沈霊唄賛 3
ジリリリリ
時計の針が17:00を過ぎ職務をマトモにやらずにそれぞれが帰ろうとした時、劉玄の机にある黒電話がなった。
『……』
劉玄がいない今、誰かが出なければならない。だが誰もが黒電話の方には行かない。それどころか距離をとろうとし始めた。
「…誰か出ろよ」
「俺はイヤですよ」
「私も〜」
「同じく、てかそう思うなら出てよ」
「俺は『誰か』に出てほしいんだよ」
『……』
みんな黙りそれぞれを見渡す。
「よし。ジャンケンで決めよう」
「賛成〜」
「確かにそれなら平等ですよね」
「アタシは殴りあいの方がいいなぁ」
「そんなん不公平だろうが」
「いきますよ〜。最初はグー、ジャンケ―」
ガチャ
「テメェら帰らねぇのかよ」
日比野の提案によりジャンケンをしようとしたが、突然入ってきた少年によってその場にいた全員から『ジャンケンによって決める』という考えは消え去った。「丁度よかった!」
「あ?」
「お前さっさと出てくれよ」
「俺は部外者だ」
「立派な関係者だろうが」「出てくれませんか」
「ざけんな」
「お願い〜」
「断る」
「出ろ」
「はいはい」
樟葉の言葉にだけ渋々従った少年は他の人を無視して黒電話に向かう。
ガチャ
「なんのよ―」
『さっさと出やがれこのクソジジィ!』
出た瞬間スピーカーでもないのに電話の相手の怒声が部屋中に響いた。
「……」
少年が顔をしかめながら振り向き『外に出てろ』とジェスチャーで伝える。『了解』と樟葉が返し全員部屋から出した。
『聞いてんのかオイ!』
その間にも怒声は続く。少年は全員が部屋から出たのを確認すると息を大きく吸った。
「――――――――――――」
そして電話の向こうの相手に対して人では理解出来ない言葉を部屋を揺るがすほどの音量で発した。
『っ!?』
電話の向こうで悶絶しているのが手にとるように分かっているのか数秒後にいつもの音量に戻し問いかける。
「落ち着いたか?」
『…なんだテメェか』
「俺じゃダメかよ」
『当たり前だ。俺はジジィに用があんだよ』
「悪いがアイツは居ねぇよ」
『…チッ』
「伝言あるなら伝えてやるが?」
『いやいい』
「そうか。じゃあな」
そのまま受話器を置くと部屋を出るためにドアに向かって歩きだす。
次の日
「まさかお前が連続でくるなんて…槍でも降るんじゃないか?」
「後で道場来いや」
樟葉は本当ならサボるつもりだったが劉玄に『必ず明日07:00には来い』と言われ渋々来ていた。
「てかなんで俺まで呼ばれてんだよ」
さらに日課の散歩に出かけようとした少年も『ついでにお前も来い』と言われ仕方なくついてきていた。
「んなことリュウ爺に聞いてよ。てかミクさんは?」
「また仮眠室で爆睡中だ」それから時計の長針が半分ほど進んでから劉玄は捜査第零課に人が二人は入るであろう麻袋を担いで出勤してきた。
「呼び出した本人が遅れてくんじゃねぇよ」
「すまんすまん。少しばかり戸惑ってしまってな」
そう言いながら袋を放る。「―!?」
「キャッ!?」
その袋の中から二つ軽い悲鳴が上がる。
「快く引き受けてくれた協力者だ」
そう言いながら指差す劉玄を樟葉はジト目で見る。
「だったらなんで拉致紛いなことしてんのよ」
「少しばかり強行手段をとらせてもらっただけじゃが」
「矛盾してますよ」
劉玄は日比野の言葉を右から左に流しながら袋の口を開ける。
「何のつもりだクソジジィ!」
開けられた瞬間、中から現れた若い男の拳が劉玄を捉え、2m近い巨体を吹っ飛ばした。そのままデスクにぶつかり書類やらファイルやらが散らばる。その中には逃げ遅れた増田も巻き込まれていた。
「ご愁傷様」
「てかパソコンしっかり抱えてやがる」
「これは…俺の命…ですか…ら…」
そうこうしているうちに男は書類の山に埋まりかけてる劉玄を踏むと襟元を乱暴に掴み顔を寄せる。
「何が『快く引き受けてくれた』だ!『抵抗したから無理矢理拉致』の間違いだろうが!挙句の果てに俺だけならまだしも雪奈まで巻き込むんじゃねぇ!」
「き、亨さん、落ち着いて下さいっ」
亨と呼ばれた男と同じ袋から出てきた雪奈と呼ばれた給仕服を着た白髪の少女が必死に宥めようとする。
「しかしだな雪奈」
姿勢そのままで顔だけ振り向き不満そうに言う亨だがその顔には先程までの殺気はない。
「せめて用件ぐらい聞いてあげましょうよ…」
「…雪奈に感謝しろよ」
そういうと劉玄を解放し散乱した書類やらを片付け始めた。雪奈も手伝おうとしてしゃがんだが後ろから樟葉が覆い被さり倒されてしまった。
「雪ちゃんおひさー」
「お久しぶりです樟葉さん。あの…とりあえず退いてもらえないでしょうか?」
「イヤ」
雪奈の頼みに即答するとそのまま頬擦りを始める。
「キャッ!?」
「あぁ〜か・わ・い・い〜」
「亨さ〜ん…」
泣きそうな目でみるが亨は「仲良いなぁ」と一言言うだけで片付けに集中してしまった。