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異名

 あんなことをしてしまった後なので、僕たちの間には当然気まずい空気が流れている。

 いまだ街を彷徨っているが、桜は僕の三歩後を無言でついて来ている。

 この沈黙に心地よさなどは感じず、ただただ状況を打破する道のみを探していた。

 嗚呼、誰かこの沈黙から僕たちを救ってくれ。

 そんなことを祈っても勿論誰かが救済してくれるわけでもなく。

 スタスタと二人何も言わず歩いていくのであった。

 こいつのことだから腕にくっついて来るぐらいの事はすると思って居たけど、あんなことをいつもいっているくらいだからすぐに順応するかと思って居たけれども、中身は相当の奥手のようだった。

 非常にやりにくい。

 僕から行かないとダメなのか?

 というか僕の周りの人間はなんでみんな二人きりになると誰も話さなくなるんだ?

 アスタしかり榊しかり。

 ティフ辺りは大丈夫だけど。

「なぁ……」

「はひぃっ!」

 ……今回は話しかけることすら駄目なのか。

 誰でもいい、助けて。

 すると目の前を誰かが歩いて来るのが見えた。

 お祭り騒ぎの後の酔っ払いか?

 しかし酔っ払いにしてはしっかりと歩くことが出来ている。

 それも凄く姿勢良くだ。

 何故だろう。

 物凄く嫌な予感がするのだ。

 そういえばアスタと出会ったときもいやーな予感がしていたな。

 その予感は見事に的中していたな。

 なるべく視線を逸らしながら通り過ぎようとする。

 ……よし、何事もなく通りすぎることが出来た。

 そのままそのまま……。

「待ちたまえそこの少年少女!」

 駄目だったか。

 声をかけられた以上無視する訳にもいかないので嫌々ながら、ゆっくりと振り返る。

 するとそこには純白のコートを着た、髪は白くて長い、天使が立っていた。

 ちなみに天使というのは容姿の事では無く、背中に付いている、作り物の下手れてしまって、ところどころ薄汚れている翼を指した物だ。

「な、何でしょうか」

 その異様な姿についつい敬語になってしまう。

 アスタの時も敬語になったなそういえば。

 この女とアスタは何か共通点があるのかも知れないな。

「そこの二人さんはさっき腕相撲で荒稼ぎをしていたね?」

 確かにしていた。

 僕は殆ど加担していないが。

「実際に戦ってたのはそこでもじもじしてる奴だよ」

 右の親指で桜を指す。

「そっちの少女か」

 僕の指差す方向へと目を向ける女。

 そして僕も桜の方向へと振り返る。

 ……いない。

 そして地面から声が聞こえる。

 恐る恐る地面に視線を落とすと、先程から続いている気まずさが絶頂に達したのか、「うぇへへへへ」と最早変態としか言えない様な気持ち悪い声を発しながらうつ伏せに寝ていた。

「彼女は……具合が悪いのかい?」

「そっとしておいてやってくれ……」

 もうどうしようもなくおかしいこいつのことは放っておこう。

「それで何だ?何か用があるのか?」

「あぁ、そうだった。実は私、記者兼情報屋をやっていてね、まあそういう仕事は殆ど回ってこないんだけど……」

「はぁ……」

 果てし無くどうでもいい。

「そしてこれは趣味でやっているんだが、こっちの方はなかなか評判が良くてね」

 話が見えない。

 何が言いたいんだこの女は。

「しかし趣味がいつの間にか義務みたいになってきてね……。おっと、その趣味が何かをまだ話してなかった。いやぁ、そそっかしくてすまないね」

 いやいや、そんなことないですよ〜。

 だからさっさと目的を話せっていってんだよ。

「その趣味というのが異名付けなんだ。この魔法の世界で活躍をした人物や、強者に異名をつけて回っている。能力の識別名とはまた別にね」

「能力の識別名?なんだそれ」

 そんなのがあるのか?

 あのババアのところに行っても能力の説明しかされないぞ?

「おや、知らなかったとは。よし、ついでに説明するとしようか。能力の識別名とは文字通り能力を分類するためのものだ。動物で例えるとこの動物はネコ科でそっちの動物はイヌ科、といった要領でね。大雑把に分けると、電気や火を出したりする能力は放出系統リリーサー、筋力を上げたり体の一部を違うものに変化させたり……君たちがこの系統なのかな?自強化系統バトラーと呼ばれる。空気を扱ったり天候を変えたり周りを変化させるのが状況変化系統セッター、とまあこれぐらいかな?」

 長い。

 疲れる。

「細かく言うと火を出したりする能力の識別名とか電気を出す能力の識別名とかいろいろあるんだけどね。さて、ここで本題に入ろう。君たちの異名の話さ」

「異名って……なんか嫌なんだけど」

 中学生男子が聞いたら喜びそうな単語だ。

 今まで見たことないけど「俺がなんたらという異名を持つなんたらだ!」とか言うのか?

