後日談、星海の向こう側へ
それから数日後。
気絶した僕はその後病院に運び込まれ、医者には「君、通り魔に刺されたって聞いたけど本当かね」と言われた。
京極先輩と燕先輩の顔を見たが、二人ともちょうどいい言い訳を考え付かなかったのか、その言葉に答えることなく目を逸らされた。
手で防いだと言うには刃の方向に違和感があるため、医者は明らかに訝しげな顔をしていたが、「そう言うこともありますよ」と僕が平然とした顔で言うと、怪しむのをやめてくれた。
どうやら自殺や脅しがされたのかと思っていたようだが、それは解消されたらしい。
「それで、そんな手になっていると」
紫苑は食堂で僕の話を聞きながら、まじまじと包帯の手を見る。
「それ、無事に戻るの?」
「少なくとも半年ほどのリハビリは必要みたいだ。それまでは、お椀と距離を取り続けるしかないな」
だらんと体の横に左腕を預け、右手でスプーンを握り、目の前の唐揚げ丼を掬う。
米粒がお盆の中でぽとぽとと落ちてしまい、少しばかり食べ方が汚くなってしまう。
「軽々に自分の手なんか刺すから。本当に、君は馬鹿だね」
「今さら何を言ってんだよ。僕が馬鹿なことは一番紫苑が知ってるだろ」
「そうだね、私が懇切丁寧に教えたというのに、九十九さんが教えた教科では赤点取らなかったしね」
それは燕先輩の依頼で共通することもあり、昨日のテストまで教えられていることをはっきり覚えていたことに起因する。
いや、この場合は何を言っても言い訳か。
「そんなこと言わないでくれよ、僕のバカさ加減に付き合ってくれるのは紫苑だけなんだよ」
「嫌だね、九十九さんに教えて貰えばいいじゃないか」
彼氏彼女でもないのに、こういうやり取りをするのはいかがなものか。だが、紫苑に教えてもらわねば、少ない点数が0に収束してしまう。それはなんとしても避けないといけない。
補修は、本来のテストと点数が合算されるんだから。
僕がどうにか頼みの綱を首の皮一枚でも繋げようとした時、テレビの音声が割って入る。
『速報です。本日、新しい星が見つける事ができたと、学会に発表がありました』
そのキャスターは淡々と事実を告げる。
発見したのはどうやら一人の女子大学生らしく、ある高台で天体観測をしていたところ、図鑑や論文にも載っていない星を見つけたようだ。発見した彼女はどうやら宇宙飛行士を目指しているらしく、テレビの特番で宇宙飛行士との対談が設けられていた。
その女子大生とはもちろん、「臥竜岡燕」だ。
憧れの職業でそれに携わる先達を見て、話は大きく盛り上がっていたが、彼女は一度夢が破れていた事を告白する。
落ち込んで、迷って、どうしようもなかった。
そう言っていた。
焦った宇宙飛行士はかける言葉を探していたが、キャスターがすかさず、「それじゃあどうしてまた宇宙飛行士を目指したんですか」と質問をする。
すると、彼女はこう答えた。
「星よりも高く飛ぶためです」
そう答える彼女に対して、宇宙飛行士の方は言う。
「だから、新しい星は『ツバメ』なんですね」
それに、彼女は小さく頷く。
「あれは指標なんです。私がそこまでたどり着くために、迷わないように、導いてくれるための北極星なんです」
彼女の笑顔を見て、僕は少し笑みを浮かべた。
「嬉しそうだね」
「当たり前だろ」
僕は窓の外、雲ひとつない、快晴の青空に想いを馳せる。
蒼穹の空には一羽の鳥が羽をいっぱいに広げ、風を存分に受けながら上昇していく。
「果たしてくださいね、先輩」
その鳥は空に吸い込まれるように、星海の向こう側へと消えていくのだった。
了。




