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アスタの力

「いいか、夜襲いに来たりしたらただじゃすまさないからな」

  顔が異様に変形したアスタを睨めつけ、ばたんと扉を閉め、先刻借りた宿のベッドに体を埋める。

  「くそ……あいつがあんな奴だったなんて……汚らわしい!」

  わざと隣の部屋に聞こえるように大きな声で言う。

  隣からもの凄い呻き声が聞こえるが気のせいということにしておく。

  しかし……。

「死ぬってまた……」

  とんでもない宣告がきたもんだ。

  別に強制ではないしずっとこのままでも支障はないはすだ。

  だが男に戻らないとアスタが怖い。

  奴がいると常にビクビクしていないといけない。

  かといって消えてもらうわけにもいかない。

  奴がいないとこの世界を歩くことすらできない。

  いたらいたでやっかいな奴だがいなかったらいなかったでやっかいなのだ。

 まああれだけボコった後だしなにもないだろう。

  寝るか。



「ん……」

  目が覚めた。

  窓の外を覗いてみると月が黄金に輝き、星はちかちかと瞬いている。

  こっちの世界の夜空は綺麗だな。

  空気も澄んでいるからか単に明かりが少ないのか。

  なんて感傷に浸っていると自分が何故目が覚めたか理由が判明した。

  激しい尿意が体を襲う。

  「ちょっと……やば……」

 寝起きでふらふらする足で必死にトイレへと向かう。

「はぁ……ん……あ、あと……もうすこし……」

  ようやく辿り着いた楽園への扉のドアノブに手を伸ばし。

  掴み。

  力を入れ。

  下に下げる。

  その瞬間だった。

  ガラスの割れるけたたましい音が僕の耳を襲う。

  「なっ……!」

  音に反応し、後ろを向こうとしたが時すでに遅し。

  窓から入ってきた謎の人物の手に握られた銀色の刃が僕の背中を貫いていた。

「かはっ……」

  下を向くと二つの球体と左胸に刺さった銀色の刃。

  「なんだよ……痛みは感じるの……かよ……」

  死なないと聞かされていたからある程度余裕はあった。

  でもこれは……。

  体が重い。

  目を開けていられない。

  体から血が引いていくのがわかる。

  わざとはいえ……死にたくはない……な。

  僕の意識はそこで途絶えた。

 


「さぁーて。これでまた”あいつ”に一歩近づくことができたぜ」

  声から察するに襲撃者は男、単身乗り込んできたようだ。

  闇討ちとは卑怯な手を使いやがって。

  死なないといえよくも楓を殺してくれたな。

  絶対に許さない。

  小声で能力発動の詠唱を呟き、発動する。

  俺の能力は楓のような自分を強化したりするものじゃないし、よくある炎を出し たりといった分かり易い能力でもない。

  正直自分でもなんだかぱっとしない能力だと思う。

  でも強さには自信がある。

  俺の強さへの自信になってくれる能力の賜物、その名は。

「エルヴレイン!」

  エルヴレインと名付けられた西洋風の装備を身に纏うだけの地味な能力。

  しかしこいつには何度もお世話になっているから性能はお墨付きだ。

  頭上で槍をぐるぐる回し、調子を確認する。

  悪くはない。

  振り回していた槍を構え、相手に質問する。

「何故貴様はここを襲った?」

  襲撃者はにやりと笑い、その後少し顔を伏せた後、表情を消して淡々と答える。

「実はさぁ、俺そこの女が超強いって聞いちゃったんだよねー。なんでもトップクラスとか?」

「それがどうした!」

  やや声を荒らげて答えを催促する。

「やっぱさ、強い奴は育ってない内にぶっ殺すのがセオリーじゃん?そのセオリーにしたがった結果がこれでーす」

「……無理やり誰かにやらされたとかだったら半殺し程度で済ませたところだが……」

  先程よりもどっしりと槍を構える。

  「いくぞ」

  言い終わるか終わらないかの内に相手に向かって槍を素早く突き立てる。

「おっと!」

  襲撃者も負けじと懐から抜き取った楓と同じ型の長めのナイフで応戦する。

  「うおおおおお!」

  尚も激しく槍で突くが、ひらりひらりと躱してなかなか当たらない。

  「……俺さ、まだ能力発動してないんだよね」

  ボソリと襲撃者が呟いた。

  その刹那。

  自分の意思以外で外れることは無いはずの鎧が、能力で異空間に保管してある筈の槍が一瞬で消え去った。

「なっ……!」

  どういうことだ。

  「驚いたか?これが俺の能力さ!」

  「能力を無効化する能力だと ……」

  そんな能力があるなんて……そんなの楓より強いじゃないか!

「ただし制限時間は一分。再度使用するには五分のインターバルが必要、そして二人同時には使えないのがデメリットなんだよね。さらに言うとこうやって間抜けに相手に能力を聞かせないと使えない、というより相手の能力を無効化してから10秒以内に能力の解説を始めないと俺の能力がなくなっちまうんだよね。そして能力の解説中は一分に含まれない!これで全部さ」

「なるほど。そういうことか」

  なるべく会話を長引かせ、制限時間を無くそうとする。

「そうさ!だから迅速に死……」

 どすっと鈍い音を立てて襲撃者の胸にナイフが突き刺さる。

  「さっきから丸腰の相手にばっか攻撃しやがって関心しねーな」

  下を向くと銀色の刃。

  後ろを向くと知らない男。

「お前こそこそと盗み聞きしてた割りには細かいところは全然聞いてなかったんだな。僕だよ」

  そこには元の姿であろう楓が立っていた。

「まったく……いくら生き返れるとはいえもう死ぬのはごめんだよ」

  襲撃者の胸からナイフを抜きとり、血を拭い取ってから彼の腰についている鞘を奪い取って戻す。

  楓は自分の武器にするようだ。

  それから楓はにこっと笑った。

「僕の為に怒ってくれるんだな。見直したよ」

 と。

「はっ、別にお前の為じゃないわ」

  こちらもにやっと微笑み、お互いの拳と拳を合わせる。

  ああ、これから楽しくなりそうだ!

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