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月光の誓約 陽光の宿怨  作者: あるちー
第一章 終わりと始まり
10/21

10 信念と日常と散りゆく花

「ごめんなさい・・・・」


哀れなほど顔をボコボコにされた巧は、芝生に額を付けて頭を下げてきた。

どうしたものかと思ったが、ここ迄お仕置きというよりもう虐待に近い状態の巧を許す許さないもないだろう。

ああ、もちろん巧をボコボコにしたのは鈴鹿だ。

喧嘩に宿郷式を使うなとあれ程言ったでしょーってもの凄い形相で俺が立ち上がらせた巧みにドロップキックをくれ、マウント体制で殴る殴る。呆気に取られていた俺は、慌てて鈴鹿を羽交い絞めにしたが、速攻拘束を解きやがった。どんだけの力やねん・・仕方ないので呪力を使って体を強化して再び鈴鹿を引きはがした。整った美しい顔も怒りに歪み、もう鬼女といっても差し支えない程恐ろしい。余談だが、この一見以来、この日まで鈴鹿への告白が毎日途絶えなかったらしいが、この事件以来、鈴鹿の元にはきれいさっぱり告白してくる男子は居なく無くなったという。

そして『身近な学園のアイドル活発娘』という綽名も今では『身近なアイドル這寄る混沌鬼』に変わったとの事だ。こわっ。ちなみに玲にも『身近なアイドル不思議娘』という名で人気を博していたが、こちらは『身近な学園のアイドル癒しの女神』に昇格したようだ。巧のケガを甲斐甲斐しく治療してたからな、どうもあの惨劇の後で色々美化されてしまったようだ。


「ああ、まあ、同門なんだし、仲良くやろう」


そう言ったら泣き出してしまった。あまりの恐怖を味わった後だったので俺の言葉をお釈迦様か何かの様に慈悲深く胸を打ったそうだ(巧の後日談)。


「オレさ、あんま友達いなくてさ、うちの親父も宿郷だから厳しくて、ゲームとかも買ってもらえないからよけいでさ、そんで鈴鹿と玲が可愛いもんだから上級生とかがちょっかいかけてきてて、気づいたらぶん殴ってお山の大将になってたんだ。そんなところに彰たちがすり寄ってきて、中学生と揉めたから助けてほしいだのってやり取りしてるうちに友達気分になっててさ、あいつら、オレの強さを利用してただけなのにな。」


聞いてもいないのに修行前に寂しそうに打ち明けてきた。


「巧、鈴鹿からなんか聞いたのか? 例えば俺もゲームだ、テレビだ持っていないって」

「おう、そうなんだよ、なんか親近感わいてさ」

「まあ持ってない状況は同じだが、理由は全然違うからな?うちの親父は誕生日とか宗派が全く違うのにクリスマスだとかにそういうものを買い与えようとしたので、俺は断って、骨とう品屋とかで呪術関係の本を買って貰ってたんだ」

「ええ、自分で断って本??」

「お前な、古書ってのは高いんだよ。しかもコレクターもいるから、下手すると値段なんて天井知らずだ」

「はー、蒼太って変わってんなー」

「自覚してる。放っておけ」


変わり者でない人間が中学生で実家離れて内弟子になんてならないだろうよ。


「ははははははっ」

「何が楽しいんだ」

「なあ、蒼太オレと友達になってくれよ」

「は?」

「いいだろ、オレと仲いい同年なんて鈴鹿と玲なんだけどさ、二人は女じゃん?こう、色々あるわけよ」

「まあ言わんとしていることは何となくわかるが」


幼馴染とか漫画でみるといるだけでステータスって感じだ、更に容姿だけ言えばあの二人はトップであるだろう。しかし中身があれだとな・・・


「だろ、じゃあ決まりな!」

「おいおい、お前が思うより、俺は薄情で陰キャだぞ?しかもお前の元舎弟?の足を粉砕骨折させるような危険人物だ」


そもそも小学4年から引きこもりだ。コミュ障でないのが救いだな。


「そんなん知るかっ彰の奴は自業自得! それに俺歳近い奴に負けたの、鈴鹿以外じゃ初めてだったんだよ。」

「じゃあ悔しかったんじゃないのか?」

「まあそれもあったけどよ、それよりワクワクしてんだよオレ!」

「それが何で友達にって話に・・・」

「うるさいなっ決まりは決まりだ!」

「やれやれ・・・」

「ところでさ、蒼太ってなんでうちに弟子入りしたんだ?」


まあ、普通気になるよな。しかし、あまりベラベラと話す内容でもないしな・・・


「別に・・・」

「だってオレらまだ13だぜ?宿郷式の修行は嫌いじゃないけど、オレはもう宿郷に生まれた、だからこれは運命だけど、やっぱ面倒に感じるときもあるわけよ。そんな所にわざわざ居候迄して弟子入りしたんだ。気になるぜ」

