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第1話:史上初!適性率マイナス1000%の男

思いついたので連載します。

全10話完結予定の、とにかくコメディ全振りで突っ走る予定です。



麻琴(まこと)ちゃん、今日も健気で可愛いすぎぃ……!」


 大学の講義中、俺こと、松蔵(まつくら)大吉(だいきち)は、机の下でスマホの画面を凝視していた。


 画面の中では、俺の最推しである、ダンジョン配信者の氷野村(ひのむら)麻琴ちゃんが、一生懸命、バールのようなものを振り回している。


 麻琴ちゃんの配信の同接数は数十人ほどで、お世辞にも大人気とは言えない、はっきり言ってしまえば底辺配信者だ。


 だがしかし!


 麻琴ちゃんはリスナーのコメント一つ一つに丁寧にレスをくれる、最高に純朴で可愛い女の子(と、この時の俺は信じて疑っていなかった)なのである!


「はぁ〜。俺もダンジョン探索者になって、麻琴ちゃんとお近づきになりたいぜ」


 俺が凄腕の探索者だったとしよう。


 彼女が凶悪なモンスターに囲まれ、絶体絶命大ピンチに陥った時、颯爽と現れ、彼女を救い出したらどうなるだろう。


『大丈夫かい、麻琴ちゃん!』


『あ、ありがとうございます! あの、あなたのお名前を教えていただいてもよろしいですか? ……だめ、ですよね。だってあなたはステキでかっこよすぎるから。わたしなんかがあなたの名前を知るなんて、そんなの許されることじゃないですよね……』


『俺がステキでかっこいい? なら、それは全部君のためさ!』


『え、それってどういう……!?』


『俺は君に出会うため、この世に生まれてきたんだ! だから、俺のすべては君のもの。名前だってもちろん、教えるさ。松蔵大吉、それが俺の名さ!』


『大吉さん、好き……!』


『俺もだよ、麻琴ちゃん……!』


 間違いなくこうなる。


 そして、その夢を叶えるチャンスが、ついにやってきたのだ。


 ダンジョンが出現して20年、今ではダンジョンの存在が当たり前になっていた。


 で、そのダンジョンに入るのに必要な探索者ライセンスを取得できるのが、20歳からと法律で決まっていた。


 そして明日。


 誕生日を迎える俺はめでたく20歳になるのである。




 翌日、晴れて20歳になった俺は起きると同時にアパートを飛び出した。


「待っててね麻琴ちゃん! 今、迎えに行くから……!!」


 俺は自転車を爆漕ぎして、町の中心部にあるダンジョン管理庁——通称『探索者ギルド』の出張所へと飛び込んだ。


 写真を取ったり、書類を書いたり。


 探索者登録の手続きはスムーズに進んだ。


 そして最後に待っていたのが、探索者になるなら誰もが通る運命の儀式、『ダンジョン適性率』の測定である。


 適性率が高ければ高いほど、ダンジョンでモンスターを倒した時、レベルが上がりやすく、強力なスキルを獲得しやすいのだ。


 つまり、適性率が高い=ダンジョンで大活躍できる天才の証明というわけ。


「松蔵大吉さん、こちらの測定器に手を乗せてください」


 職員のお姉さん——通称『受付嬢』に促され、俺は緊張で汗ばんだ右手を測定器に置いた。


 絶体絶命大ピンチの麻琴ちゃん(妄想)を救うヒーローになるための、大事な第一歩なんだ! 頼む……!


 ピピッ!


 軽快な電子音が鳴り、


「こ、これは……!」


 受付嬢の顔が驚愕に染まった。


 その様子から、他の職員たちも集まってきて、同じようにその顔を驚愕に染めていった。


 俺からは見えない、おそらく適性率が表示されているだろう液晶画面を二度見、三度見して、それから一斉にザワつき始めた。


「す、凄いですよ、松蔵さん! こんな数値、今まで一度も見たことがありません!」


 マジか。


「そんなにすごい数値を叩き出したんですか、俺!?」


「もちろんです! 人類史上初ですよ!」


 やばい。どうやら俺の時代が来てしまったようだ……!


 職員たちが笑顔で俺に拍手を送り、


「歴史に名を残すよ、君!」


「誰か、記念写真を撮って!」


 などと、お祭り騒ぎが始まった。


 どうやら相当すごい、前代未聞の数値を叩き出したようである。


 俺と同じように、探索者になるために集まってきていた連中も、ざわつき始める。


「なんかあの人、すごいらしいぞ!?」


「え、そうなの!?」


「いいなあ、うらやましいなあ」


 羨望が嫌でも集まり、俺の鼻はぐんぐん高くなる。


 ……あ、でも。


 まだ数値を聞いてなかったな。


「で、俺の歴史的な数値の値、教えてもらっても?」


 カウンターに肘を置き、ちょっとカッコつけて訊ねる俺である。


「個人情報ですから、ここではちょっと」


 確かに、探索者にとって適性率は秘匿性の高い個人情報に違いないだろう。


 しかし、俺くらいの歴史に名を残すレベルになると、ね?