 そんなの実際に言われたら反応に困るな。

「はは、みんなそんな反応をするよ。でも、こういうのは持ってて損は無いからね。異名持ちの中でも有名になれば色々なことを顔パスでいけるようになることもあるからね」

 確かにそれは便利だ。

「それで僕たちにはどんな異名を付けようとしてるんだ?」

「漆黒の血胤ブラック・ブラッド楓、闇よりも深きダークネス・ディーパー桜」

「ふざけんなよてめえ!」

「ん?何かおかしいかい?」

「こんなの名乗れるか‼︎」

 なんだよブラック・ブラッドとダークネス・ディーパーって。

 あいつの頭は中学生で止まってるのか?

「ははは!冗談だ。異名を付ける時全員にやっていてね、これが楽しくて楽しくて」

 嵌められたか……。

「真面目に考えたのがちゃんとあるよ。桜ちゃんはあのお婆さんから特別と言われていたね?だからそれを取って異端イレギュラーと名付けようか」

 先に桜を命名。

 しかし、とうの桜は何も聞こえていない。

「楓君、君は武器を扱う能力だったね、ちなみに識別名は武器職人ウェポナーだ。あ、ついでに言っておくがこの識別名は能力者達が便宜上つけた非公式のものだからな。お婆さんの元へ行っても教えてくれなかった理由がこれさ。まぁほとんど公式みたいなものだがね。おっと話が逸れてしまったな。そして君の異名は最上の武器使い《オペレーター》だ。なに、意味が適当なのは分かってるさ。語感がいいのでそう名付けただけさ」

 粒子加速器の彼みたいなものか。

 そう考えるとしっくりくる。

「さて、最後に君たち二人合わさった時の話だが……合体した時はどちらがベースなんだい?」

「僕だ」

「よし、なら話は早い。一つの体に二つの意識を持つ少年少女、人呼んで『二重』の楓、とでも名付けようか」

 二重の楓、か。

「……うん、しっくりくるよありがとうな。最初ブラック・ブラッドとか言い出したときはどうしようかと思ってたけど」

「ははは、まあそれで登録しておくからこれからは二人合わせて二重の楓、とでも呼ばれていたまえ」

 そこまで言って女は去ろうとする。

 ここで僕はこの女の名前を聞いていないことや、なぜこの女は僕たちのことを詳しく知っているかなど、聞きたいことがたくさんあることに気づいた。

「おい、あんた。名前はなんて言うんだ?」

「おや、私のか?私の名前は……そうだな、高坂たかさかとでも名乗っておこう」

 ……本名を教えろよ。

「あと、なんで僕たちのことをそんなに知っている」

「ああ、そのことか。それに関しては企業秘密、だな。それじゃあな少年……っと危ない危ない。記者としての仕事をするのを忘れていたよ」

 記者としての仕事?

 どういうことだ?

「君はあの大会に参加しないと聞いているが……一応言っておこう」

 何がだ?

 なにか起きているのか?

「あの大会には実は悪人も参加するみたいでね、悪人達が形振り構わず暴れるといことが予想されているんだ。その注意喚起をして回って居るんだ」

「それって……殺人を犯した奴なんかも参加するのか……⁉︎」

「そうなるね。ちなみに神器を使う奴らは誰も参加しないから恐怖に怯える悪人もいなくなる。自分の身は自分守るしか無いんだ」

 おいおいそれって人が沢山死ぬんじゃないのか?

 しかも能力付きで悪人達を元の世界へ解き放つことになるのかもしれないじゃないか。

 元の世界には家族がいるんだ。

 友達はいないけど。

 もし、強力な能力者が元の世界へ帰って、暴れでもしたら……。

 ぞっとしない。

 決めた。

 僕はあの大会に参加する。

 勝たなくていい、最後の最後で誰かに元の世界へ帰る権利を譲ってしまえばいいんだ。

 僕の目標は悪人を止める。

 それだけでいいんだ。

「それじゃあな、高坂。ちょっとやることが出来たから帰る」

 桜を連れて街から家へと帰る。

 というか早く起きろよ……。

「ははは、あれが若さと言うものなのかな?」

 どうみてもまだ20代の高坂の声が後ろから微かに聞こえた。

「頑張れよ、少年」

 激励の声に振り向かず、ただ親指を立ててグッドラックで返事を返す。

 さて、張り切っていくか‼︎


 とか思っていたが大会の開催は数日後なので今張り切っても意味は無いのであった。

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