り響く。
小学生の自己紹介か。
「次は俺だな。アスタ=バルガス。おっさんに見られがちだけどまだ19だ。特技は絡まったコードをすぐに解くこと、俺の能力は装備の能力、俺専用の装備を異空間から出して装備する能力だ。これからよろしく」
再度ぱちぱちと鳴り響く。
やっぱ小学生だ。
「最後は私ですね。榊雫、15歳です。特技は映りが悪くなったテレビを叩いて直すことです。持っている能力は早着替えの能力で、異空間に閉まっている服や持ち物を自在に出すことができます。隣の馬鹿と違ってその服や武器は自分で調達しなければなりません。なので普通の装備か特殊な能力を持っている装備かを見分ける必要があります。最初に着ていた青い際どい服にはスピード補助、穴をあけた時に使った服はパワー補助の効果があるんです。馬鹿のエルヴレインと違う所はエルヴレインは砕かれても再度能力を発動すると再生しますが私の場合斬れたり焼かれたりすると終わりです。まあ能力の説明はこれくらいですね、これから何卒よろしくお願いいたします」
三回目のぱちぱちを鳴らす。
ぱちぱちぱち。
「と、まぁこれで第一回三人会議(仮)を終了しまーす。おつかれっした」
「おつかれさーん」
「お疲れ様でした」
挨拶が終わると同時だった。
アスタ大きな声が洞窟中に鳴り響く。
「てめぇさっきから俺のことなんだと思ってんだあぁ⁉︎」
「うるさいですね!静かに出来ないんですか⁉︎一回死にます⁉︎」
僕じゃないんだから一回殺したら死ぬぞ。
「やってやろうじゃねぇか!エルヴレイン!」
「断罪の衣!四刀・春陽!」
アスタの奴なんか途中ぶつぶつ言ってると思ったらエルヴレインの詠唱を言っていたのかよ。
最初からこのつもりだったな?
こいつ。
榊も榊でなんの躊躇もなくこの装備を決めたところをみると話し合いが終わる前に何を着るか決めていたらしい。
「……外でやれよ」
洞窟の外の日差しがとても眩しかった。




