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ベストフレンズ  作者: 菊池まりな


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第50話 実技試験

 一月末、悠真の実技試験の日がやってきた。会場は都内の芸術大学。悠真にとって、人生で一番緊張する朝だった。


 電車の中で、スマホに紗奈からのメッセージが届いた。


「今日だね。行ってらっしゃい」


「ありがとう。行ってくる」


「悠真がこの一年撮ってきたもの、ちゃんと出せば大丈夫。信じてる」


 その言葉を読んで、悠真は少しだけ肩の力が抜けた。共通テスト前夜、自分が紗奈に伝えた言葉が、そのまま返ってきたような気がした。




 試験は静物デッサンと、事前に準備した作品ポートフォリオの提出、それに加えて簡単な面接があった。ポートフォリオには、文化祭で展示した『隣にいる、ということ』のシリーズから、厳選した写真を収めていた。


 面接官の一人が、河川敷の写真を見て尋ねた。


「この写真について、説明してもらえますか」


 悠真は一瞬、言葉に詰まりそうになったが、深呼吸をして答えた。


「大切な人が、一番苦しかった時期に撮った写真です。何も言えなかった自分が、ただカメラを持って隣にいることしかできなかった。でも今は、それも一つの寄り添い方だったと思っています」


「その経験が、あなたの写真の方向性に影響していますか」


「はい。眩しい瞬間より、誰かがやっと息を吐けた瞬間を撮りたいと思うようになりました」


 面接官は静かに頷き、それ以上の質問はしなかった。悠真は自分の言葉が、ちゃんと届いたかどうか分からなかったが、少なくとも嘘のない言葉で話せたという実感はあった。




 試験を終えて会場を出ると、冬の夕方の空気が肺に染みた。スマホを見ると、紗奈からメッセージが届いていた。


「終わった? どうだった?」


 悠真は電車を待ちながら返信した。


「終わった。手応えはあるようなないような。でも、後悔はない」


「それでいいと思う。お疲れ様」


「紗奈の自己採点、結果どうだった?」


 少し間があって、返信が来た。


「まあまあだった。T大、ボーダーぎりぎりだけど、可能性はあるって塾の先生に言われた」


「ぎりぎりでも、可能性あるならいいじゃん」


「うん。二次試験に向けて、また頑張る」




 その夜、悠真は家族と簡単な夕食を囲んだ後、自室で今日の面接でのやり取りを思い返していた。自分の言葉で、自分の一年間を語れたことに、静かな達成感があった。


 スマホがまた鳴った。今度は玲奈からだった。


「試験どうだった? 恒一から聞いたよ」


「終わった。結果は分からないけど、やれることはやった」


「悠真なら大丈夫だよ。あの展示見た人、みんな悠真の写真に何か感じてたもん」


「ありがとう。玲奈も、進路決まってきてるんだろ?」


「うん。写真の専門学校、いくつか受けてみることにした。悠真に感化された組だから」


 悠真はその言葉に笑った。一年前には想像もできなかった関係性が、今こうして自然に存在していることが、不思議で、そして嬉しかった。


 窓の外には、二月を目前にした冷たい夜空が広がっていた。それぞれの結果を待つ時間が、静かに流れ始めていた。


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