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ベストフレンズ  作者: 菊池まりな


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第38話 花火

 八月一日。花火大会の日。


朝から紗奈は珍しく早起きしていた。悠真が迎えに行くと、紗奈は浴衣ではなく、動きやすい服を選んでいた。


「浴衣はやめた。もし途中で帰りたくなった時、動きやすい方がいいかなって」


「いいと思う」


無理に特別な日を演出しようとせず、その日の自分に合わせた選択をする紗奈の姿に、悠真は小さな成長を感じた。




 会場には恒一と玲奈も合流した。四人で屋台を回り、たこ焼きやかき氷を分けながら、場所を確保した河川敷のシートに座る。


「去年は来れなかったもんな」と恒一がさらりと言う。


「うん。今年は来れた」


紗奈はそう答えて、特に気負った様子もなく笑った。去年のことを隠さずに話せる空気が、いつの間にか自然になっていた。




 花火が始まる直前、紗奈がふと悠真の方を見た。


「悠真、今、緊張してる?」


「ちょっとしてる。お前は?」


「私も。でも、悪い緊張じゃない気がする」


「分かる」


短いやりとりだったが、二人の間には言葉にしなくても伝わるものがあった。




 花火が上がり始める。大きな音と光が河川敷を包む。紗奈は時々目を閉じて、音だけを聞いている瞬間があった。


「大丈夫?」と悠真が小声で聞く。


「うん、平気。たまに音が大きすぎてびっくりするだけ」


無理に「大丈夫」と言わせるのではなく、本当の感覚をそのまま聞けるようになっていた悠真にとって、紗奈の返事はいつもより軽く感じられた。


玲奈は少し離れた位置から、四人の様子をカメラに収めていた。「シャッター切るタイミング、今が一番いい」と呟きながら、悠真と紗奈が並んで花火を見上げる後ろ姿を一枚、残した。




 花火が終わった後、紗奈は珍しく最後まで会場に残った。


「今年、最後までいられた」


「無理してないか?」


「してない。今は、本当に大丈夫」


紗奈の声には、以前のような取り繕いがなかった。悠真はその言葉を、そのまま信じることができた。




 帰り道、二人だけになったところで紗奈が言った。


「去年の私と、今年の私、ちょっと違う気がする」


「どう違う?」


「去年は、楽しいって思うことに罪悪感があった。今年は、楽しいって思っていい気がする」


悠真はその言葉を、しばらく黙って受け止めた。


「それでいいんだと思う」


「うん」


二人は並んで歩きながら、夏の終わりに向かう夜道を進んでいった。




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