↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベストフレンズ  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
87/95

第87話 展示の夜

 五月の終わり、悠真の大学で行われる企画展の日がやってきた。


「隣にいる、ということ」続編──正式にはそうタイトルがついた展示は、大学のギャラリースペースの一角を使って行われることになっていた。搬入から準備まで、悠真はほとんど寝る間もなく走り回っていた。


 紗奈は展示初日、ゼミの課題を早めに片付け、電車を乗り継いでギャラリーに向かった。


「来られたんだ」


 会場の入口で悠真が驚いた顔をした。


「言ってなかったっけ。今日、絶対来るって決めてた」


 紗奈はそう言って、少し得意げに笑った。



 会場に足を踏み入れると、白い壁に写真が並んでいた。前作と同じ河川敷の風景から始まり、季節が移り変わっていく様子、そして──紗奈が知らない、この半年の間に悠真が撮り続けていた写真たち。


 紗奈は一枚ずつ、ゆっくりと歩きながら見ていった。


 夜のアトリエ。誰もいない教室。雨の日の窓。そして最後の壁には、最近の写真が並んでいた。空の写真、電話中に撮ったらしい部屋の隅、そして──


「これ……」


 紗奈は最後の一枚の前で足を止めた。


 それは、紗奈が「寂しい」と伝えたあの夜、悠真が見せてくれたのと同じ、散らばったプリントの写真だった。キャプションには、短くこう書かれていた。


「離れていても、伝えられること」


 紗奈は胸の奥が熱くなるのを感じた。


「これ、私とのやり取りのこと?」


「うん」


 悠真は少し照れくさそうに頷いた。


「紗奈が『寂しい』って言ってくれたこと。あれ、俺にとってすごく大事な瞬間だったから。……勝手に作品にして、良かったかどうか分かんないけど」


「良かった」


 紗奈は迷わず答えた。


「私の弱さが、誰かの何かになるなら。それは、良かった」



 展示を見終えたあと、二人はギャラリーの外のベンチに座った。夕暮れの光が、キャンパスの木々を橙色に染めていた。


「講評、どうだった?」


 紗奈が尋ねると、悠真は苦笑いした。


「相変わらず、説明が下手って言われた。でも今回は、“写真だけで伝わる部分がある”って言われた」


「悠真らしいと思う」


「だろ」


 しばらく二人は黙って、キャンパスを行き交う学生たちを眺めていた。


「玲奈も来るって言ってたな」


「そういえば」


 その時、遠くから玲奈が小走りにやってくるのが見えた。


「間に合った! ごめん、電車遅れて」


「ちょうど今、見終わったところ」


 紗奈が言うと、玲奈は少し残念そうな顔をした。


「え、待って。私も一緒に見たかった」


「もう一周する?」


悠真が笑いながら言うと、玲奈は目を輝かせた。


「する!」


 三人は再びギャラリーに戻り、玲奈の感想を聞きながら、写真をもう一度眺めた。玲奈は最後の一枚の前で、しばらく立ち止まっていた。


「これ、いいね。……なんか、二人らしい」


紗奈と悠真は、顔を見合わせて笑った。



 その夜、紗奈は電車の中でノートを取り出した。


 悠真の展示に、私たちのことが写っていた。


 恥ずかしいとか、そういう気持ちより先に、嬉しいが来た。


 弱さを見せることが、誰かにとって意味のあるものになる。


 それを、今日初めて実感できた気がする。


 窓の外を流れる夜景を見ながら、紗奈は小さく息をついた。会えない時間があっても、こうして積み重なっていくものがある。それを、確かに感じられた一日だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。