もう一つの能力
「ほ、本当にやるんてすか?」
榊が再三確認する。
「あぁ、やるよ」
そして僕も返事をする。
作戦の概要はこうだ。
街は人通りが多いので人気がないところに行っても僕が死んで復活するまでの五分間人が通らないなんてことは無い。
なので真に人が居ない所を探していた所絶対に誰も居ない空へと目をつけた。
能力発動状態の僕ならば五分間滞空している程跳ねることも容易だろう。
しかし落ちて来るときはもう既に能力は解除されているので普通に死ぬ。
死んだら能力発動でまた対策を練り直すことになる。
そこで榊の出番だ。
榊を上空への旅へご招待したときあいつは地面に叩きつけられたにも関わらずまだ生きていた。
その時使った服が流衝の衣だそうだ。
流衝の衣は地面に接地さえしていれば体に受けたダメージをある程度受け流すことができる効果を持っているらしい。
ただ、斬撃にはめっぽう弱いという。
その効果を使い、落ちてきた僕を受け止めてもらうという算段だ。
上手くいくかどうかはわからないがやって見る価値はあると思う。
「それじゃあ……いっくぞおおおおおお‼︎」
地面にヒビが入る程力を込め、そして空中へとジャンプする。
空気抵抗でGがものすごいことになっているが時間がない。
いつも持ち歩いているナイフで心臓を刺しいつものように意識がなくなっていく。
そんな時だった。
……目の前に誰かがいた。
彼女は僕に嫌な笑いを浮かべ話しかけているが何も聞こえない。
なんだ……これは……。
「……ここは……どこだ?」
真っ暗な空間。
「ふふ……」
誰かが笑った。
暗くてよく見えないが女のようだ。
「はじめまして、楓くん」
くん?
自分の身体を確認するとどうやら男に戻っているようだ。
「お前は……誰だ?」
「私?私は……ないしょよ」
はぐらかされた。
「真剣に答えろ!」
女が少し黙り、やがて声が聞こえる。
「もう少ししたら楓くんもわかるよ。ね、それまで……まっ……ね……」
声が掠れて聞こえない。
答えろよ。
お前は結局。
「誰なんだ……」
目が覚めると僕は榊の膝の上にいた。
どうやら能力解除は成功したようだった。
「楓さん?なにやら魘されていたようですが……」
「……どれぐらい時間が経った?」
場所は先程と変わっていないのでわかる。
それよりも、僕は随分と長い時間眠っていた気がする。
「えっと……楓さんがジャンプしてから三十分くらいかと……」
三十分⁉︎いつもなら五分くらいなのに……。
「それは……長いこと悪かったな」
「いえいえ、何かあった時に助け合うのが仲間ですから」
「アスタも?」
「……何かあった時は二人で助け合っていきましょうね」
アスタ、お前はついに榊の頭の中から放り出されてしまったぞ。
「まあいいや、さっさとババァの所に行ってリフォームの匠的な奴に依頼しに行こうぜ」
「はい、そうですね」
ババァの居る所だ。
以前と同じ怪しげな雰囲気が漂っている。
きぃと音を立てながら扉が開く。
相変わらずゆっくり開くのでまた無理やりこじ開けた。
「ようこそ」
今度は驚かなかったようだ。
「あなたがそろそろ来る頃だと思っていましたよ」
「俺が誰だか分かるのか」
ババァの能力か?
「私は能力を見る能力の持ち主です。性質は魔、つまり魔法です」
なるほど。
「なので能力発動時のあなたを見ると能力発動前のあなたもわかるのです」
「そうなのか。それより僕の能力を見てくれ。何かあるみたいなんだ」
「はい、そういうと思って既に拝見させて頂いてますよ。早速診断に移ります。性質は無、つまり普通の行動の超強化版ですね。そしてあなたの具体的な能力は武器を上手く扱うことのできる能力です」
「なるほど、合点がいったよ」
「武器の扱いならどんな武器でも上手くなるのですか?」
榊が続きを催促する。
「そのようですね。ただその上手くなるは一定の水準でストップされてしまいら能力が強化されることがあったとしてもこれ以上武器の扱いが上手くということはありません。もし能力以上に武器の扱いが上手くなりたいなら能力を捨てることも視野に入れておくべきだと思います」
能力を捨てる?そんなことができるのか?
「まあいい助かった。それじゃあな」
「はい。彼女にもよろしくお願いします」
「彼女?」
榊のことか?
それならば本人に直接言えばいいのに。
「……いえ、なんでもありません。雫さんも頑張ってくださいね」
「あっ雫って久々に呼ばれました……」
なかなかどうでもいいことで感涙の涙を流す榊。
雫と毎日呼んでやったらその度に涙を流すんじゃないだろうか。
「行くか」
「そうですね」
短い言葉を交わしてババァの小屋を出る。
「……気をつけてね」
中から何か聞こえた気がするけど気にしないことにした。
先を急ごう。
アスタが一人寂しく待っているだろうから。




