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ベストフレンズ  作者: 菊池まりな


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第53話 合格発表

 二次試験を終えた夜、紗奈から届いたメッセージは短かった。


《終わった》


《やれることはやった気がする》


 悠真はその一文に、去年の自分と同じ響きを感じた。実技試験の後、自分が送った言葉とほとんど同じだった。


《お疲れ様。今日はゆっくり休んで》


《うん。……ありがとう、ここまで》


「ここまで」という言葉に、悠真は一年間のいろいろな夜を思い出した。深夜の電話、「消えたい」という言葉、クリニックの待合室、花火大会で最後まで残れた夜。全部が、この一言に詰まっている気がした。



 合格発表は二週間後だった。


 その二週間、紗奈は不思議と落ち着いていた。以前のように、結果が出るまで何も手につかない、ということはなかった。友人と映画を観に行き、母親と買い物に出かけ、悠真とも他愛のない話をして過ごした。


「発表当日、一人で見る?それとも一緒がいい?」


 悠真が尋ねると、紗奈は少し考えてから答えた。


「一人で見る。でも、結果出たらすぐ連絡する」


「分かった」


 以前なら、悠真は「一緒にいた方がいいんじゃないか」と提案していたかもしれない。でも今は、紗奈が選んだやり方を、そのまま受け止めることができた。




 発表当日の午前十時、悠真は自室でスマホを握りしめていた。実技試験の結果も同じ日に出ることになっていたが、それどころではなかった。


 十時五分、紗奈からメッセージが届いた。


《受かってた》


 短い一文だった。悠真はしばらくその文字を見つめてから、返信を打った。


《おめでとう》


《すごいよ、紗奈》


 既読がついて、しばらく間が空いた。それから、紗奈からもう一通届いた。


《ありがとう。……実感、まだない》


《実感なくていいよ。ゆっくり湧いてくるものだと思う》


 悠真がそう返したところで、自分のスマホの別の通知に気づいた。芸術大学の合格発表ページからの通知だった。


 深呼吸をして、画面を開く。


 自分の受験番号が、そこにあった。




 悠真はしばらく声も出せずに画面を見つめていた。それから、紗奈に短いメッセージを送った。


《俺も受かった》


 返信は数秒で届いた。


《え》


《本当に!?》


《おめでとう!!!》


 普段は感情をあまり表に出さない紗奈にしては珍しく、絵文字と記号が並んでいた。悠真は自然と笑っていた。


 その日の夕方、二人は近所の公園で待ち合わせた。特別なことをするわけではなかったが、直接顔を見て話したい気持ちが、どちらからともなく湧いていた。


「おめでとう」


「紗奈もおめでとう」


 二人はしばらく黙って、冬の終わりの夕焼けを眺めていた。一年前には、こんな穏やかな時間が来るとは、どちらも想像していなかった。


「──ちゃんと、ここまで来れたね」


 紗奈がぽつりと言った言葉に、悠真は静かに頷いた。


 三月の風が、まだ少し冷たく二人の間を吹き抜けていった。


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