ハワイで親父に
夜のまったり雑談配信。
樹がゲームをプレイしつつ、隣で朝倉がカフェオレを飲みながらコメント欄と会話していた。
話題は「朝倉くんって、何でもできそうだけど、逆にできないことってあるの?」というリスナーのひと言から始まった。
「うーん、できないこと、ね……」
朝倉は小さく首を傾げ、カップを置く。
その仕草がやけに優雅すぎて、すでにコメント欄が軽くざわつく。
『絶対なんでもできるやつ』
『まず今の飲み方が一般人じゃない』
『カフェオレに貴族感出すな』
「でも、ほら!運転とかはできないだろ?未成年だし」
コメントのひとつを拾った樹が、当然のように言う。
「確かに、まだ免許は取れないしなあ」
と笑って頷くが、その隣で――
朝倉は、ふっと視線を逸らした。
「……」
その静かな間に、配信の空気がちょっとだけ変わる。
「ん?……朝倉?」
「ん、ああ……うん、免許は……まだ、ないぞ?」
「いや、その“?”が気になるんだけど」
『おや?』
『今、何かを隠した顔だったぞ』
『嘘ついてるときのコナンくんみたいな顔』
『あやしいぞおおお』
「……まぁ、私有地なら問題ないから。基本的に、たいていの乗り物は運転できるけど」
「……は?」
樹の声がワンテンポ遅れて跳ねる。
「え、なに?今、“たいていの乗り物”って言った?」
「うん」
「いやいやいや、軽く言ってるけど、なにが“たいてい”に含まれてるの!?」
コメント欄も一気にヒートアップ。
『ジェットスキーとか?』
『バギー?』
『逆に何乗ってんだよ』
『てかどこで練習したの!?』
「……樹、私有地って案外広いんだぞ?」
「知ってるけど!え、お前、どんなとこに住んでんの?!」
「秘密」
『おまえんち、どこだよ』
『名探偵かよ』
『もしかして銃も撃てるとか言い出すんじゃ……』
「え、じゃあさ。もしかして……銃とかも……?」
樹が半分冗談で聞いたつもりだった。
しかし、朝倉は――
ニコッとやたらと品のある微笑みを浮かべただけで、何も答えなかった。
「え、ちょ、返事は!?なあ、朝倉!?返事して!?えっ!?嘘だろ!?!?」
『あーーーーーーー』
『笑っただけで何も言わなかったwwww』
『やってる顔だこれ』
『樹さん、逃げて。』
「いやいやいや、ちょっと待って!配信中だよ!?なんかヤバいワード出たらピーって入れる人いないんだよ!?」
「……大丈夫だ。撃ったことがあるとは言ってない」
「その言い方が一番怖いんだよ!!」
コメント欄は騒然としながらも大盛り上がり。
『ほんとに高校生?』
『この子どこに向かってるの?』
『CV石田彰か?』
『今日一番のホラー配信』
などなど、大喜利状態に。
「まあ、朝倉が乗り物乗れるのはわかったけど……銃だけは勘弁な?マジで」
「うん。樹くんに向けることはないから、安心して」
「それ以外に使うこと前提なのやめてもらっていいかな……?」
そんなこんなで、視聴者も樹も、朝倉の“深すぎる引き出し”にまたひとつ震える夜となったのだった。