 むしろ大っぴらにした方がいいんだよなあ……!


「全然大丈夫ですから! 言っちゃってください! むしろ大きな声で、みんなに聞こえるように……!!」


「え、本当にいいんですか? ……まあ、松蔵さんがそうおっしゃるなら、言いますけど」


 周囲が固唾をのんで見守る中、さあ早く言っちゃいなYO! なんて心の中で思っている俺に、受付嬢がめちゃくちゃいい笑顔で言い放った。


「松蔵さんの適性率は……! なんと、マイナス1000%です……!!」


 職員たちが俺に向かって拍手する。


 俺はそれに余裕の笑顔で答えた。


「まあ、俺くらいのレベルになるとね、1000%とか当たり前ですから……!」


「いえいえ、違いますよ? 『マイナス』1000%です!」


「ああ、そうでした。俺としたことがついうっかり、マイナスを付け忘——え、マイナス? ちょ、マイナスってなんですか!? 俺、ダンジョンで大活躍できるんですよね!?」


「何言ってるんですか〜」


 そこまではめちゃくちゃいい笑顔だったのに。


「そんなことあるわけないじゃないですか」


 真顔で言うの、やめてもらっていいですか?


「通常、どんなに適性率が低い人でも『0』なんです。なのにあなたはマイナス。初めて見ましたが、おそらくダンジョンから『生理的に無理! 嫌! 受け付けない!』と嫌悪されていると考えるべきでしょうね。レベル? 一生上がりません。スキルや魔法? もちろん一生覚えません。探索者? 無理不可NGあり得ません」


 そこまでは真顔で、再び笑顔になった受付嬢が言った。


「やりましたね、松蔵さん! 人類史上初、歴史に名を刻んだ瞬間ですよ! おめでとうございます……!!」


 じゃないんだよなああああああああああ!!!!


 職員たちはみんな笑顔で拍手してるし、探索者になるためここに来ていた連中は生暖かい眼差しを向けてくるし!


 大ピンチの麻琴ちゃんを救って恋に落ちる! という俺の夢は、こうして一瞬にして散ったのだった。




 ――それから数日後。


 俺は探索者になることを潔く諦め、別の方法で麻琴ちゃんを応援することに決めた。


 探索者になれない?


 なら、働いて稼いだ金で、彼女の配信に湯水のごとく投げ銭すればいいじゃなーい!


 幸い、実家の家業を手伝っていたおかげで、体力と脚力には人一倍の自信があるのである。


 というわけで、俺は緑地に黒文字でロゴの入った、巨大な保温・保冷スクエアバッグを背負って、愛車のクロスバイクにまたがった。


 時給のいいデリバリー配達員である。


「というわけで、麻琴ちゃんへの貢ぎ代を稼ぐぜ!」


 スマホの配達員用アプリを起動し、オンラインにする。


 すると、すぐに初回の配達オファーが舞い込んできた。


 マ◯ドのハンバーガーとコーラのセットだ。


「で、お届け先は、と。……ん?」


 俺はスマホを凝視した。


 見間違いかと思って、何度か目をこすったり、瞬きもしてみた。


 だが、表示は変わらない。


 しかし、どう見てもおかしいのだ。マップに表示されているピンの位置が。


 町中ではなく、郊外の山肌――武蔵原(むさしはら)ダンジョンの入口を指しているじゃないか。


 詳細な住所を確認してみれば、そこにはこう書かれていた。


【お届け先:武蔵原ダンジョン地下100階の最深部、黒竜の玉座】


【メモ:置き配不可。部屋に入って直接手渡ししてください。コーラが溢れていたらバッド評価にします】


「そりゃ、コーラが溢れてたら俺でもそうするわ——じゃねえんだが!? おかしいだろ!? どう考えても!」


 ダンジョンの最深部?


 どう考えてもラスボスの部屋じゃねえか!


 アプリの規約上、一度受けた依頼を正当な理由なくキャンセルすれば、配達員アカウントが停止される恐れがあるわけだが。


「……よし、運営に連絡だ! 誰かの悪い冗談に決まってる……!」


 というわけで連絡したわけなのだが——。


『……あー、冗談でも悪戯でもないみたいなのでー。よろしくお願いしますねー』


「あ、はい——ってマジですか!?」


『マジですー。でわでわー』


 むしろ運営の対応が冗談みたいに軽いんだが!?


 それはそれとして——どうやらダンジョン最下層、ラスボスの元まで、マ◯ドのハンバーガーセットを届けなければいけないらしい。


 ダンジョン適性率マイナス1000%で、ダンジョンに『生理的に無理! 受け付けない!』と嫌悪されている、この俺が。


 どうなる、俺の初配達……!


 麻琴ちゃんへの投げ銭代、無事に稼げるのか——!?

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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