二人の朝
カーテンの隙間から差し込む朝陽が、まだ仄暗い部屋をゆっくりと照らし出す。静かな空気の中、シーツの上には小さく呼吸する透の姿。首元にはうっすらと赤い痕が残り、腕や脇腹にはいくつもの指の跡や、爪を立てられたような傷が散っている。
その傍らで、樹は少し腫れた瞼を擦りながら、氷嚢を持ち替えて透の額にあてがう。体温は正常。ただ、呼吸が浅く、うっすらと汗をかいているのが気になって、樹は一晩中眠れなかった。
「……お前、ほんとにバカだな」
ぽつりと、呟く。けれどその声には怒気はなく、ただただ優しく、滲むような愛しさだけが込められている。
透は薄く目を開ける。焦点が合うまで少しかかり、やがて樹の姿を認識すると、かすかに口元を緩めた。
「……おはよう、樹」
「おはようじゃねぇよ。俺、何回も止めたよな。痛くても平気だとか、愛だとか、そんな言葉で全部許された気になってるの、ほんとズルい」
それでも、声は優しかった。手は冷えた氷嚢をどけて、代わりに透の頬を撫でる。赤く、熱を持った肌。まるで火照りがまだ残っているかのようだった。
「でも……お前が俺に全部を許してくれるから……俺も、限界を越えそうだった」
透は、微かに笑った。喉の奥で、乾いた呼吸と一緒に漏れた笑いだった。
「限界、越えていいって言ったじゃないか」
「……はぁ、ほんとヤバい。お前、マジで重い。けど、もう離れられねぇよ。俺もさ」
樹はゆっくりと透の額に口づける。優しく、まるで謝るように、愛しさを込めて。
「今日はもう動かなくていい。ずっとそばにいるから。なにか欲しいもんがあったら言え。水でも、食べ物でも、……愛情でも」
透は微笑んだまま、うなずいた。
朝の光が、静かにふたりを包んでいた。




