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ベストフレンズ  作者: 菊池まりな


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第27話 声を上げること

翌日。


紗奈はクリニックに電話した。


約束通りに。


その日の午後、緊急で診察の枠を取ってもらえることになった。


由美子さんが付き添った。



悠真は学校で、それを知らずに過ごしていた。


授業中もスマホが気になった。でも紗奈からは何も来なかった。


放課後、恒一と二人で中庭のベンチに座った。


「話せるか、って言ってたな」


恒一が言った。


「うん」


「紗奈のこと?」


「……昨日の夜、消えたいって言ってた」


恒一は何も言わなかった。


ただ、少し前のめりになって聞いていた。


「お母さんの部屋に行ってもらって、今日クリニックに電話するって約束して。それだけしかできなかった」


「それだけ、じゃないだろ」


「でも怖かった。俺が気づかなかったら、って」


恒一はしばらく黙っていた。


それから言った。


「お前が全部を防げるわけじゃない」


「分かってる」


「分かってるか?」


悠真は黙った。


「お前が気づいて、電話して、お母さんのとこに行かせた。それは本物だよ。でも、それがあってもどうにもならない夜が来るかもしれない。それはお前のせいじゃない」


「……怖いんだよ、それが」


「そうだろうな」


恒一は空を見た。


「でもお前一人で抱えたら、お前が壊れる。そしたら紗奈の隣に誰もいなくなる」



夕方、紗奈から連絡が来た。


「今日、緊急で診てもらった。先生に昨日のこと全部話した」


「そっか。話せたな」


「うん。入院とかじゃなくて、薬を変えて、次の診察を早めることになった。あと、お母さんにも改めて全部話した」


「……よかった」


「お母さん、泣いてた。でも怒らなかった。ずっとそばにいてくれた」


悠真は画面を見つめた。


「紗奈、昨日約束守ってくれたな」


「守ったよ」


少し経って、もう一つ届いた。


「悠真が言ってくれたから」



その夜、悠真は自分の部屋で久しぶりにカメラを手に取った。


何かを撮りたかったわけじゃない。


ただ手に持っていたかった。


液晶に映ったのは、自分の部屋の天井だった。


何でもない景色。でも今、自分がここにいる。


紗奈も、今夜どこかにいる。


それだけで、今夜はよかった。




数日後。


学校の廊下で、玲奈が悠真に声をかけた。


「紗奈さん、最近どうですか」


「……少しずつ、かな」


「そうですか」


玲奈は少し考えてから言った。


「私、何もできていないですよね」


「そんなことない」


「でも」


「この前のファミレス、紗奈が帰り道で『玲奈が来てくれて嬉しかった』って言ってた」


玲奈は少し目を見開いた。


「……そうですか」


「隣にいるだけで、意味があることがある」


玲奈は頷いた。


「それは、悠真くんが一番よく知ってますよね」


悠真は答えなかった。


でも否定もしなかった。




三月の半ば。


紗奈と二人で、久しぶりに放課後を一緒に過ごした。


特別なことは何もしなかった。


コンビニで温かい飲み物を買って、川沿いを少しだけ歩いた。


紗奈はまだどこか、膜越しに世界を見ているようだった。


でも歩いていた。隣にいた。


しばらくして、紗奈が言った。


「春になったら、少し変わるかな」


「変わるんじゃないか」


「根拠は?」


「なんとなく」


紗奈が小さく笑った。


感情が薄いなりの、でも確かな笑顔だった。


「なんとなく、か」


「ダメか」


「……ううん」


紗奈は川面を見た。


光がゆらゆらと揺れていた。


「なんとなく、でいいかもしれない」




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