そつぎょー
「突然だが、俺たちにある依頼書が届いた」
「ほんっとに突然だなおい」
アスタが一封の手紙を手に、そう言い放つ。
「依頼ですか?先日来た方は、依頼ではなく、ただ来ただけ……でしたっけ?」
「やめろ城山。それ以上僕にトラウマを植え付けるな」
この間来た、ルーク・コールは僕に告白しに来ただけ……。ああ、寒気がする。
「んでんで!依頼ってなんですか?」
「落ち着くが良い……。精神年齢は我の方が上なのではないか?」
安心しろ。お前も十分子供だから
。
「依頼の内容か。実は俺もまだ中身を見ていない」
妙に勿体ぶりやがって。さっさと開けろ。
そして、少しずつ、少しずつ封を開けていく。十秒に一センチずつぐらいのおっそいペースで。
「……ああ!イライラする!」
アスタから手紙を奪い取り、勢いよく開け、中身を確認する。
「楓……。お前は少しも待てないのか……」
「僕がこういう勿体ぶったのが嫌いってことは、最初に会った時から知ってるだろ」
「……そういえば、能力婆さんのとこのゆっくり開く扉も無理矢理蹴り開けてたな」
よく覚えたもんだ。
「……案外ガサツなんですね」
「お前には言われたくないな」
こいつも大概な筈だ。
「それで、依頼の内容はなんなのだ?」
「なになに……?『こんにちは。早速で悪いのですが、依頼をお願いしたくてこの手紙を送りました。その依頼なのですが、僕の童貞をもらってほしいのです』……またこんなのか!ふざけんな!」
依頼書を地面に叩きつける。ぱさ、という音を立てて、地面に落ちるが、それを榊が拾い上げる。
「まあまあ、落ち着いて下さい。続きを読みますね。『……後、僕の卒業を手伝ってほしいのは、佐倉楓さんか、榊雫さんです。出来れば、佐倉さんの方でお願いします』……楓さーん?ご指名ですよぉ?良かったですねー」
「てめえも候補に入ってるってことを忘れるなよ?」
「出来れば楓さんって言ってるじゃないですか。さあ、さっさと大人の階段を登ってくるんですよ」
「ああ⁉︎誰が行くかってんだよ!どーせこのふざけた手紙の主は……。『はわわ⁉︎ど、どどどど……童貞を……?で、でも……依頼なら仕方ないよね……。わ、私も初めてですから……痛くしないで……くださいね?』みたいな展開に持って行こうとしてんだろ⁉︎エロ同人みたいに‼︎」
「……なんか今日の楓、おかしくないか?」
「……はい」
「そこ、黙っとけ!」
アスタや城山に当たり散らす。
あれ、なんでこんなにテンション高いんだ僕。
「……さっきからなんの話をしてるの?」
一人、会話に全くついてこれていない少女がいた。
そういえば、榊もこういうのには耐性がなかったと思ったのだが、勘違いか?というより、なんだか性格自体が変わってきた様な……。
「メア、俺が教えてやるよ……。大人の保健体育をな」
「おいやめろ」
アスタの頭をサッカーボールよろしく蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたアスタの方は、ホバリングしながら壁にぶち当たり、やがて意識を失っていった。
「……やりすぎたか?」
「少し……」
城山がアスタへと歩み寄り、ちゃんとした体制で床に寝かせる。
どうせなら椅子にでも座らせてやれよ。まあ、僕ならやらないけどさ。
「それで、どうするんですか?この依頼」
「もちろん……」
「破棄ですよね」
「行くぞ。依頼者を粛清しに」
「……あなたならそういうと薄々感じてましたよ」
ゆうちゃんのナイフに加え、すり減りすぎて、もう殆ど使えなくなってしまってはいるが、無いよりかはマシの靴を履く。
「本気だ……楓が本気だよ……」
「ほんとに今日のあいつはおかしいぞ」
「うるさいな。それじゃあ行ってくるからな」
「あ。待て。俺も行く」
「お前もか?」
「なら私も行きます!」
榊もついてくるのか。初期メンバーだな。なつかしい。
「僕はやめておきます。少し体調が優れませんので」
「私もやめておくー。なんか怖そう……」
二人は辞退か。ま、いいだろ。
「というかメア、お前、いつもの口調はどうした?」
「……ぐっ……!はぁ……はぁ……。そろそろ二重人格の片割れを抑え込むのが苦しく……」
「そっか。じゃあな」
中二病を再発症したメアを無視して、依頼主との待ち合わせの場所に向かう。
「……酷いよぉ」




