11話
世界の始まりは混沌でした。
そこには空も地も海もありませんでした。
神はまず空を切り分けました。そして空を守護する物として翼持つ者を産み出しました。
次に神は海と地を分けました。そして海を守護する物として鱗持つ者を、地を守護する物として智持つ者を産み出しました。
翼持つ者は自らの翼を分け与え眷族として有翼族を産み出しました。
鱗持つ者は自らの鱗を分け与え眷族として有鱗族を産み出しました。
智持つ者は眷族を産み出しませんでした。
彼等は自らの智により数を増やし、付き従う者として獣を産み出しました。
智持つ者達はやがて誰が地を支配するに相応しいかを決めるために、智から産み出した様々な武器を使い始めました。
彼等の智は大地を納める為ではなく、大地を治める為に使われました。
やがてその力は地だけに収まらず、空や海をも侵し始めました。
神は嘆き、智を奪い去りました。智持つ者はその智の殆どを奪われ、代わりに知を得ました。
自らの手で知を発展させ、地を納めることが出来るようにと。
*
「一応これがミグハイト王国で広まってる主な教義だな。」
「へー。」
うん、わかんない。取り敢えず人間は愚かでした。ってことかな?
「勇者と魔王の伝承は殆ど無いんだよな。英雄譚やお伽噺の類いなら事欠かないが、教義としての勇者と魔王に関しては、
『魔王は未来から来たりて過去へ還る。勇者は魔王を唯一殺せし者。魔王を倒した後、勇者は語ること能わず。』
だったっけ? これくらいしか無いんだよなー。」
「むむむ……。」
一応神様が言っていた魔王を殺せるのは勇者だけっていうのは本当なのか。でも、語ること能わずって? 魔王を倒したなら華々しく凱旋とかしてそうなんだけど。
「なんで勇者は魔王を倒したことを語ることが出来ないんだろう……?」
「さぁな。なんか事情があるんじゃね?」
「……レオン?」
「なんだ?」
……気のせいかな?
その後もとりとめもない話を続け、日が暮れる頃にはミグハイト王国王都ヴォーミットに着いた。
*
入国審査ってやっぱりあるのかー。
バカでかい白塗りの城壁に囲まれた街の前に出来た行列に並ぶ。
「人がいっぱいだね……。」
「まぁ、王都だからな。この時間帯は入国出来るギリギリだし。」
入り口の方を見ると白色の鎧を着た騎士っぽい男が数人と、同じ数の男女が何事か話している。
「ま、日が落ちる前には入れるさ。」
そして順番が回ってきた。
「レオン・アルディーハ。ソーマ・フジシロ。アウル・アドニス。シェナ・アドニス。まず入国の理由は……ってレオンだと?」
「えっと、まぁ、これでこういうことで。」
回りからはみえないように勇者の証を騎士に見せる。
「ではお連れの方達は……。」
「仲間だ。」
「……かしこまりました。どうぞお通りください。王には伝えておきます故、早目にお目通りください。」
「わかった。ありがとう。」
えっと、顔パスならぬ勇者パス……? ということで何の問題もなく僕達は王都に入ることが出来た。
*
王都は活気に溢れていた。町並みはやはり中世のヨーロッパに近いものを感じる。とはいえ、屋台が並ぶ街の灯りは火ではなく発光する石(魔光石というらしい。そのまんまだ。)を使っているためかなり明るい。
「さて、取り敢えず宿をとりに行こうか。」
「そうだね、街を見て回るのはそれからでもいいと思うよ。」
「観光しに来た訳じゃねーんだけど……ま、いっか。」
苦笑したレオンに頭をひと撫でされる。
「何処に泊まるんだ?」
「知り合いが宿屋をやってるから、そこに泊まろうと思ってる。」
「…………レオンって顔が広いよね。」
これが勇者補正なのか。
「幼馴染みがこっちで結婚して宿屋の女将やってるだけさ。会うのは一年ぶりだから忘れられてないか心配だな。」
「飯は上手いのか?」
アウルが興味津々に訪ねてる。ってそこなのかー。癒される。
「あいつに関して言うなら『期待するな』だな。旦那さんが調理専門だ。」
何というテンプレ女友人。てか、ヒロイン候補に見えるんだけど。僕の知ってるお約束は無いみたいだ。まぁ、姫様が居るからその辺りになるだろうな、うん。
「『勇者はお姫様と結婚し、仲良く幸せに暮らしました。めでたしめでたし。』」
「ん? どうした、ソーマ?」
「いや、僕の世界の勇者伝説の終わりって、基本こんな感じなんだけど、こっちは違うのかな?」
「子供が読む御伽噺ならそんな感じで締め括られるな。」
「?」
他の終わり方もあるの?
「俺その終わり方しか聞いたことねーよ?」
「私もです。」
アウルとシェナがそういうって事は子供には馴染みの無い話ってことなのかな? この子達が今何歳なのか知らないけど。
「吟遊詩人とかが語る結末はこんな感じだな。えーと……
『斯くして魔王は消え、世界は元の姿を取り戻す。勇者は使命を果たした後、誰にも言わずその姿を隠した。魔王無くして勇者は有らず、勇者無くして魔王は有らず。ならば魔王無き勇者は新たな魔王を生み出さん、と残し。』
……だったかな。」
「……全くわかんねー。」
「『魔王を倒した後、勇者は語ること能わず。』かな? でもどうして魔王が居ないと勇者は存在出来ないんだろうね?」
「……さぁな。その内わかるんじゃないか?」
そう言ってレオンは僕の頭を撫でる。その感触に心がざわつく。
「……レオン、どうかしたの?」
何かが違う。そう感じる。
「なにがだ?」
飄々とした笑みを返しながら聞き返すレオンに違和感を感じる。
でも、それが何を表していたのかこの時の僕にはわからず、ただどこか暗く輝く彼の目をジッと見つめ続けるしか出来なかった。