「はあ、まあそうか、俺も巧と同じで9歳以降友人は居なかった。というより学校辞めたしな。」

「あ?え?小学校って辞めれるの?」

「ああ、そうだな義務教育だからやめられはしないんだが、まあ不登校ってやつだ。で、実家が神社なんだがその修行を初めてな」


なんだか今日の俺は口が軽いな。今までならこんな話絶対にしなかった。友達が出来たことに舞い上がってるんだろうか?よくわからない


「え?そうなん?蒼太んちって神社なんだ? なんかますます弟子入りが謎だぞ」

「その年にちょっと色々あって、母さんが亡くなって、妹二人の面倒を見るのと、神社の修行をする事でとても学校に行ってる暇がなかった」

「あ、わり、嫌な事聞いちまって・・・」


しょんぼりと肩を落とす巧。ああ、やはりこいつは単細胞で根はいい奴なんだなと分かった。


「別にいいさ、起こってしまったことは事実だ。まあその一件で俺は宿願を果たすことに決めた。宿願の為の人生を生きようと思ったんだ。」

「宿願・・・」

「それでな、そういう事に知見の深い母方の祖母が修行を見てくれて、そこで陰陽術も収めたんだが、それだけではまだまだ力不足って言われてな、そこで祖母の古い知り合いであるここを紹介してくれて、もっと力をつけろって言われたんだよ」


他人と接触しない俺が初めて過去を吐露した瞬間だった。その瞬間たった少しだったけど、でも確実に俺の心は軽くなった気がした。


「なんかお前、本当に俺と同い年?すでに人生語れるっておかしくない?」

「話についてきているお前も大概だとは思うが」

「いやいや、オレに蒼太ほどの壮大な人生は無い!お前凄いな」

「凄い・・のか?」

「ああ、すげえ!」


そうなのだろうか?結局俺は問題児でしかなかった。家族とも向き合っていたようで、そうではなかった気がする。特に父とは。そんな俺を巧は凄いという。いや言ってくれる。

自分に自信がないわけではなかったが、どこかで今の自分を否定している俺がいた。

そんな卑屈な俺をひっくるめて凄いと言ってくる巧の顔は笑顔で、本心からそう思ってくれている様だ。


「で、他に趣味は?」

「は?」

「だからさーゲームないなら時間を紛らわす趣味とかないのか?オレは釣りと喧嘩・・・はやめた」

「ははっ、やめたか。まあ懸命だな。そうだな、俺にはそんな暇はなかったよ、まあ強いて言えば掃除、料理、洗濯とああ、読書だな」

「掃除洗濯料理は趣味じゃないんだわー」

「おい、お前今かなりの数の敵を造ったぞ」

「知るかっつーか読書ってあれか?術系の古書読みとか?」

「まあお前の言う通り。昔から術の為の古文書や術書を読んでいたからか、普通に読書も趣味でな。新刊とかも気になったら読むが」

「へぇ、ちなみにどんな本が面白かったんだ?」

「んー、そうだなぁ・・・骨董品屋巡りで珍しい本を見かけてな、主人によると昔戦争で負けてGHQが禁書として焚書指定した隠し本だとか。興味がわいてな、少し値が張ったが、手に入れて解読しながら読みふけった」

「へー何が書かれた本だったんだ?禁書なんてそら恐ろしい内容だったんだろ?」

「いや、それは武士道について書かれてある、今は失われた、ただの心構えを説く本だった」

「なんでそんな本が禁書になるんだ?」

「さあな、怖かったのかもな。武士道を継承する日本人が残り、また増えるのがな」

「さっぱりわからん」

「武士道とは、死ぬことと見つけたり。って言葉、知ってるだろ?」

「ああ知ってる知ってる。なんか格好いいよな」

「そうだな、俺もその本を読むまでは同じように薄っぺらい理解しかしてなかったんだが」

「どういう意味だよ?」

「怒るな、俺も同じだったという事だ」

「ふーん?」

「なんかこの言葉って負け戦側の台詞で、例え負けようとも死んで主君を守る、みたいに感じるだろ?」

「え?そうじゃないの?」

「簡単に言うとその本では、武士道とは何事においても徹底し、本質を見誤らない事を説いていて、いざ戦いにおいて死ぬことと見つけたり、は勝敗とは違う次元をさしてて、負けようが死ぬことと見つけている以上、それは武士道を全うしたという事、逆に勝ってもなぜ死ななかったのかを自分に問い次への教訓にするみたいな内容でとにかく、必ずやり遂げる事が武士道に繋がっていくそうだ」

「すまん、難しくてわけわからねえ」

「だよな、俺も半分も理解できてないと思う。ただ、必ずやり遂げるという戒めは共感できてな」

「そうか、詳しくは理解できなかったが、でもオレも負けてられねえや」

「こっちは3年も遅れてるんだ、巧には勝てないだろ」

「ンなことねえよっ大体あの中庭でもすげえ体術使ってたじゃん」

「ああ、あれな、体術というほどのものでもない。武術を極めた人間には軽くあしらわれるさ。でもまあ、無理のない程度に身体は鍛えていたからな」

「へえ?宿郷式を学ぶためか?」

「今思うと祖母はそう考えていたんだろうな」

「すっげえばあさんだな!予地能力者みてえじゃん」

「巧、多分会う事はないとは思うが、うちの祖母に軽口をきくなよ、鈴鹿以上の罰が待ってると思え」

「な、なにいいいいい」


俺の言葉に巧は身震いし、そしてがくがくと頷く。 

そんな俺たちを余所に名残惜しそうにわずかに残っている桜の花びらが、宙を舞い落ちていく。

季節は新緑の春に姿を変えつつあった。





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