おままごと①
その日の配信は、いつもとは違う場所から始まった。
画面には樹と朝倉、そして仲の良い配信者夫婦とその娘さん。家の中の明るいリビングで、和やかに座っている。
「こんばんはー、今日は特別回!お邪魔してまーす」
樹の挨拶に、隣の配信者さんが笑顔で手を振る。
「ようこそ我が家へ。今日は、我が家の“最強の支配者”に手加減してもらえればと…」
その横で、小さな女の子――配信者さんの娘さんが、ドヤ顔で朝倉の隣にぴったりくっついている。
「俺、このお嬢さんに完全に取り込まれました」
朝倉が微笑みながら言うと、コメント欄がざわつく。
「お嬢さんって呼び方w」「朝倉、子ども慣れしてない?」「絵面が癒し…」
「で、何するのかって話なんですけど、なんと娘さんのご希望で“おままごと”をします」
「……ただし、設定が“昼ドラ”」
樹の言葉に、一同笑いを堪えきれず吹き出す。
娘さんが誇らしげに「裏切りと復讐がテーマなの!」と宣言し、全員が一瞬目を見合わせる。
「じゃあ、配役決めようか」
娘さん:家のお嬢様であり、財閥の跡取り。
奥さん:執事に横恋慕する、冷たい母。
配信者さん:その夫で、実は愛人と駆け落ちを考えている。
樹:財閥のライバルの息子で、政略結婚を狙う。
朝倉:影でお嬢様を見守る、正体不明の青年。愛を捧げている。
「……濃いな」
「濃すぎだろ設定がwww」「朝倉だけ設定だけで既にヤンデレ」「昼ドラ感すごい」
---
芝居が始まると、意外にも全員ノリがよく、展開が早い。
お嬢様(娘さん)が「お母様なんて嫌い!」と叫べば、奥さんが「わたくしがあなたの本当の母だと思って?」と目を伏せる。
樹が「政略結婚の話、悪くないと思わないか」と低く囁き、配信者さんが「もう我慢できない、駆け落ちしよう!」と泣きながら叫ぶ。
コメント欄はすでにカオス。
「これマジで地獄ww」「演技レベル高い」「娘さんすげぇ引っ張ってる」
そして、静かに後方で立っていた朝倉にカメラが向いた瞬間――。
「……俺は……あの日、花壇で泣いていた君に、手を差し伸べた男だ」
朝倉の声が一気に重く低くなり、空気が変わる。
「誰にも気づかれず、誰にも必要とされず、ただ君だけが、俺を見つけた。俺の命は……君のためだけにある」
「こっわwwwwwww」「うますぎw」「おい一人だけ2.5次元舞台入ってる」「劇団朝倉か?」
娘さんが完全に乗っかって、「……だったら、殺して……私を、連れ去って」と瞳を潤ませる。
朝倉は真顔で一歩前に出て、スッと膝をつき、「御意」と頭を垂れる。
その動きが流れるように美しく、妙にリアルすぎる。
樹がこらえきれず笑い出す。「お前、マジで何者?」
「おままごとで殺意は草」「めっちゃ真剣じゃん朝倉w」「小学生に合わせろやww」
「……いや、演じるって言うから」
朝倉がさらっと言うと、配信者さんが「いや、あの、朝倉くん……うちの娘さん引っ張られすぎて“次は毒を盛る”とか言い出してるんだけど……」
「毒盛りwww」「昼ドラ超えてサスペンスになってきた」「止めろ朝倉、その先は地獄だ」
---
最終的には、「裏切り者は誰か!?」という大混乱の中でおままごとは幕を下ろす。
娘さんが「またやりたい!」と笑顔で言うと、全員が拍手。
「俺は一生分のドロドロを浴びた気がする…」
「朝倉、明日から舞台出れるよ、たぶん」
「いや、ただの遊びに本気出しただけだ」
「出すなよ、そこまで本気をww」
コメント欄は「カオスすぎる」「満足度高すぎ」「昼ドラおままごとシリーズ化希望」で埋め尽くされたまま、配信は大盛況で終わった。




