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僕とあたし

「死ねええええええええええええええ楓えええええええええ‼︎」

 僕に対する若干の悪意を感じるものの、勢いそのものは凄まじく、周りに響き渡る怒号と共に大きなランスで桜に奇襲をかける。

「だからあたしは楓じゃなくて桜〜」

 頬を膨らませつつもなんなく奇襲を躱す。

 まぁあんだけ大声出しゃあなぁ。

「ちょっと痺れてもらうよー」

 エロガキの平坦な声。

 ビリビリとエロガキのその小さな体に電気が走り、能力を解放したことが周囲に伝わる。

「いっくよー」

 桜を取り囲むように青白く光る電気。

 近づくだけで死んでしまいそうなくらい激しい電気の流れだが、桜はものともしていない。

「まぁまだ当たってないしね。流石のあたしでもこれに当たったら死んじゃうかも」

 お前は誰に向かって話しているんだ。

「ふふふ、勿論楓くんだよ」

 ……僕だったのか。

「これで打ち止めだー」

 なんの感情も込められていないそのトドメ宣言に若干の苛立ちも感じながらも実力はやはり本物で、どんどん電気の檻を小さくしていく。

「残念カルくん。君なんかじゃあたしを殺せないよ♪」

 桜は地面を思いっきり強く殴って地面を抉る。

 抉った地面に埋まっている石を掴んでエロガキへと全力投球をかます。

「あだっ」

 その石は見事エロガキの頭へと直撃し、能力が解除され、必然的に桜を覆っていた電気の檻が消失する。

「ふふふ、カルくん戦闘不能〜」

 同じ肉体でも使う人間が違うだけでここまで差が出るとは……。

 認めたくはないが僕より明らかに桜の方が状況判断能力に優れている。

 ……僕よりこいつの方が優れているならこのまま桜にこの体でいてもらったほうが……。

 ………………。



 気がつけば僕は真っ暗な部屋にいた。

 さしずめブラックルームといったところか。

 服装はいつもの制服とは打って変わり、黒いスーツを着ている。

 なるほど、ここは漫画で言う自分の意識の世界とやらか。

「ぴんぽん♪正解だよ」

 僕とは対照的に真っ白のドレスを着た桜がそこには立っていた。

「僕はまだ何も喋ってないぞ」

「ふふふ、あたし達は友達、兄弟、親なんかよりずっと親密な関係なんだよ?心なんか読めて当然だよ」

 薄気味悪い笑みを浮かべて僕に解説する。

 その解説に則って、僕も桜の心を読もうとするが何も見えない。

 唯一見えるのは長い髪、ドレスで強調された大きめな胸、引き締まったボディ、スラリと伸びた脚といった桜本人の外見のみだった。

「えっちなこと考えてるでしょ」

 口には笑みを浮かべながらもジトっとした目つきをした桜が目の前にいる。

 いつの間に近づいたんだ?

「仮にも『僕』の体なんだからあんまり興奮するのはおすすめ出来ないよ?」

「興奮なんかしてねーよ……」

「嘘ばっかり〜。始めてこの世界でお風呂に入る時ドキドキしながら入ってたの知ってるんだからね」

 ぎくっ。

「僕は風呂に入る為に脱ぐんだ。決しておっぱいを見る為じゃないんだからな!」

「考えてたこと一字一句覚えてんじゃねーよおおおおおおお‼︎」

 こんな奴に弱みを握られるとは……。

「ちょっと持ち上げたりもしてたよね〜。あの時はちょっと感……」

「もうやめてええええええええ‼︎」

 あまりの恥ずかしさで床に転げ回る。

 誰か殺して……。

「だから今『僕』を殺す為にみんな頑張ってるでしょ?ほら、ここから見てご覧」

 大きな鏡の様な物が目の前に現れる。

 その鏡の様な物にはアスタや榊、それにエンドール三兄弟が映っている。

 隣を見るとこれまたいつの間にか桜が立っていた。

「これからどうなっていっちゃうのかなぁ〜?」

 ……悪趣味な奴だ。



「当たらん」

 指を絡ませて銃の形を再現し、その指の先から熱線……ビームを出すマタドーラ。

 あのビームの威力は一度見たのでそれがとんでもない威力だということは分かっているが、何故か今はその面影はない。

 指の形を見てみると、前までは手全体から放出するような手の形をしていたのだが、今は範囲を絞る様にしてビームを放っている。

「あの威力だとこの辺一帯を吹き飛ばしかねないからねぇ〜」

 桜が言う。

「ちっ、分かってるじゃないか」

 全力を出し切れないイライラがマタドーラの顔に浮かび上がる。

 事実マタドーラは当てに行くというより動きを制限するかのように……制限?

 先程まで怒りを露わにしていた顔が途端に緩み、桜の後ろを見る。

「頼んだ」

 そう言うとマタドーラは腕をぶらんと力を抜いてしまった。

 そしてその桜の背後には、榊が居た。

「絶鬼流抜刀術一の型……」

 この間見せてもらった神速の剣の技名を言う。

 それじゃあ他の奴らと同じようになんなく躱されてしまうのでないだろうか。

「始」

 その”し”という言葉を聞き終わるか終わらないかの内にはもう榊が背を向けて桜の正面に立っていた。

 この前の技ははじめと呼んで居たのに何故音読みにしたのかは謎だが。

 しかしその”し”という技さえも桜は物ともせずかわしてしまったようだ。

 ……とそんなことを考えていると榊が何かを呟く。

「……喰」

 くらい?

 今度は”くらい”という言葉の意味を考えていると刀を鞘に収めた桜が元の位置に立っていた。

「二連撃。それが絶鬼流の真髄です」

 なるほど。

 基本一撃目で片が付いてしまうので”はじめ”としか言わないが相手が強者だと分かると惜しみなく二撃目を出すのか。

 一撃目の始が縦に傷が入ったのに対して二撃目の喰は額に横向きの傷が入っていた。

 しかしそれはとても薄く。

「残念です……。私の剣は貴方に届きませんでしたか」

 諦めちゃ駄目だろ。

 一の型なんだから次は二の型いっとけよ。

「榊ちゃんざんねーん、でもこの中じゃ一番強いよ」

 ただ、あたしを覗いて。

 隣にいる精神世界の桜がぼそっと呟く。

 一番強い榊が敵わないとなると次は……。

「……僕か」

 いつの間にか手に持っていた愛用(盗品)のナイフを桜に向ける。

 服装もいつもの制服に戻っている。

「目的は分からないけど僕がお前を止める」

 僕と同様の服にこれまたいつの間にか桜も着替えている。

「目的もわからない上に力も負けてるのに攻撃しちゃうんだ〜『僕』ったら無謀だねぇ」

うるさい。

無謀でもやるんだ。

『あたし』に勝てるとしたら僕だけなんだからな。




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